犬王の色は稽古部屋から犬王の唸りに近い声が聞こえたので向かい戸を開けた。
「どうした、深刻な声で。悩んでいるのか?」
「あ、友有。うるさかったか」
「いや」
足を踏み入れると何か踏んだ。柔らかかったので引っ込まず感触を確かめる。
「これは布か?しかも滑らかだな」
「ああ、これは高級な糸を使った絹だ。透き通っているんだ」
「へえ」
今度は気をつけて絹を払うよう歩き犬王へ。
「沢山あるようだな。色んな色か?」
「そうだ、今度の竜中将に使う色をどれにするか悩んでいるのだ」
犬王は何度か傾げたのか分からなくなっていた。
「…将軍の前だからと悩んでないか?」
「んー…」
友有は犬王だけは不思議と色が見えていて出会った頃から色合わせていない。
「関係ない」
「だが」
犬王の言葉を遮る。
「今まで何のために唄い舞っていた?将軍の為か?違う、平家の呪いを成仏するためだろ」
「…そうだったな」
「だったら平家の亡霊を聞けばいい」
「それがな、亡霊も迷っているのだ。ずっと話し合っているが決まらん」
軽くため息をつく。平家の亡霊も悩んでるのか活発ではない。
見えない友有はぐるりと見回す。途中に犬王と同じ色が見えた気がした。見えた方へズカズカと向かう。
「(高級のに気にしないのな…)」
取ったのは桃色だった。
「これがいい、とても犬王に似合う!」
「は?これが?」
取った桃色の絹を犬王にかける。
「それで舞ってみてくれ。俺は弾くぞ」
「ちょ」
有無言わさず琵琶を弾き始めた。犬王は仕方なく舞ってみる。
~♪~♪~~♪
見ていた平家の亡霊が沸き始めた。犬王は想像が固まっていき、この色に合うような舞を自然と繰り出していく。
「この色イイな! 」
「当然!」
「この音もイイな!」
「当然!まだまだ弾くぞ!」
友有の目はヒラヒラと桃色が輝くのが見えた。
ああ、出会った時から──。