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    きりや

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    きりや

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    ふそパブ無配にしようとしてやめた冒頭

    アンアサ 「薬をくれ。ミセス・ローゼンタール。」
     ボロボロになった木の扉を力いっぱい押し、開口一番、半ば怒鳴りにも似た大声でイギリスはそう叫んだ。衝撃で舞い上がった埃が窓から入ってくる光に照らし出され、ふと綺麗だと錯覚してしまう。街道を覆う雪でもないのにだ。
     風化で面影のほとんどなくなったヒュギエイアの杯、蛇、緑色。もう何百年とそこで薬屋を営んでいる彼女は、カウンターの中から殊更ゆっくりと灰色の眼をイギリスへ向けると、上から下までくまなく観察してから杖の頭でテーブルを叩いた。呼ばれている。確信して踏み出す一歩と吐いた息。
    「魔女にでも視てもらったほうがいいんじゃないかい。」
    「そんな厄介なものが憑いているのか?」
    「さぁ、ワシには詳しいことは分からんがね。」
     ガタンガタンと音を立てて抽斗の開け閉めを繰り返す彼女の背は、曲がった腰を伸ばしてもイギリスの半分ほどしかない。そのうえ白に近い銀の髪は一つに束ねられ、皺の刻まれた顔には一切の化粧も施されてはいないが、若い時分には相当の美人であったことが窺える目鼻立ちだ。イギリスは並んだ椅子の中でも一等無事な一つを選ぶと、軽くハンカチで表面を払い、優しく腰をおろした。
     ギィと嫌な音がする。不快さに眉を顰めるのも束の間、彼女が両手に抱えた植物を適当に器に投げ入れ、すりこぎ棒で潰し始めた。青い、命の匂い。
    「酒の臭いがしないね。珍しい。」
    「飲んでもダメなんだ。気絶どころか冴えて、吐いちまう。」
    「重症だ。医者へ行きな。」
    「医者なんてアテにならないさ。なにせ俺達は人間じゃないんだ。」
    「…面倒だね。あんたら国ってのは。」
     そうこうしているうちに植物が粉になった。紫とも白ともつかない不思議な淡い色合いの山は彼女の手によって均等な丘にされてゆく。
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