無題(2)サイド、K
知られなければ、それはなかったことにならないだろうか。
例えば、壁に落書きをして、それを誰かに見られる前に綺麗に消し去れば、そこにはただの壁があるだけで、汚れていた事実は落書きをした誰かの記憶にだけ残る。それつまり、なかったことと同じことだ。少なくとも、ケンの中ではそう定義した。
だから、これは、なかったことになる。
「ミカエラ」
静かに寝息をたてる弟の耳にそっと囁き、シャツの裾から手を入れる。決め細やかな白い肌をなぞり、自分とは違いまだ柔らかな腹に触れる。ふにふにとした肉の感触が手に吸い付き、それだけで体が熱を帯びた。弟の顔を覗き込みまだ寝ていることを確認し、髪に鼻を埋める。ミカエラの匂いを胸いっぱいに吸い込み吐き出すと、だんだんと腰が重くなり、抱え込んだ小さな体にそれをぐっと押し付けた。身動ぎ一つせず、弟はよく眠っている。それをいいことに、腰を少し揺するとそれが服の上からももにすれ、弱い快楽がびりり、と駆け上がる。
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