ダンスホール エナメルのつま先が半円を描いてホールのウォールナットを滑る。手馴れた、優美なその動きはどこか儀式めいていて、今から特別なイベントが起こるのではないか、という期待を観客に持たせるのに充分な働きをした。
袂をなびかせ、白く染め抜いた桔梗を咲かせた和装が軽い足取りで目の前を通り過ぎていく。腰もとで翻るリボンのコサージュがメリーゴーランドのような鮮やかな色彩を振りまく。彼女たちは、まだ踊り慣れない学生じみた青年を操るようにステップを踏み、小洒落た伊達男に陶酔している素振りで、緩やかにも見えるスピードで回転する。
店内で演奏される、壮年の懐古主義の中で登場するような楽曲は、明らかに古式ゆかしいダンスホールとは年代が違った。だがそんな野暮は誰も口にせず、かつて東京を風靡していた熱狂の一端を、当時とは違って最先端ではなくなった流行を追う、ノスタルジーという一つのイベントとして消費する。もちろん、檸檬も蜜柑もあまり趣味でないのだ。
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