伝えるのは、○○で。「……類、その、もういい加減……」
「やだ。司くんだって気持ちいいでしょ?もう少しこのまま」
僕の腕の中でうぐ、と言葉を詰まらす、愛しい人。
そんな僕の、視線の先には。
ピクピクと震えている犬耳と、ちぎれんばかりに左右に振られている、尻尾があった。
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それは、学校もワンダーステージもお休みとなった、ある日のこと。
いつも通り機材の調整をしていた僕のところにやってきたのは、レンくんだった。
大慌てで「司くんが大変なんだ!」と告げられ、急いで向かった先には。
犬耳と尻尾が生え、落ち込んでいる司くんと、そんな司くんを励まそうとおろおろする、カイトさんだった。
向かってる途中で、こうなったのは僕も関係していると言われたのも相まって、カイトさんから司くんを引き取ったのだが。
普段なかなか感情を言葉にしてくれない司くんの代わり、とでもいうのかのように。
感情が、尻尾や耳の動きにのって、表現されていたのだ。
ほら、今だって。
「い、い、いい加減にしろ類!ほんとに、恥ずかし……」
「いいじゃないか、こんな機会そうそうないし」
「もう二度とあってたまるか!」
「ああほら、落ち着いてってば」
そう言いながら頭を撫でると、気持ちいいのが耳がぺたんとなる。
当の本人は不服そうにしているけれど。
「……あ。そういえば司くん」
「ん?なんだ?」
「司くんのそれ、僕が原因だって聞いたんだけど、心当たりがないんだよね。何か知ってるかい?」
その瞬間、司くんの身体がびきっと固まった。
揺れていた尻尾も固まり、ぺたんとしていた耳もぴーんと立っている。
「……つ、司くん?」
「………………ないと」
「え?」
「………………言わ、ないと……ダメか……?」
顔を真っ赤にさせながら、いつもの声の大きさからは考えられないくらい小さな声で、言われたそれ。
その姿があまりにも可愛くて、顔が火照るのを感じた。
「な、なんで類が赤くなるんだ」
「いやその……司くんが可愛すぎて」
「かっ!?かか、可愛いなんて言うな!っん、」
僕の言葉に顔を真っ赤に染める司くんが愛しくて、顔中にキスを落とす。
鼻の頭、頬、耳、瞼、額。
キスをする度に、ピーンと尖っていた耳がぺたんとなっていく。
最後、その唇に触れずに、司くんの額に僕の額を当てる。
「ね、司くん。お願いだから、教えてほしいな?」
「…………やだ」
「司くん?」
「っ………類、だって、」
「……うん?」
「オレの、考えてること。わかったほうが、いいんだろ……?」
その言葉に思わず離れて司くんの顔を見る。
俯いてしまった頬にそっと手を添えて上げると、泣きそうな顔をしていた。
…………まさか。
「……まさかだけど、司くんに犬耳が生えたのって、」
「だ、って。いつも類は想いを伝えてくれて、身体でも表してくれて。でもオレは、嬉しいのに、したいのに、恥ずかしくて、何もできなくて、」
「………………」
言葉を紡ぐ度に、瞳が潤んできて、ポロリと溢れて。
それでも僕は、何も言えなかった。
「前に見た飼い犬みたいに、あんな風に類に想いを伝えられたら、って、そんなことばっか、考えて、」
「っ、あ……」
「……もう、見ないで、くれ。こんな、なさけなくて、こんなの、」
「こんなの、スター失格で「そんなことない!!!」」
司くんの言葉を遮るように言って、司くんの身体を強く抱きしめる。
司くんは僕の突然の大声にびくりと身体を震わせたが、抱きしめられていることがわかると、ゆっくりと背中に手を回してくれた。
それに応えるように更に抱きしめながら脳裏に浮かんでいたのは、数日前のことだった。
司くんとの買い物デートを楽しんでいたとき、前から来た飼い犬が、僕らの周りを嬉しそうに吠えながら近寄ってきたのだ。
突然のことに困惑してしまったが、どうも飼い主曰く元々とても人懐っこい性格のようで、僕も知ってる限りの喜ぶことをしてあげた。
あまりに想定通りの反応を返してくれるもので、結構楽しんでしまった気がするが。
まさかそれが、司くんを苦しめていたなんて。
「ねえ、司くん。聞いて」
「………………」
「確かに、この前の犬は可愛かったよ。僕の行動に、なんでも反応を示してくれていた」
「…………っ」
「でもあれは、喜ぶとわかっててやったことだし、それに反応を返すのかどうかは個体差がある。人と同じなのさ」
「そ、うだが、でも、」
「僕は」
また遮るように言うと、身体を離し、触れるだけのキスをする。
僕の言葉が怖いのか少し震えていた司くんだったけれど、キスをした瞬間に震えが止まり、顔を真っ赤に染めた。
「なかなか言葉にしてくれなくても、勇気を出して言葉にしてくれる司くんの方が、ずっと好きだからね」
「……で、でも、類だって、楽しんで、」
「そりゃあ司くんのケモ耳姿なんて可愛い以外の感想が見当たらないじゃないか!わかりやすいのはおまけみたいなものだよ!」
「……る、い…」
「それに、確かにわかりやすくはあるけれど、司くんが自分の言葉で伝えてくれる方がずっと嬉しいしね。
……まあ、言葉よりよく顔に出るから、言葉がなくてもとてもわかりやすい方だと思うけどな?」
「……っ!!!………ばか」
照れくさそうにぷい、とそっぽを向く司くんの頭の上で、付いていた犬耳が、光と共に薄くなっていく。
きっと後ろでは、尻尾も同じことになっているんだろう。
「さて司くん、もう君の感情を表すものはなくなるよ。……僕にどうしてほしいか、君の言葉で伝えてほしいな?」
司くんの前で両手を広げる僕に、司くんはそっぽを向いていた顔をそっと戻し、顔を真っ赤に染めながら、言った。
「 」
「……仰せのままに」
さて、司くんが、僕に何をお願いしたのか。
……それは、僕だけの秘密だ。