棚から牡丹餅ってレベルじゃ無いぞもー嫌です、あの頑固親父!分からず屋!と半泣きでくだを巻く富永の右手には湯飲みが握られている。中身は山の風、つまり酒である。
富永は先日、最も難しい手術の一つであるグリオーマの摘出手術を成功させ、実家を継ぐ決意をしてこの村を出ていった。
「お前は婿をとってその婿に病院継がせるから、の一点張りで……!こっちのことなんか聞きやしない!いえね?分かってますよ?女の上司に付いてきてくれる人なんて少ないことくらい!でも頭ごなしに言わなくったっていいじゃないですか!」
きゃんっ!と吠える富永は半泣きである。
「俺に案があるんだが、聞いてみないか」
「聞きましょう」
どぷんどぷんとたっぷり湯飲みに山の風を注ぐ。こんなやけっぱちのように飲んでいい酒ではないが飲まないとやってられないのだ。
「俺が婿に行くというのはどうだろうか」
「は、え!?」
「まず、相手は医者、婿入りという親父さんの希望はクリアしている。しかし俺はこの診療所と村を預かる身だ。病院はお前に任すことになるだろう」
「…………それ、Kにメリットあります?私ばっかり都合が良すぎますけど」
あるぞ、と
「お前と結婚できる」
「……………………………それだけ?」
「充分過ぎるくらいだが」