アンアサ 「薬をくれ。ミセス・ローゼンタール。」
ボロボロになった木の扉を力いっぱい押し、開口一番、半ば怒鳴りにも似た大声でイギリスはそう叫んだ。衝撃で舞い上がった埃が窓から入ってくる光に照らし出され、ふと綺麗だと錯覚してしまう。街道を覆う雪でもないのにだ。
風化で面影のほとんどなくなったヒュギエイアの杯、蛇、緑色。もう何百年とそこで薬屋を営んでいる彼女は、カウンターの中から殊更ゆっくりと灰色の眼をイギリスへ向けると、上から下までくまなく観察してから杖の頭でテーブルを叩いた。呼ばれている。確信して踏み出す一歩と吐いた息。
「魔女にでも視てもらったほうがいいんじゃないかい。」
「そんな厄介なものが憑いているのか?」
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