写占(安寧×鴆)真っ白な麗人が立っている。
吹き荒ぶ風の中シャンと背をのばし、周囲の阿鼻叫喚に心を乱す様子もない。粛清された"罪人"達で出来た丘の向こうに佇む姿はまるで天高くにあって、ブリキの翼も、塵すらも残さずに燃やし尽くす太陽のようであった。
対して私は他の"イカロス"達と共に打ち倒され、白銀の太陽を頂く丘の一部になっていた。汗と血と砂が口の中に入りジャリジャリとひどく煩わしい。肌触りのよかった深緑の服ももがく度に泥にまみれてボロ雑巾のようだ。塵ひとつ寄せつけない彼の麗人とはまさに雲泥の差である。
「私に勝てると思いましたか?ふふ、ねえ……"甘い世界にお住まいで?"」
「ッアアア、ァ、ァ……!」
耳に注がれたとびきり甘い声は耳を通り、喉を通り矜持を溶かした。ぐるりと熔岩のようになった矜持は胃のあたりをまわり、体内を引っ掻きながら叫びと共に喉を口を遡った。血は胃酸と一緒になってヒリヒリと喉を焼いた。
涼しい顔をする男を殴ろうにもとっくに体は限界を迎えていた。起き上がるどころか力を入れても震えるばかりで、地に擦りつけた仮面と頬に無闇に傷を増やし、手はたどたどしく地面に這わせることしかできない。
目の奥がやけにひやりとする。ポケットに入っていたはずのコインのようにもう血もこの体からこぼれきったのだろう。
……何もない。
所詮私も夢想に縋りつく愚か者の一人だったのだ。