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    類に振り回される司

    お題「戦争とあの人」
    15分トレーニング 15

    2337文字(所要時間約5分)

    ##司類

    司は、いつもより遅い速度で歩いていた。家から学校へ向かう通学路。
     天気は晴れやかで上々で、春も過ぎ、初夏の爽やかな風が緩やかに頬を撫ぜてゆくような日だった。
     これだけ、良い日であれば俄然気持ちも昂ぶってくるというのが人間の性であるはずなのに、司の気持ちは前述の通りに全く晴れていなかった。かと言って雨のように吹きすさんでいるわけではない、どことなくぼんやりと暗い曇天で、もやもやと、薄暗い気持ちだけに取り憑かれているのだった。

     原因は、わかっている。単純な寝不足だ。
     昨日は両親が共に外泊し、咲希もバイトで疲れたといって早く寝てしまっていたのだった。
     だから広いリビングには一人だけ。
     折角なのだから、と浮足立って大画面のテレビを占領し、定期契約をしている映画サイトの扉を開いたのが運の尽きだった。

    「うう……」

     いつもどおりに進んでいるはずなのに、体が弱っているのかなかなか前へと進まない。
     何も学校が嫌な訳じゃない。
     けれど、この朝の通学という動作そのものが、寝不足の体には一番厳しいのであった。

     ぐるぐると動かない頭の中で、昨日、見てしまった映画のワンシーンが思い起こされていく。何年か前に、話題になっていた単純なアクション映画。時期を見逃してしまい、司は見逃していたのだった。軽い気持ちで見始めて、うっかりのめり込んでしまう。司の好きな、スターや感動の恋愛物語とはまた趣向が違ったが、平凡な人々が相違工夫をして難儀に打ち勝っていくその姿に、単純に惚れてしまったというのがその理由なのであった。
     一本見終わっても気持ちが昂ぶっているままだった。その監督の作品を続けて見始めてしまった。二本目は、初めと同じ趣向で満足できる物だった。三本目は、思った以上の出来ではなく、けれどそのせいで物足りなくなって次の作品へと手を伸ばしてしまったのだった。
     結果的に約八時間もぶっ続けで映画を見たことになり、形としては、ほぼ徹夜の状態で、今この場所にいるのだった。

     ふらふらと、まっすぐ歩けない自身の体を恨んだりもする。
     ほとんど寝ていないせいで、胃の辺りまでぐるぐるしてしまうというものだ。

    「う……」

     わざと大きな声でうめいてみるが、そんな面倒そうな高校生男子を支えてくれる者などはいなかった。少し悲しくなる。泣きそうだ。
     けれど、そのすぐ後ろから妙なざわめきが聞こえてきて、司は緩慢に後ろを振り返る。

    「は!?」

     彼が声を上げるか否や、目の前に飛び込んできたのは『いつもどおり』の異質な光景だった。
     ここは学校のすぐ近くだ。自然と、同じ制服を着た人間で少しばかり密度が高くなる場所だった。けれど、それら歩んでいる人々が一様に左右に避けている。そのまま見つめていると、最後に中央にいた女生徒が避けたその奥から、何やら変な物に乗った長身の男がこちらに向かってきているのだった。

    「類……?」
    「ああ、司くん! 面白いタイミングで会うね!」

     思わず「一体何をやっているんだ!?」と叫んでしまう。が、目の前にぐんぐんと近づいてくる彼の心には届かない。彼に近づいてきた青年は、下にボードと自動の車輪、そして体の前には一本のハンドルがついている謎の機械――所謂セグウェイのような乗り物に乗り、大通りを堂々と突き進んでいるのだった。

    「類……どこでそんな物を拾ったんだ?」
    「いいや、さっき完成したから早く使いたくってね。昨日の夜思いついたんだ。せっかく、毎日学校へ行っているんだから、その間にも面白いことができたらいいと思わないかい?」

     司の前でその妙な機械を止めるやいなや、妙なハイテンションで類は話し続けていく。
     この機械は、類のふとした発案から生まれたことや、今まで作ってきた獅子舞のデータを流用して思いの外簡単に作り出すことが出来たこと。そしてその耐重量や動作スピードなどが以下に優れているのかという事について、スラスラと言葉が落ちてくる。

    「お前、今日寝てないだろ……」
    「え? ああうん、多分寝てないね! でも、今日は何だかとても爽やかなんだ。司くんもこれに乗ってみるかい? 司くんのために、特別なボタンも作ったんだ。僕はここで降りるから、ぜひそのボタンを押してみてほしいな」

     妙にニコニコとした表情の類に少しだけひやりとした気持ちを感じつつ、朝からカロリーの高い奴と会ったなと思う。彼は寝ていないと言う。どうして、同じ条件でここまでテンションが違うのか。

    「……済まない、類。俺も今日寝れていないんだ。少し一人にしてくれないか?」
    「それは大変だね。体調でも悪いのかい? そんなに疲れているのなら、早くこれに乗って保健室へ行ったほうがいいよ?」
    「いや、いい……」

     ぐいぐいと謎の機械を押し付けてくる類を断りたいのだが、何故か押しの強い彼は折れる事をしてくれない。
     くらりと目の前が揺れていく。昨日見た、映画のワンシーンがまた思い出されていく。創意工夫……どうしたら、この窮地を抜けられるのか……。けれど、司の一般的な頭ではそれを処理することも出来ず、目の前はすぐに暗転してしまう。

     結果、後から聞いた話によると、司は類に抱えられた状態で、セグウェイに載せられたまま保健室へ堂々の通学を果たしたらしい。
     『とても目立ってましたねぇ』という保険医の少しだけ楽しそうな言葉も聞いた。目立つ。確かにスターなら重要な要素だが、自分自身の手で目立てないというのはどうしても不本意だ。

     司は誓う。これからは、類のペースに乗せられないように夜ふかしはしないと。
     そして、彼が謎の機械に乗ってきたその時は、すぐに逃げられるようにしておかなければならない。でなければ、一生、彼にこうやって振り回されてしまうのだから。



    [20210412]
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    TRAINING司の作るカリカリベーコン

    お題「嘘の夜風」
    15分トレーニング 20

    1372文字(所要時間約3分)
    妙に気だるい朝だった。目を開き、辺りを見渡すが照準が合わない。もぞもぞと動いてみるが、肩と腰が妙にぎくしゃくと軋んでいる。
     類は、元より低血圧である。だから起きがけの気分は大抵最悪なのではあるが、今日のそれはいつもの最悪ともまた違う、変な運動をした後のような気だるさがあるのだった。

    「類、起きたのか?」

     まだ起ききっていない頭の片隅を、くぐもった通る声が聞こえてくる。司の声。どこから声をかけてきているのか。それに、妙な雑音が彼の言葉に混じって聞こえ、よくよくその場所を判別できなくなった。

    「……起きてるよ、たぶんね」

     重い体を何とか起こしてみる。体に巻き付いているシーツがいつもと違う。自室にあるソファに投げ捨てられているシーツでも、家の中にあるベッドとも違う、少し手触りの良い物だ。それに、類は今、何も身につけていなかった。
     布団を通り抜け、ひやりとした風が入り込んでくる。少し回復してき思考が回り始めてからようやく、昨日、司の家に泊まったのだと思い出すのだった。

     司は、大学に入ってから一人暮らしを始めた。類はそんな彼の現状を甘んじて受け止めて、よくよく彼の家に泊まるよ 1422

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