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    ジュリー稲

    @oryza_spontanea
    kmtぎゆさね小説only
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    ジュリー稲

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    【春水咲書き下ろし】
    キメ学ぎゆさね。付き合ってる二人。
    久々のデートに浮かれる冨岡だったが、当日朝、普段することのないやらかしをしてしまう……!

    俺の名前は冨岡義勇2 俺の名前は冨岡義勇。キメツ学園で体育教師をしている。
     今日は俺の最愛の恋人・不死川とデートの日だ。
     俺達は所謂職場恋愛中である。そして職業は教師という聖職。つまり、周囲に関係を悟られてはならない仲である。
     恋愛は自由だし、俺は不死川が恋人であることを恥ずかしいと思ったことは微塵もない。だが同じ学校に勤める教師同士の恋愛を、世間が必ずしも好意的に見てくれるわけではないことも理解している。かくして俺たちのデートは必然的に、普段の生活圏とは離れた場所になることがほとんどだ。
     その日はとにかく朝からついていなかった。
     まず寝起き。朝、目覚まし時計が鳴らなかった。まぁそんなものはなくても、体内時計の力で日頃は同じ時間に目は覚めるのだが、その日に限って体内時計が狂った。明日は不死川とデートだからとわくわくしすぎて、なかなか寝つけなかったせいかもしれない。
     ともかく、寝坊は寝坊だ。待ち合わせ場所の駅までは、電車で一時間ほど。自宅から駅までが徒歩十分。その他諸々を考え、最大限に見積もっても十五分以内に家を出なくてはならない。
     俺は慌ててベッドから飛び起き、大急ぎで顔を洗った。急いだせいで洗面台まわりが水浸しになり、その始末に時間を取られてしまった。
     着ていくものは幸い前日のうちに用意してある。姉さんと買い物に行ったときに見立ててもらった全身コーディネイトなので、これをそのまま着て何ら問題はないだろう。と思ったら、思いがけないところから問題が発生した。靴下に小さな穴が空いていたのだ。履いて気づく程度の穴なので、準備段階で見落としたらしい。つくづく俺は未熟だ。
     朝飯を抜くのは主義ではないが、食っている時間など勿論ない。俺は玄関に走りスニーカーを履いて、駆け出す前に念の為と持ち物を確認する。ボディバッグ(体に沿って斜めにかけるこのカバンはそう呼ぶものらしい)の中には財布、家の鍵、洗濯済のハンカチ。何かが足りない。ああ、携帯だ。どこだ。スニーカーを脱いで部屋に戻り、さほど広くない部屋をきょろきょろと見回す。
     携帯はベッドの枕元に放置してあった。俺は携帯を引っ掴み、カバンに放り込んだ。これでよし。何とか十五分の枠は超えなかったぞ。
     スニーカーを履き直して部屋を出る。忘れず鍵をかけ指差し確認すると、俺は駅へ向かってダッシュした。
     職業柄、足にはまぁまぁ自信はある。ちなみに、数学教師にもかかわらず不死川は俺より速い。すごいと思う。数学もできる上に足も速いとは。さすが俺の不死川だ。
     しかし世の中には足の速さだけではどうにもならないことがある。赤信号だ。なぜだか今日はやたら赤信号に引っかかってしまった。これでは足で時間を稼ごうとしても、ブレーキをかけざるを得ない。
     信号待ちの間も足踏みダッシュで待機しながら、俺は駅までの道を駆けきった。その勢いのまま改札を駆け抜け、ホームに駆け上がり、滑り込んできた電車に乗り込む。
     乗り込んだあとで、ふと不安になる。果たしてこれは正しい電車だったか?
     不安に顔をしかめながら車内の表示を確認すると、どうやら間違いは犯していないことがわかり安堵の息をつく。しかしそこにも落とし穴があった。電車は各駅停車だった。
     遅刻確定か、と俺は眉間に皺を寄せ、空いていた席に腰を下ろした。とりあえず、こういうときは報連相だ。不死川に、遅れる旨連絡をしなければ。
    ごそごそとカバンを探ってスマホを取り出し、待ち受け画面の隅に信じられない数字を見て俺は固まった。
     3%。
     電池残量3%。
     何ということだろう、充電されていない……!
     いや、俺は確かに昨夜、携帯と充電器を繋いだはずだ明日待ち合わせなんだからちゃんと充電しておけよォ、と、不死川にも言われている。俺が不死川の言いつけを守らないわけがない。が、現実は電池残量3%だ。
     とにかく、今できることをやるしかない。3%でも連絡分の一つくらいは送れるだろう。俺は通話用アプリを立ち上げると、人差し指でぽつり、ぽつりと文字を入力し始めた。
     このアプリでやり取りするのは主に不死川とだ。人目を忍ぶ間柄にこういった手段は欠かせないため、付き合い始めてから使い方を身に付けていったようなものだ。不死川は家族や伊黒たちともよくやり取りしているので目にも留まらぬ速さで文字を入力するものだが、もちろん俺はまだその域には達していない。
     ぽつり、ぽつりと寝坊したことを打ち込んでいると、電池残量が1%減った。何ということだ。俺はできるだけ急いで各駅停車に乗ってしまったことも付け加えると、遅刻する旨と謝罪の言葉を入力し不死川に送信した。
     既読はつかない。時間的に不死川も電車移動中だろうから、携帯のチェックをしてないのかもしれない。だがマメな性格の不死川のことだから、電車を降りたら見てくれるだろう。そう一安心して携帯をバッグにしまったとき、電車がガタンと大きく揺れて唐突に停車した。
     俺のみならず、周りの乗客も不審げな表情であたりを見回す。そこに非情のアナウンスが入り、俺の星回りにまた一つ不運を加えてくれた。
    『只今電車は電気系統のトラブルのため停車をしております――――』
     詰んだ。と、俺は眉をひそめて額を押さえた。




     電車が再び動き出したのは、たっぷり三十分は経ったあとのことだった。その間に命綱だった携帯の電池は運行予定確認ページをチェックしている間になくなり、不死川との約束の時間もまた過ぎてしまっていた。
     最後に見たとき、まだ俺のメッセージは既読になっていなかった。ということは、不死川は何も知らずに待ち合わせ場所で俺を待っているに違いない。
     学校ではそのコワモテの外見と相まってキレやすいと誤解されている不死川だが、根は優しい人間だ。家族をとても大事にしているし、俺のような欠点も多い人間を恋人として受け入れてくれた。そんな不死川だから、勝手に先に帰ったりはせず律儀に俺を待ち続けているに違いない。
     せめて一刻も早くメッセージを読んでくれ。それで俺の遅刻の罪が消えるわけではないが、事情を知らせることができないのはもどかしすぎる。後で怒鳴ってくれてもいいから、今は不死川に真実を知らせたかった。
     ようやく目当ての駅に着く。俺は同じように足止めを食らって苛立っている他の乗客と一緒に足早にホームに降り立ち、混み合うエスカレーターではなく階段を二段飛ばしで一気に駆け上がった。待ち合わせ場所は駅の改札を出てすぐ。む、西口だったか南口だったか……?
     ええい、ままよ。俺は直感を信じ、南口へ向かった。これ以上不死川を待たせるわけにはいかない。俺のその思いが、きっと正解を引き当てるはずだ……!
     南口の改札を出て(前の乗客が改札に引っかかってまた時間を取られるというおまけつきだった)、駅前広場に出ると中央に花壇に囲まれた時計が立っていて、その周辺が待ち合わせスポットになっているようだった。三々五々人待ち顔の者たちが散らばっている。俺はすぐさま視線を走らせ不死川を探した。途端に目立つ髪色の後ろ姿が視界に飛び込んできた。
     いた!
     まだ待っていてくれている!
     俺は自分の勘が当たったことに小さくガッツポーズをしながら、不死川目がけて最後のダッシュをかました。肩に手を伸ばし少し強引に振り向かせると、かすかに乱れた息を吐きながら口を開いた。
    「……っ、すまない不死川、遅くなった」
    「冨岡」
     不死川は目尻を長い睫毛に縁取られた猫のような目をくりっと見開き、まじまじと俺を見た。恐らく怒っているだろう。叱られるのを覚悟して唇を引き結び、不死川の言葉を待つ。
     と、不死川は突然崩れるようにして地面にしゃがみ込み、柔らかな髪をぐしゃぐしゃと自分で掻き回し始めた。
    「不死川……?」
    「無事、だったかァ
    「む?」
     俺は事態が飲み込めず、不死川の隣にしゃがんで首を傾げた。不死川は顔を上げ、俺の顔を真正面から見つめると明らかに安堵の表情を浮かべ、ふーっと大きく息を吐いた。
    「なかなか来ねェから、心配したわ」
    「すまなかった」
    「お前が乗ってくる線でトラブルあったって言うしよ」
    「電気系統に何かあったようだ」
    「連絡もないし」
    「すまん、携帯の充電が切れてしまって」
    「馬ァ鹿」
     小突かれたが、口調は柔らかかった。どうやら怒らせずに済んだらしい。しかしこんなに心配させるくらいなら、怒鳴られた方がましとも思える。
    「電源が切れる前に連絡を入れておいたんだが、見なかったか?」
     そう確認してみると、不死川はきょとんとした顔になって(こういう不意打ちの表情は意外に幼く見えて可愛らしい)、慌てて携帯を引っ張り出した。画面に素早く指を走らせ、目的の画像を出して目を走らせると、先程よりもさらに大きく深いため息を洩らして大きく肩を落とした。
    「通知、切れてたァ……ごめん」
    「いや、不死川は悪くないぞ」
     そう、元はと言えば、発端は俺の寝坊である。俺が寝坊などしなければ遅刻はしなかったし、遅刻する旨の連絡もせずに済んだし、通知が切れていても何の問題もなかった。
    「全ては俺の寝坊のせいだ」
    「……それもそうだなァ」
     不死川はあっさり俺の言葉を受け入れると、よっ、と勢いよく立ち上がった。つられて俺も立ち上がり、やり場のない手をもじもじさせながら不死川の言葉を待つ。
    「今日は全部お前の奢りィ」
     そのくらい、お安い御用だ。俺は大きく頷くと、右手で胸元をドンと叩いた。
    「任せておけ」
     不死川はそんな俺を見、目を細めて含み笑いを浮かべる。企んでいる顔だ。よし、不死川がそういうつもりなら、俺はどこまでも付き合おう。第一、それで恋人が喜ぶデートになるなら、願ったり叶ったりだ。
    「そんじゃァ、まずは…… 」
     気になっているスイーツ屋の名でも出てくるかと待つ俺の腹が、不意にぐぅぅ……と鳴った。しまった。朝飯抜きの効果(?)がこんな時に。
     俺は腹を抑えて不死川から顔を背ける。不死川がプッと小さく吹き出した。
    「ラーメンでも食いに行くか?」
     不死川の提案に、俺は赤くなりながらも首を縦に振る。寝坊などしてしまった俺の腹具合まで気にかけてくれるとは、やはり不死川は優しい男だ。
    「このへんに美味い店があるって、確か宇髄が言ってたよなァ」
     あたりをキョロキョロ見回しながら、不死川が歩き始める。俺は肩を並べて歩を進めながら、不死川の横顔に視線を注ぐ。
     俺の星回りの悪さも、不死川と合流できたことで解消されたに違いない。まだデートは始まったばかり。挽回の機会は、きっと巡ってくるだろう。
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