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    のくたの諸々倉庫

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    モブから見た数千年後の先生こうだったらいいのにな話(タイトル)

    ブロマンスを目指した結果モブ(女の子)が出しゃばりました。書いた人の傾向は鍾タルなのでご注意ください。

    先生の名前が違うのは、彼らと生きた時の名前を大切にしたかったとかそういう。

    彼の第一印象としては、「ひどく姿勢のいいおじいさん」だった。
     とはいえ見た目が老けているわけではなく、いっそ若々しいくらいの見た目をしているのだ。だから一瞬、自分でも混乱したくらいで。
    「こんにちは、リーさん」
    「ああ、こんにちは。3日ぶりか」
     言いながら歩み寄った先、長い黒髪が風に揺れる。周りのみんなはリーさんのことを、「かっこいいよね」とか「恋人いるのかな」とか、きゃあきゃあ言いながら見ているけれど──私はあまり、そういう話に乗る気分にもなれず。理由はあまり分からないけれど、だっておじいさんでしょ? というのが一番だろうか。
    「今日はひとりなんだな」
    「はい、みんな忙しいみたいで……リーさんによろしくって」
     歴史の授業の一環で、この璃月の歴史にとても詳しい彼を訪ねて以降、私とリーさんは時折、一緒にお茶を飲む友人関係にある。お互いに異性として意識せず、のんびりお茶を飲めるのは正直とてもありがたくて──時間があれば通ってしまっているこの状況を、彼女たちに知られれば怒られるだろう。
    「はは、ありがとう。
     それでは入るといい、今日はとてもいい茶葉が手に入ってな」
     言って微笑むその姿に、ああやっぱりおじいちゃんだ、と安心感でいっぱいになる。彼は璃月の歴史について、まるで見てきたかのように詳しいからそのせいだろうか。いやでもまるで太陽のように、だれに対しても平等に注ぐあたたかさのようなものも感じて。
    「リーさんは神様みたいですね」
     玄関をくぐり、私の前を歩いていた彼が、ぴたりと足を止める。そうしてこちらを振り向いて、「そう見えるか?」となぜか悲しげに笑った。
    「……え、まさか本当だったりします……?」
     なぜか彼にそう言われれば、疑うことなく信じられると思った。神様なんてものは信じない主義だけれど、今私の目の前にいるのは少し、何かが違うもののような気がして。
    「……はは、そうだなあ。俺は様々なものを見てきたからな、そのように見えることも……あるかもしれないな」
     その言葉だけ取れば、勘違いだと諭されているようにも聞こえる。けれどはっきりとした否定はないまま、リビングのソファにたどり着き。
    「……でも璃月の神様っていったら、確かずうっと昔に亡くなった岩王帝君だよなあ……」
     独り言のつもりで、落とした言葉のその直後。
    「……お前はこんな話を知っているか?」
    「ひえっ」
     お茶とケーキを手に、やって来たリーさんの声色は妙に真剣で。思わずびくり、と飛び上がりかけた私に、「ああ、すまないな」といつもの笑みが返る。
    「岩王帝君は実は生きていて、今もこの璃月のどこかにいるのだ、という言い伝えがあってな」
    「そう、なんですか?」
    「ああ、結局のところ岩王帝君が死んだことを認めたくない者たちの噂話が広まったのだろう、と俺は踏んでいるが。
     ……お前はどう思う?」
    「私、ですか」
     ケーキに合わせ、甘みのないお茶を口にする。そうして少し考えて、「もしかしたら、本当なのかもしれませんよね」と。
    「ふむ、どうしてそう思った」
    「だってもし、岩王帝君が生きていたとして……そのとき周りにはきっと、事実を知るひとが少しはいたでしょうし。その人を伝って、どこかに漏れた話だとしたら……さっきリーさんが言った可能性と合わせて、伝承として残るには充分じゃないですか」
     願いというものは確かに強力だが、それは誰もが同じものを持っていなければただの願望のまま、定着はしないだろうというのが私の持論だ。だからとリーさんに頬を染める友人たちを思い出し、私は小さく笑ってみせた。
    「もしかしたら岩王帝君には、好きな人がいたかもしれない。そしてその人にだけは、自分の正体を明かしていた、とか」
    「……はは、なるほどな。残念ながら俺には、そういった仲の相手はいなかったなあ」
    「……やっぱりですか、リーさん」
    「そうだな、お前になら教えてもいい。信じるも信じないもお前に任せるが、かつて死んだ岩王帝君というのは俺だ」
     言われてようやく、私が彼に見ていた印象の理由に納得がいった。なるほど確かに、彼はおじいさんだったわけだ。
    「色々あってな、神の座を降りることにしたものの……元からの長命はどうしようもなくてな。俺はずっとこの璃月で、お前たち人間を見守っている」
    「なるほど……じゃあ私の仮説は外れですね」
    「いや、半分ほどは合っている。俺の正体を知る者はそれなりにいたからな、あるいはそこから漏れた可能性もあるだろう」
     そうしてリーさんは目を細め、「今でも思い出せる」と私やお茶ではないところを見ていた。そして唐突に袖をまくり、左腕にある大きな傷を撫でて。
    「これは俺の正体を知る人間につけられてな。危うく腕を落とされるところだった」
    「ひえ……結構バイオレンスな方ですね……?」
    「いや、思えば結構にロマンチストだったさ。それでいて脆い、俺よりも人間らしくない人間だった」
     ……ああ、ちょっと分かった気がする。きっとリーさん、その人のことが好きだったんだろうな。
    「いや、好きかどうかと言われると……ふむ、どうだったのだろうな」
    「え、声に出てました?」
    「いや、顔にそう書いてあった」
     おそるべしリーさん、と内心冷や汗をかく私に、「それでも」と彼は目を細める。
    「人はいずれ死ぬのだ。情を抱かないようにと距離を置いたのは、俺の方だった」
    「……それで、その傷を?」
    「そうだな、いわば喧嘩別れというものだろう。この傷をつけた後、そいつは二度と……俺の前に現れることはなかった」
    「……なるほど、つまりリーさんにとってその人は……もうとっくに特別なんじゃないですか?」
     言われて数度、リーさんは目をまたたく。
    「こんな大きな傷を残したってことは、それを見るたび『あいつのせいだ』って思い出させたかった、ってことじゃないかと私は思うんです。そしてリーさんはもう、その術中にいるってことですよ」
    「……なるほど、そういう考え方もできるな。はは、なるほど……何千年かぶりに、一本取られたなあ……」
     そうして少しだけ眉を下げて、「会いたい、な」と呟く彼に。私はヒトと神がそばにいてはいけない理由を、なんとなく悟った。
    「あるいは……愛していたのかもしれないな」
    「分からないんですか?」
    「ああ、その顔も声も名前も何もかも……鮮明に憶えているのに、結局のところ分からないままだった」
     そしてこれからも、理解はしないのだろうよ、と。彼が浮かべたものは確かに、もういない「大切」を想う老人の笑みだった。


    「今日はありがとう。また茶を飲みに来てくれ」
    「はい、ありがとうございます。
     ……ねえ、リーさん」
     夕日を背負い、私はあえて彼に顔を見せないよう声を絞り出す。
    「人間は、死んじゃえば終わりですけど。リーさんがその出会いを後悔してないって、私には分かるんです。
     ……だから、だから……っ」
    「……ああ、そうだな。彼にとってもそうであったら、俺は嬉しい」
     ああ、結局泣いてしまった。これじゃあ声でバレバレだろうな、と思いつつ別れを告げて家路につく。
     きっともう、リーさんの元を「彼」が訪れることはないのだろう。そんな気がする。
     そして彼は、これからも消えない傷を抱えて……いつまでも、その笑顔に切なさをにじませて。私が死んだ後も生きていくのだろうな、と。
     そう思うだけで、なんだかひどく寂しかったのに。
     祈るための神までもがあのひとだなんて、残酷なことだと。
     結局家につく前に、また少しだけ──私は泣いてしまった。
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