Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    晴れ🌞

    @easy_pancakes

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍃 🌹 🍀 🍓
    POIPOI 13

    晴れ🌞

    ☆quiet follow

    ガスマリワンライ「雨」
    描写はないですが多分事後なので苦手な方はご注意ください
    ❄️くん視点

    🍃🌹 ニューミリオンはここのところ雨続きだ。雨季というほどの雨季ではないのだが毎日空がどんよりとした重たい雲に覆われて、パトロールにも携帯用の傘が欠かせない。
     ここ数日ヴィクターは学会のためにパトロール任務から外れていて、ノースセクターのルーキーはふたりともマリオンについていた。ブルーノースシティは高い建物が多いので死角も多い。加えて雨の日ともなると視界が限られるので、レンはいつもよりも気を張ってパトロールに当たっていた。
     レンの能力は水との相性が悪くないので雨の日は嫌いではない。しかし接近戦を得意とするマリオンは雨天となると足場が滑りやすく、攻撃対象に向かってぐっと距離を詰める時に余計に体力を消耗するようだ。それでもトレーニングを人一倍どころか人十倍こなす体力オバケのマリオンのことなので、涼しい顔でパトロールをこなしているのだが。

    「あーーー疲れた、雨の日はイクリプスも家で大人しくしててくれねえかな」
    「ウルサイ、それに頭も服も乱れていて鬱陶しい」
    「雨と自分が起こした風でもうぐちゃぐちゃなんだよ。今日のヘアセットはかなりキマったと思ったのになぁ」
     いいからマリオンが鞭を手に取る前に黙ってシャワーを浴びればいいのに。ガストが体力を消耗したメンバーの空気を明るくしようとしていることはわかる。短くない付き合いで段々とこいつのお人好しな側面が分かってはきた。それでも今すべきなのはさっさとシャワーを浴びることで、明日のパトロールに備えて休むことが最優先だ。明日もヴィクターは不在でパトロールで回らなければならない範囲が広いのだから、十分に休んで体力を回復しないといけない。
    「ボクはパトロールの報告に行くからふたりは先に休んでいて構わない。レン、今日のイクリプスとの交戦で雨を生かして弾幕を作ったのは見事だった。ボクが躊躇せずに接近してトドメをさすことができたのはレンのおかげだ」
    「いや……あと少し早く弾幕を展開していれば左奥にいたイクリプスにも気づかれることなくマリオンが接近できたと思う。次はもっとうまくやる」
     レンの答えは及第点だったようで、マリオンは満足そうにレンを見て目を少しだけ細めた。
    「そうだな、それが分かっているんだったら次はきっとうまくやれる。あとガスト、」
    「ん?なんだ、マリオン」
    「洗面所を長く使いすぎるな、みんな迷惑している。夜寝るだけなのに妙な匂いのするよく分からない液体をたくさんつけるのはやめておけ」
    「パトロールの話じゃないのかよ!?あーいや……でもオーケー、分かった。今日はレンの邪魔にならないようにすぐに場所をあける、約束する」
    「そうしろ」
     言いたいことを言うと、マリオンはノースの共同生活スペースから出て行った。自分より小さくて華奢なのに、パトロールの後も背筋を正して疲れた様子をルーキーたちに見せないマリオンを見て、レンは次のオフの日にはトレーニングメニューをいつもの倍こなすことを心に決めた。
     

     レンは相当体力を消耗していたらしく、読書をしながら寝落ちしてしまったようだった。そして自分でも驚くことに目覚まし時計が鳴り響く音で目を覚ましてしまい、そして読んでいた本を枕にしていたことに気付いた、なんとも寝た気がしない。照明を消した記憶はないのだが、同室の男がレンのスペースの照明も消してくれたのかもしれない。
     完全には覚醒しない頭で共有スペースのソファに座ると、キッチンにラフな装いをしたガストが立っていることに気付いた。シャワーを浴びたばかりなのか髪の毛がなんとなく湿っていて、セットされていない髪の毛はあちこち跳ねている。やけにご機嫌な様子で調子外れの鼻歌を口ずさんでいるのだが、半分夢の世界にいるレンにとっては余計に眠気を誘うメロディで、開ききらない目を擦りながらソファに身を沈ませた。
     ぼやける視界の隅で、メンターたちの部屋のドアが開いてマリオンが出てくるのが見える。マリオンはあんな服を寝巻きにしていなかった気がするが、レンがまだ寝ぼけているからそんな気がするだけかもしれない。
    「オマエがボクの服をベッドから蹴落としたから寒い。それにすぐにココアを持って戻るって言ったのにウソツキだ」
    「悪かったって、昨日雨の寒い朝にはマシュマロを浮かべたココアが飲みたいって言ってただろ。マシュマロをどこに閉まったか分からなくなって時間がかかっちまったんだよ」
     マリオンは明らかにサイズの合っていないスウェットから指先を伸ばして、ガストの服の胸元を掴んでぐっと体を寄せたようだった。
    「シャワーを浴びたのに変な匂いがしない」
    「マリオンが好きじゃないって言うからな。一緒にいる時はつけないっていう掟だろ」
     満足そうにくすくすと笑うマリオンの声が聴こえる、いや、夢かも。レンはやっぱり自分は目覚まし時計なんかじゃ起きられなかったんだと目を閉じた。
    「それに頭もふわふわだ、まだちょっと湿ってるけど」
    「そっちの方が好きだって言うからな」
    「ふわふわしてる方がボクの顔に刺さってもイヤじゃないし、オマエの匂いがするから好きだ。でもボクを置いてベッドから出て行くのは好きじゃないし、ココアは一緒に作ったってよかったのに勝手なことをするから——」
    「悪かったって、少し黙ってろ」
     黙ってろ?やっぱりこれは夢だな。そう思いながらもなんとか目を少しだけこじ開けると、ガストが耳を塞ぐように両手のひらでマリオンの頭を掴んでいて、多分ふたりの顔が普通じゃ考えられないくらい近くて、マリオンが「んぅ……」と小さく声を漏らしている気がする。マリオンはこちらに背を向けているので何が起きていてどんな顔をしているのかは分からないが。
     とその時、ガストがうっすらと目を開けた。マリオンの頭ごしに目が合う。そう、目があったのだ。途端ガストが焦ったようにマリオンから距離をとると、今度はマリオンがガストの顔を挟み込むように手を伸ばし、整えられていないままの髪の毛に指を差し入れながら顔を寄せた。ガストの右手が落ち着きなく空中を右往左往して、まるでレンに何かを伝えたがっているようだ。ガストは左手でマリオンの肩をぐっと抱き、自分の胸元にマリオンを抱え込む。そして——
    (お や す み ! レ ン !)
     ガストが口をはっきりと大きく開けて、音に出さずに語りかけてくる。
     あぁやっぱりまだ夢だったんだな……レンは眠気に抗うのをやめ、そして現実と向き合うことを放棄して、今一度夢の世界に旅立った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💕💕💕💕❤💕💕💕💒💒💞💞☺👏👏👏💯💖🅾🌱🅰💲⛎Ⓜℹ®🇪♑💗💗😭💞👏👏👏👏👏☺❤💯☺☺☺💕👏🌂🌞👍👍☺💖💖💞💕💞💖❤😍💕
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    晴れ🌞

    DONE青の街にてお茶会を開催ありがとうございます!

    ホワイトデーまではバレンタインだし、無自覚両片思い強化月間です!
    🍃🌹「いや、お前らが気にすることじゃねぇって。マジで」
     空が白み始めたニューミリオンの大通りを、ガストはひとり足早に歩いていた。

     冷え切った朝の空気は鼻の奥を刺すみたいに冴えていて、呼吸するごとに肺がじわりと熱くなる。昨夜の酔いはすっかり覚め、残るのは鈍い頭痛と少しの後悔。吹く風に背中を丸めると、上着のポケットの中でクラフトビールの王冠がかちゃりと音を立てた。
    「ふたりで一度にしゃべったら何言ってるかわかんねぇよ。あー、まぁ後で俺も覚悟決めて見てみるって。飲みに付き合ってもらってサンキューな」
     ロイとチャックからかかってきた通話を終わらせると、ガストはスマートフォンのディスプレイのメッセージアプリに付いた、たくさんの通知にため息を吐いた。届いたメッセージは開く気になれない。反応したら最後、何人かの同期たちにとっておきのおもちゃとして扱われるってわかっているからだ。溢した白い吐息が空気に溶けぬうちにまたひとつ、メッセージを知らせる通知が表示される。こんな早い時間に事をおもしろがって連絡を寄越してきたのは、やはりと言うべきかニューミリオンきっての情報屋を自称するガストの同期だった。茶化すようなメッセージに続いてSNS投稿記事のリンクが送られてくる。
    5907

    晴れ🌞

    DONE捏造しかない研修チーム2年目の春
    無自覚にマリオンを好ましく思っているガストと、一歩踏み出したいかもしれないマリオンと、ほんのり甘いイチゴタルトのおはなしです

    DMH3の展示で掲載していました!見てくださった方、いま見にきてくださった方、ほんとうにありがとうございます!!
    🍃🌹 甘い、甘い、小麦粉と砂糖と卵の匂い。
     ノースセクターの共同スペースが焼きたての空気で満たされている日は、マリオンの機嫌がいい日だ。
     昼までのパトロールの後、弟分たちとのランチと買い物で束の間の休息を楽しんだガストは、陽が落ちる前にタワーに戻った。マリオンから明日も早い時間のパトロールなんだからあまりハメを外さずに早めに帰れと釘を刺されていたし、配属から一年半ほど経って、早出のパトロールの前の晩にアルコールを入れるものではないということくらいガストももう分かっている。
     帰りに寄ったスーパーマーケットで買ったものを冷蔵庫に入れようとキッチンへ行くと、そこには真剣な面持ちで鍋をかき混ぜるマリオンの姿があった。マリオン・ブライスは真面目で几帳面なようで、意外と大雑把なところもある。シンクには半分に割れた卵の殻がいくつも転がっていて、なんとなくガストは微笑ましい気持ちになった。時折マリオンがポケットにものを入れたまま洋服をクリーニングに出してしまって、ジャックに注意されているのを見ることもある。隙のない見た目とは裏腹に、マリオンにはそんな抜けたところもあることを、共に生活する中でガストは知った。
    4509

    recommended works