地獄の心臓に寄り添って アークランドで勝ち取った特別講演を目前に、彼らが目指す夢はただ一つ。
自分たちのショーをより多くの人に魅せ、更に人々を笑顔にする。
そのために、今日はセカイで初めての打ち合わせが予定されていた。
類は朝方までに書き溜めた演出のアイディアを大量に。
司もとある舞台から着想を得た、脚本の立案をいくつか持っていた。
セカイには、それぞれが別の場所から集まることができる。
けれど、二人が類の部屋であるガレージに集ったのは、ひとえに恋人との時間が欲しかったからなのだ。
「今、とても演出について話したいのだけれど」
「確かにな。オレも、類に見せたい脚本がいくつもあるな」
向かい合い、そしてショーの資料もそばに置いて抱き合っている。
忙しい日々だ。
こんな場面でしか睦み合う事ができない。
だが、それ以上にショーへの時間が惜しく、ならばとその合間を縫ってだけ、短いふたりの時間を作っていた。
「類、いいか?」
「もちろん」
強く抱きしめていた司の腕の力が少し抜け、ぴたりと合わさっていた胸のあたりが離れていく。
まだ服は着ている。
けれど、数枚の布を隔てでも感じられる司の体温が愛おしかった。
類が少しだけかがんでやると、司の顔もゆっくりと近づいてくる。
「ん……」
甘くついばんでくる、司の柔らかなキスだった。
触れるだけでじんと体が火照ってくるようで、思わず声が漏れてしまう。
できるなら、ずっとこうして触れ合って、何度も愛をささやき続けていたい。
けれど、その夢に向けて走り続けていく彼は、その時間をさほど残していないのだ。
この瞬間も、あともう少しで終わってしまうのだろう。
だがこれでいい。
それでもいいと思えるほどに、彼とショーに向かう時間は彩りに満ちている。
司は甘えるような可愛らしいキスをして、しかし右手はしっかりとシャツの中に這わせてきた。
触れる温かな指先の感覚に、類はビクリと震えてしまう。
すると司が軽く笑うので、こちらも少し笑んでしまうのだ。
そんな彼に合わせるようにして、類も彼の引き締まった身体に触れる。
暖かな体温。
柔らかな幸福感に満たされている。
愛しているぞ。
そんな、司の慈しむような声に包まれて、限られた時間を噛みしめた。