クリスマスの良い子へ「メリークリスマス!」
そう言ってプレゼントを配る荘園の仲間たちの中にアイツもいた。普段の暗めな衣装と対照的な白い服を纏い、顕になった口元でニコニコとしている。
「ナワーブさん、プレゼントなの!メリークリスマス!」
「メリークリスマス。ありがとな」
受け取って礼を言えばエマは嬉しそうに笑ってレオの背に抱きつきに戻った。ロビーが袋を開けて美智子に見せている。中身は菓子らしい。
荘園のクリスマスは豪華だ。ターキーを丸焼きにして、最後には大きな大きなクリスマスケーキ。仲間達と騒いだ後は大人の時間。この日の為に取っておいたいい酒を開ける。デミに毛布を掛けられて1日を終える奴も少なくないだろう。
俺はその集団から1人抜け出した。アイツが振り向く気配がする。それに構わず廊下を歩く。後ろからは余裕のある靴音が付いて来た。
「ナワーブ」
「……寝る」
「そんなこと言わずに」
隣に歩み寄ったジャックに顔を逸らせば腕を掴まれ部屋へと連れ込まれた。
「如何です?まだこの服の感想を聞いていないのですが」
視線を上げていく。靴、スラックス、シャツ。
口元が見えて、また視線を逸らす。
「似合ってるよ」
「今日は視線を合わせてくれないんですね」
少し悲しそうな声だが、きっと彼はその理由を知っている。
「ナワーブ、寂しいな」
グッと顔を覗き込まれた。顔にぶわ、と熱が集まるのが分かる。
「ち、ちかいぞ」
直視できる訳がない。
色気が、あり過ぎる。
コイツが人らしい姿をしているのは珍しい。いつもと違うそれで既に緊張があるのに、その格好はなんだ。
この衣装を用意したのは荘園の主人か?白の長いコートを肩に掛けて、その裏地の赤がラインの良い腰を際立たせる。
そんな服装で口角を上げてみろ。
とんでもなく胡散臭いのにその余裕らしさが恐ろしい程に魅惑的。視線を合わせられるはずがない。
今日のお前は、いっそ暴力的だ。
「俺は、帰るからな」
もう爆発してしまいそうなくらいに心臓が鳴っている。幾らコイツと恋人とは言え、クリスマスだからと騒ぐ年齢でもない。いつだって同じ場所で過ごしているのだから。
足早に部屋を出ようとする。
「ねえ。今日はクリスマスですよね?」
耳元でした声にぞわ、と腰が疼いた。
優しく腕を回されている。それなのに逃さないというかの如く深く絡みついていた。
「良い子にはプレゼントをあげよう」
「…い、いらない」
甘い吐息が耳に掛かる。声が弱々しくなってしまう。ジャックの腕を解こうとした手は腕を掴んだまま動けない。
「じゃあ、私が貰おうか」
低い声。掴んでいた腕を掴み返されて胸に引き寄せられた。じゅう、と首筋を吸われる。
「私は『良い子』ですから。プレゼント、くれますよね?」
ばさり、とコートの落ちる音がした。