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    shishiri

    @shishi04149290

    マリビ 果物SS

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    shishiri

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    本当は餃子を食べる果物を書こうと思ったんですがねぇ……。二人のエロ本の好みを考えていたら、そっちが楽しくなっちゃいました。笑い始めの話になっていれば、結果オーライです……!

    Step by Step「あんた達も、若いのに律儀ねえ!」
     正月二日の昼前のこと。お年賀、なんて熨斗はついていないが、立派な包装がされた焼き菓子の箱を受け取った桃が、朗らかに笑った。
    「桃こそ、二日から店を開けるなんて働き者じゃないか」
    「新年早々、裸の女を見てヌキたい野郎がいるってことだろ?」
    「それよりも、物騒な仕事の情報が欲しいって若い男達が来るからね。たいした儲けにならなくても、店を開けておかなくちゃ」
    「それは気を遣わせたな」
    「だから俺達もこうやって気を遣って、高級な菓子を持って来たんじゃん。まあ、蜜柑のアイデアだけど」
     他に客のいない桃の店は省エネを心がけてでもいるのか、足元に小さな電気ストーブあるだけで、吐く息が白く見えるほど室内は冷えていた。それでも三人はカウンター越しに今年も変わらない雑談を交わし、笑い合う。
    「そうそう! あんた達にお年玉をあげなくちゃ。はいこれ、私のとっておきのセレクション!」
     毛並みの良いミンクのコートを羽織っている桃は、その下は相変わらず下着のようなペラペラな服装で、はみ出そうになっている豊満な肉体をゆさゆさと揺さぶりながら、それぞれに黒いビニール袋を手渡した。二人が聞くまでもなく、中身は商売品のアダルト雑誌だろう。
     檸檬が手にしたのは、乳輪のデカい丸々と張りのある両胸をボロリと衣装から溢れさせ、M字開脚で煽ってくる金髪碧眼の美女。ぽってりとした真っ赤な唇で、人参の代わりに黒ぐろとしたディルドを咥えているバニーの表紙を眺め、「うひょー! やるなあ!」と口笛を吹いた。蜜柑は、しとどに濡れた赤の襦袢がピタリと肌に張り付いている日本髪の年増美人が、微妙な角度で陰毛の黒い茂みを覗かせながら真っ白でボリュームのある尻をこちらに突き出している表紙をちらりと見て、眉を顰めた。
    「これじゃないのが欲しいんだが」
    「蜜柑お前、贅沢言うなよ!ってか、こういうのモロお前の好みじゃん。さすがは桃だぜ」
     檸檬は蜜柑の手から雑誌を取り上げるとパラパラとそれを捲り、「ほら、見てみろよ。お前ぜってえ、こういうの好きだろ? 」と蜜柑の顔の前に突き出してはウザがられ、手で払い退けられた。
    「桃、俺が頼んだものは?」
    「はいはい、分かってるわ! ほんのジョーク、笑い始めってやつよ。笑う門には福来るっていうじゃない? そもそも神代の昔から、エロスと笑いには密接な繋がりが……」
    「分かった分かった。その蘊蓄はまた今度、ゆっくりと聞かせてくれ」
     顰めっ面の蜜柑が手を差し出すと、桃は「せっかちねえ。蜜柑はセックスするときもそうなの?」とケラケラと笑い、カウンター下の引き出しを、紫色に染めた長い爪でガサゴソと探る。そしてようやく出てきた掌ほどの大きさのメモをカウンターに置くと、さっと内容を確認し頷いた蜜柑が、数枚の万札と引き換えに、ジャケットの内ポケットにそれをしまい込んだ。 
    「今年もご贔屓に!」
    「ああ、頼りにしてる」
    「あんた好みの雑誌も仕入れておくわよ!」
    「桃、俺の分は?」
    「もちろん檸檬のもよ。だからそっちの仕事がなくても、買いに来てよね!」
     ビニール袋に入れた雑誌を小脇に抱えた二人は、コロコロとよく笑う明るい声に送り出され、桃の店を後にした。

    「なんだよ蜜柑。お前、ちゃんともらってきてるじゃん!」
    「桃の機嫌を損ねるわけにはいかないだろ。欲しけりゃお前にやる」
    「俺は若い娘のほうが好みなんだよ。そういう上級者向けのは、気後れしちまってヌケねえ」
    「お前が気後れするなんてことがあるのか?」
     この日は風もなく、穏やかな陽気で。雲一つ無い青空の下、デパートや高級ブティックが並ぶ大通り沿いは、正月らしい華やかな装いの人々の往来で賑やかだ。その人波の中を、二人はいつもと変わらない足並みで歩いていた
    「まあな。ガキの頃連れて行かれたソープで、バアさんか? ってくらいの歳の女が出てきた話をするか? ありゃ、結構なトラウマだぜ。ヌクどころか赤ん坊扱いされて、萎びたおっぱいを吸わされるんじゃないかと思って、ビビったのなんの……」
    「なかなか笑えそうな話だが、遠慮しておこう」
     首元にふわりと巻いたカシミアのマフラーに顎先を埋めながら、苦笑いをしている蜜柑の顔越しに、檸檬は通りかかったデパートの入口を何気なく見やった。
    「あ、兜だ」
    「兜? こんな所にか?」
     足を止め、檸檬の視線の先を見てみると、確かに同業者である兜の横顔がそこにあった。
    「新年の挨拶ってやつをして、兜からもお年玉をもらうか!」
    「止めておけ。家族が一緒だ、迷惑がかかる」
     チラリと視線が交わったように思い、蜜柑は兜にだけ分かるよう僅かに頭を下げると、ロングコートの裾をひるがえし再び歩き出した。檸檬も両手をモッズコートのポケットに突っ込みながらその後に続き、蜜柑の隣を歩く。 
    「冗談だよ。隣にいたのは、かみさんと子供かな? 兜のやつ、たくさん荷物を持たされていたな!」
    「一家の大黒柱ってやつも、なかなか大変そうだ」
    「ああ。俺らには無理だ」
     でも、幸せそうな顔をしてたよな――。
     ポツリと漏らした檸檬の何気ない一言に、蜜柑も「そうだな」と頷いた。

    「腹が空いてきたな。どこかで飯でも食って帰るか」
    「いいねえ! 確かあそこの路地を二本入った所に、美味い中華屋があるって、前に桃が言ってたぞ。そこに行ってみようぜ!」
    「正月二日から店を開けているか?」
    「俺らみたいに働き者なら、やってるだろ!」
     歪みなく、きっちりと並べられた石畳の歩道で、艷やかに磨き上げた蜜柑のシューズの爪先が、一歩前へと踏み出すたびに陽の光を反射させる。その隣では、檸檬のバッシュが楽しげに、軽やかなリズムを刻んでいた。
    (終わり)


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