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    jelka87052396

    サークル:不見水

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    jelka87052396

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    血ハロ前。田舎の夏祭りで花火を見て欲情しあう2人。r18

    #ばじとら
    punIntendedForAHatchet

    線影 信号機の青が黄色に変わり、人びとが右往左往しだす横断歩道で、最後の1人になった少年の背中を一虎は目で追った。
     夕方5時の駅前ファストフード店は、放課後という時間帯もあって中高校生の客が多い。席についているのも会計に並んでいるのもほとんどが若い男女で、それなりに混み合っている。が、派手な髪と刺青が警告色のようにはたらいて、一虎の座る席の周りだけ見えないバリアでも張られているように空いている。
     店内の喧騒もいとわずガラス張りの窓際からじっと外を窺っていると、やがて有名進学校の集団が見え始める。白と黒の線上に取り残されているのは、その中の1人だった。
     制服の賑やかしい集団は駅の方へ歩いていく。しかし、遅れて歩く彼を振り返る者は誰もいない。人が上を向いて歩くとき、下で潰れていく蟻や雑草に見向きもしないように。

    「待たしたな」

     ストローで残り水を吸い込むと、背後から声がかかる。
     一虎の不機嫌の原因──場地は、ほんの僅か窺うような感じを含んだ視線を向けながら一虎の前に座った。そういう仕草に気づく時、一虎は粗野と評されがちな場地の真逆な一面を垣間見るようで、腹の奥底に疑念が沸きはじめる。
     もしかすると、場地は何かに勘付いていて、普段はそれを隠しているんじゃないか。人前では乱暴に振る舞ってはいるが、実際は皆が思う以上に、器用な真似ができる奴なのではないか。
     いちばん身近だったからこそ、侮れない奴。──2人の間に空いた時間と空間の余白を埋めるように、一虎は息を吐く。

    「遅い。…ま、間に合ってるけどな。なんだよ、急に呼び出して」
    「ンだよ。俺がお前と会うのに、理由がいんのかよ」

     クシャッと丸められたレシートがテーブルに転がる。場地の眉間にあらわれた動揺を、一虎は見逃さない。 
     気分転換に夏祭りどうよ、とメールが届いたのはつい昨晩のことだ。昼の熱気がくすぶる蒸し暑い夜。気づいていて放置していた2、3度の着信と、1通のメール。
     母方の祖母の地元で夏祭りがあるから、そこで花火を見に行かないか。そんな誘いだった。埼玉の山奥の辺鄙な場所まで、この暑い中バカバカしい。しかもバイクは取り上げられていて、行くとなれば電車か、場地と2ケツということになる。そのシーンを想像して、鼻で笑いそうになった。バカバカしいにも程がある。

    (なんで俺が、お前と、この暑い中を花火なんか見に行くんだよ。…)

     このところの一虎は、稀咲の配下達とつるむので忙しい。勢力を伸ばしつつある東卍に対して不満を抱く連中を扇動し、近々勃発するであろう抗争の火種を大きくする役目がある。
     抗争が始まった時どちらにつくのか、即答できない奴に合わせる顔はなかった。──ないはずだった。
     だが、ひと言でいうなら心残りがあった。ずっと、最後まで一緒にいてくれるという言葉をそのまま信じていたわけではない。
     ただ、あの言葉の真偽がずっと引っかかっているから、場地を突き放せないでいる。
     一虎は首を竦め、気怠げに笑ってみせた。

    「で。ケツに乗せてくれんの」
    「たりめーだろ。おら、出んぞ」

     丸まった紙屑が床に転がるのも構わず、場地は立ち上がって出口の方へ歩き出す。細身ながらもがっちりと締まった背中は、離れていた2年もの月日をまざまざと感じさせる。そして、嘘をついている人間特有のぎこちなさも。

    (──お前は俺に、何を隠してる?)

     本当なら、今すぐにでも胸ぐらを掴んで問い詰めたかった。無表情の下に隠した煮えたぎるはらわたを、引きずり出して見せつけてやれたらどんなに楽だろうか。だが、まだ敵か味方かはかりかねているうちは、心の乱れを見破られたくなどなかった。

    (お前が見せない限り、俺も見せるもんか。でないと、つり合わないからな。──)


    ***


     一虎の予想に反して、高速で2時間の道のりはそれほど苦なものではなかった。ネオン看板も迫ってくる星空も抜けて、熱風に火照る体温を連れられていくのは、むしろ不思議なほど心地よかった。

    「ほーら、もうついたアァ」

     場地が声を張り上げる。よく聞こえなかったが、声帯の振動がマシンの振動に乗って一虎に伝わる。風はびゅうびゅう向かってきて髪をもつれさせた。
     久しぶりの感覚だ。電車などでは味わえない、すがすがしいまでの自由。密着した体を通して、場地の汗と髪のにおいと、懐かしいあの一体感が蘇ってくる。
     高速を降りると素朴な風景が広がっていた。地の果てまで続いていきそうな国道を逸れて、細い道をうねりながら進んでいく。
     場地の背につかまり、後方へと過ぎていく太い松の木や煤けたガードレールを見送る。 川沿いに点々と見えていた集落の灯りは絶えて、何もない闇の中にマシンの嘶きと、名前も分からない虫の声とだけがさざめいている。そこに、ポツンと明かりが集まっている所が唐突に視界に入ってくる。

    「…辺鄙すぎるだろ」

    一虎はぼそっとつぶやきながら笑う。なんか言ったかァ、と場地が声を張り上げる。なんでもねぇよ、と叫び返す。
     人が集まっているのはどうやら小学校らしい。暗がりでもずいぶん古いのが分かる。
     祭りはもう終盤に差し掛かっていて、太鼓がドン、ドン、ドン、ドン…と同じリズムで刻まれる音が山間にこだましていた。
     ドン、ドン、ドン、ドン、…近づくにつれ、音はどんどん大きくなる。
     駐輪場でバイクをおりて、人だかりの方へと歩き出す。田舎とはいえ、そこそこの数の老若男女が集まっていた。

    「腹減ってる?」

     場地は視線をさまよわせながら訊いた。グラウンドにポツポツと開かれている出店は、もうほとんど店じまいの支度をはじめている。

    「減ってる」
    「だよな。あー、なんか残ってねェかな、……お、なぁおっさん!焼きそばまだやってねェ?」

     場地は屋台で油を売っている──売っているのは焼きそばだが──男に声をかけ、焼きそばを2つ調達した。こんもりと盛られた焼きそばを前に財布を出そうとするが、「いいって」と首を振られ、素直に受け取る。

    「1つずつで足りるか?」
    「足りねぇ。もう2つ買うか」
    「俺はあと1個でいいよ」

     場地は早足で屋台の方に戻って行く。入れ違うように、すぐ近くを浴衣の女が通り過ぎる。ひらひらと鮮やかな菊模様だ。一虎はそのうなじを目で追う。
     花火の打ち上げはすぐそばの河川敷で行われるのだという。ケータイを開くと時刻は8時半を回っていた。ドン、ドン、ドン、ドン、…という太鼓の音が止み、スピーカーから盆踊りの唄がどこか調子外れに鳴りはじめる。

    “月が出た出た 月が出た…”

     そんな唄につられて見上げた夜空に浮かぶ月は、東京と違ってやけにくっきりと見えた。煙突もビルも、遮るものは何もありはしない。

    「よー、買ってきたぜー」

     薄いナイロン袋を提げて場地が戻ってくる。グラウンドを半分スタンド席のように囲む階段は花火の観客で埋まっていたから、2人は隅のほうに移動して立ったまま焼きそばを食べはじめる。

    「なぁ。これ、味濃い」
    「祭りの食いもんなんか、ほんなもんだろー」

     鼻先に漂うソースのにおいが空腹を刺激し、ガツガツと焼きそばを頬張る。

    「うめぇ」

     笑う場地の口元には髪が絡みついていた。まただ、と一虎は思う。そうやってわざと隙を見せる。
     まるで、牙を抜かれたようじゃないか。俺はその気になればいつでも、お前に牙を向ける用意がある。それなのに、…だからこそ、癪に障る。

    「髪食ってる。汚ぇ」
    「うぉ、マジだ。最悪」

     花火の打ち上げを報せるアナウンスが聞こえる。あと15秒、10、9、8、7……会場からカウントダウンの声が上がる。

    「おっ!おい、上がるってさ!……3、2、1、……」


    …ドーーーン。パン、パン、パン。…


     破裂音がして、光線がアワを撒いたように一斉に弾ける。バラバラと火の粉がとりどりに散り、落下しながら夜陰へと溶けていく。

    「すげーー…。バクハツしてらぁ」

     隣で場地が焼きそばを垂らしながら感嘆をもらす。
     火花は何度も何度も覆い重なるように連続して開いては、どれも一様に跡形もなく散って消えていく。暗い夜空に光のすじを描いて。

    ヒュ〜〜…ドン、ドン、ドン。
    ドーン。ドーン。ドーン。パン、パン、パン、パン。
     
     地鳴りがするかというほどの大音量。
     グラウンドに響き渡り、遮るものの無い夜空に点々と散っては消えていった。


    ドーン。ドーン。ドーン。ドーン……ヒュ〜〜……パン、パン、パン、パン、パン、……

     
    「……」

     口の中に残った最後の焼きそばを、ゴクンと呑み込む。体の奥へと奇妙な熱狂が広がっていく。
     触発され、共鳴しているのだ。日頃は小さな物音でさえも気に障るというのに。どくどくと重く響く鼓動の音がたしかに聴こえる。  
     それは誰かが戸を叩いているようにも思えた。出せ、ここから出せ、と。
     
    「……なぁ場地、行こう」
    「あ?どこに」

    掻き消されないような大声で場地を誘う。3杯目を食べ切った場地は目を瞬いたが、服の裾を引っ張る力に負けて歩き出す。

    「なぁ一虎、どこにだよ」
    「…どこって、ひと気のないとこ。知ってんだろ?どこでもいいよ、別に」

     場地を見上げる一虎の両眼は恍惚と狂気とを帯びていた。人いきれ、衣擦れの音、木の葉のさやぎ、虫の声…すべてが諧調的でいて、火傷の痛みをくすぐるように官能を刺激した。
    享楽に身を委ねようとする一虎の腕を、場地は引き留めもせず、飛び散る火花の合間をぬって囁いた。

    「…廃校。こっからちょっと行った先の山奥にある」
     

    ***

     山へ続く道を横切る植物たちは青黒く、存分に生い茂って濃密な沈黙を落としていた。充満する荒廃の気配に、気味の悪さを覚えはじめる。
     家族旅行や学校行事で田舎に遊びに行ったことが無いではなかったが、こういう場所でどう息をしていいものか。そんな不安と恐ろしさに襲われるのだ。
     思い出すのは瀬戸内の、湿気の濃い暑さだった。父に連れられ歩いたのが、遠い昔のようだ。
     面白くもない景色を横目に汗をかきながら、緑の瘴気が満ちる中を懸命に歩いたものだ。いま思えば、都心のマンションで育ち、ほとんど緑や土のない場所で育ってきたのだから、不快に感じるのも当然だったのだろう。
     どんどん奥深くに進むにつれ、なま臭い緑のにおいに胸がむかつきはじめる。ふてぶてしく陰々と伸び茂る木々の葉は、ねっとりと重たくおどろおどろしい。

    「もうすぐだぜ」

    闇を裂くように場地が叫んだ。
    ブロロロ、と減速し、やがて斜面の上方に古い木造の校舎がヘッドライトに照らされて浮かび上がる。戦前の建物なのだろうか。後から取ってつけられたように、後方に狭いプールがある。祭りの時の小学校も古かったが、こちらはもっと酷かった。窓ガラスはひび割れ、風雨に晒されている部分は灰色に朽ちかけている。
     扉はどこもかしこも鍵がかかっていた。窓ガラスはあちこち叩き割られている。場地は「ここ、まだ残ってたんだな」と呟いていた。
    ヘッドライトを中に向けて車体を停め、窓枠を乗り越えて入る。教室の中は案の定、過去の先客たちによって荒らされていた。

    「気をつけろよ。ガラスが落ちてる。…」

    黒板は白く汚れ、教卓らしき長机や椅子、机が教室の隅に固めて積まれてある。黒板には日付が書いてあった。ほんの4、5年前のもので、ここが教室として使われていた当時のものでないことは明らかだった。

    「みんな考えることは同じだな」
    「…なにすんだよ、こんなとこで」

    場地が戸惑いながら訊く。暗がりでその表情は見えない。無性に哀しくなって、すぐ傍にある体温を感じるために場地の腕に絡みつき、互いの体の感触だけに集中する。

    「分かってんだろ」
    「…分かんねェ。お前の考えてることが」
    「はん。分かってたまるかよ」

     意味がないと思いながらも恨めしく睨みつける。正面から密着すると、場地の長髪が首元でこすれる。
     少年院でも序列というものがあって、ひとたび弱者の烙印を押し付けられれば、それに抗うのは難しい。
     雌に飢えた雄どもにとっては、一虎の容姿は恰好の獲物だ。だから、あそこでは1秒も気が安まることはなかったし、文字通り血のにじむ苦労があった。
    ──それを、のうのうと髪なんかを伸ばしているお前に、理解されて堪るものか。
    一虎は場地の髪を撫でながら、音もなく忍び寄る何者かへの怯えを払拭しようとするように微笑む。

    「お前。酒も、タバコもやらねぇんだ」
    「あぁ」
    「俺と一緒だな。そんじゃあ、なにが一番楽しいか分かるだろ?」

    下、触ってやるよ。そう言って場地の足元にかがみ込む。デニムのチャックを下ろし、ボクサーの布地をあらわにする。場地は抗おうとせず、されるがままに任せていた。
    窮屈そうな布地から引っ張り出した竿はすらりと若さを漲らせ、持ち主の顔に似合わず逸楽に耽ることに貪欲さを見せていた。どくどくと熱く滾る筋へと指を這わせると、途端に内部が芯を持ちはじめる。

    「…フッ。体は正直って、本当だな」

    亀頭冠はすでに先走りで濡れはじめていた。場地も立派に、健全な雄というわけだ。鼻先を近づけ、つるつると光る表面に舌を這わせてやる。すると腰が急に硬直したように反応して、場地が深呼吸をする。そして、一虎の髪を柔い力で掴んだ。

    「こんなこと、他の奴にもやってんのかよ。…」
    「…それ、今度言ったら噛みちぎんぞ。本気だからな」

    ぱく、と先端を咥えると場地は息を詰めた。ぬろぉ、と喉奥まで竿を通して、一度唇を離す。
     教室の隅に固まっている中から長机を引っ張ってきて、乱暴に置いた。自分のボトムスを下ろし、パンツも脱ぐ。場地はじっとその場を動かない。ライトの明かりに照らされた頬は紅潮している。

    「今からオナるから、そこで見とけよ。それと、お前はオナるの禁止だから」

     薄笑いを浮かべて指図する。笑顔はどんな醜い本性も隠してくれるし、懇願も命令には及ばない。どちらも、幼児でさえ誰に教わることなくできるようになることだ。
     それは一虎にとって、いつしか便利な道具のようになっていた。子供時代から、どんな他愛ない感情でさえ自分の本心を他人に悟らせるのは罪であり、苦痛そのものでしかなかったから。
     
    「んっ…はァ、…ンッ……」

    竿の付け根を指全体で包むように触れ、そっと筋をなぞる。浮き出た血管がビクビクと反応し、海綿体へとジクジクとした昂りが集まっていくのを感じる。

    「ンン……ンッ……ふ、ンッ……」

    さざ波のようだった刺激は徐々に等間隔のリズムを刻みはじめ、心臓の鼓動と呼応しはじめる。
    ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、……血液が高鳴り出し、息も上がってくる。竿をしごく手は、ますます速さを増していく。

    「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ッ」

    脳みそが、全身が顫えだしていた。真っ白い逸楽の大波が上がってくる予兆だ。ごちゃごちゃと煩いノイズを押しのけて、驕慢な絶頂が押し寄せてくる。あの途方もない征服欲でもって、登り詰めた先で何もかもを蹂躙して、すべてを更地にしていく──。

    「…ぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ぅッ、うッ、ふぅッ、んぅッ、ッ、ぅぁ、──……」

    視界が弾け、全身は顫えながらその蹂躙に屈服した。なすすべもないまま、縛りつけられたようにそこから動けなくなる。周囲の輪郭はわんわんと唸りながら歪んで、目の前の相手が誰なのかも定かではなくなる。やがてゆたかな長髪が仄白く浮かび上がり、その下にやや不揃いな太い眉が見えた。
    ああ、どうしようもなく俺は雄だ。
    竿に血液が集まりすぎていて、頭がぼうっとする。はぁはぁと息は荒く、体は弛緩し、股間の熱が余韻でじんじんと痛む。
    なのに、どうかしている。こいつは女じゃない。錯覚しているのとは違う。場地も同じ雄なのはわかっていて、どうしてこうも執着してしまうのだろう。

    「…ら、一虎、おい、一虎」
    「……へ……、……」

    揺り起こす手の力に、酩酊のような気分から引き戻される。
    ふらふらと覚束ないままでその手を掴み、腕、肩、頸筋、頬…と、相手の熱の輪郭をたしかめる。
    喉元へ降り、胸をたどって、下腹…そして布地にしまわれた竿へと行き着いた。そこは湿気を持ち、しっかりとかたく重くなっている。

    「…俺の見て、興奮したんだ」

    立ち上がりながら場地の耳に唇を充て、息を吹き込むようにする。まだ息は上がっていた。
    ビク、と反応する体。一虎は場地の耳朶をべろりと舐めあげる。

    「…なぁ、知ってる?男同士はケツの穴でヤるんだ」
    「…なに言ってんだ」
    「冗談だと思うだろ?けどさ、ヤれるモンならヤってみっかって思わねぇ?…手伝えよ、場地」
    「…手伝うって、どうするんだよ」
    「簡単だよ」

    一虎は長机の上に大股を開いて座った。そこがどんな形をしているか、──2年でどう変わったのか、場地によく見えるように。

    「俺がケツの穴をほぐすから、お前は俺のケツに唾液を垂らし続けてくれりゃあいい。そしたら滑りがよくなって慣らしやすくなるから。…な、簡単だろ?」


    ***

    場地がどちらを選ぶのか、一虎は待った。
    事件のあの日、場地はしきりに一虎を止めようとした。一か八かの賭けだということは、さすがに頭でわかっていたからだ。
     二人三脚の綱渡りでどこまで行けるか。あの日、どこまでも続いているはずだった綱は一度切れた。
     今、自分を見下ろす場地は無言だった。
     全身の脈搏つ音が聴こえる。そして、音もなく自分たちを呑み込む植物たちの不気味な気配も。

    「…どうすりゃいい」

     場地は淀みのない声で訊いた。しん、と張り詰めたように教室は静まりかえる。
     一虎はゆっくりと目を瞬いた。まだ、繋がっているのか。驚き、期待、安堵のない混ぜになった感情が広がる。繋ぎ目の強度が確かなものかどうか、試したくなる。

    「そのまま、舌垂らして。…そうそう。穴のとこに、ヨダレを落とすんだよ」
     
    唇が開かれ、隙間から長い舌が伸びる。つうぅ、と一本の唾液が蜘蛛の糸のように垂らされて、ライトの明かりが銀の影を浮かび上がらせる。その透明でほそい線はだんだんと太く粘度を増し、やがて一虎の上に落ちた。

    「ん、…」

    両の指で開いた後孔の窪みに粘液はゆっくりと溜まっていった。一虎は胎児のような格好で、滴る甘い陶酔の中に浸る。ぬらりと溢れるたびにもどかしく、懸命に指で秘裂を広げる。

    「ぁ、ン…んん……もっと」

    狭隘な肉襞の間を、粘液は少しずつ焦らすように吸い込まれていった。満たされようとすればするほど、渇きは抑えられなくなる。指で粘膜の中をぐちゃぐちゃと掻き回して、受け皿を広げようと躍起になっていく。

    「ァ、ン、んァ、ア、あぅ、ぅああァぅ…」

    悦楽がめぐり、体は熱を持ちながら顫えはじめる。
    場地の顔はいつのまにか、すぐ間近まで降りてきていた。伸ばした舌はもう秘裂に届きそうだ。長髪の毛先が太腿をくすぐった。
     顔はだんだんと近づき、窺うような一瞬の後──柔らかな感触が秘裂を覆う。周縁をなぞり、細かな溝をたどって、中心で物欲しげに口を開けている入り口へと這わされる。

    「ァ、アァぁ……ッ!」

    こぷこぷと泉がとめどなく湧き出で、内部は充溢の悦びに収縮を繰り返した。喉から絞り出る金切り声は、どこまでも強欲な性をひっきりなしに漏らし続ける。

    「…もっと、もっと、もっと!!!!」

    悲鳴じみた声が教室内に、森の中に反響する。誰にも知られずにこうしているはずが、誰とも分からない視線を四方八方に感じる。
    それは予感であり、恐怖だった。
    鬱蒼と茂る木々のざわめき──もの言わず、人に気づかせぬ間に樹液を、根を、枝を張り巡らせて、闇を抱き込みじっと蹲る者たちの気配。 
    ヘッドライトの微弱な明かりだけが、今こうしている手がかりだった。

    「なァ、場地、指いれてよ、指……ッン、…!!ンぁ、ア、ぁ、…!!ゆび、きもちぃ、……っ!!!」

    中の肉襞を掻き分けて場地の指が入ってくる。中指が腹の裏側を擦りながら奥へ奥へと進み、悶えながら身をくねらせる。一虎の反応がいい所を、場地は指の腹で何度も擦った。繰り返される摩擦。口許には唾液が泡となって溢れる。

    「あッ、えひ、ん、っほ、ァ、、ォ、ん、…ッッ」

    奥へ奥へ導こうとする肉襞に、みっともない喘ぎ声が漏れ、眉間に刻まれた皺が深くなる。内側の肉襞をズルズルと擦り上げられるたび、腰がビクついて堪らなくなる。
    みだらな肉の壺はそれ自体が別の生き物のように貪欲に絡みついて、キュウキュウと切なげに食い締める。

    「っ、ッ、ん、ぅ、んッ、っ、ぁ、あッ、あ、、ぁッ、」

    指の抜き挿しが早まり、荒々しい突き入れに変わっていく。それに合わせてだんだんと水音も大きくなっていく。
くちゅくちゅくちゅくちゅ、ぬちゅぬちゅ、ぬちゅぬちゅぬちゅぬちゅ。
    浅い部分、そして内側の肉襞を擦りあげる粘着質な音。2本目の指も、難なく呑み込む。

    「…すっげぇ音」
    「っ、あっ、はっ、はぁ、は、っ」

    全身から発汗し、剥き出しの肌がじっとりと濡れている。中から断続的に響いてくる“こちゅこちゅ”という音が、腸液と唾液の濃密な混ざり合いを伝えてくる。

    「ぁ、も、あ、あ、……」

    (ぉ、おく、おく、だめ、だめだ、もう、もう、もっと、ダメ、もっと、ッ…)

    自分が自分でなくなってしまう感覚を、掘り起こされる。体の中から作り変えられてしまう。
    このまま続ければ、自分ではない別の生き物がどんどん体を侵食して、そのまま成り代わってしまうかもしれない。
    ──そんな風に危惧していた頃もあった。
    もしそうなったら、マトモを演じ続けられるだろうか?そんなことを考えるたび、心臓を掴まれるような苦しみが襲った。
    だが、今は違う。もう引き返せない所まで来てしまっていた。偽りの平穏を守り続けることなど、できそうもない。それでも、場地は黙ってついてきてくれるのだろうか。

    「ぁ、イく、イく、イッぐ、イグ、ぐからっ、も、、ぁ、」

    ビクビクビクッ!
全身が大きく震える。
顔を真っ赤にしてふぅ、ふぅ、と激しく息を荒げる。はぁ、はぁ、と呼吸を荒げ、顔を歪めながら、一虎は無駄な足掻きと知りつつも見下ろしてくる場地の視線から顔を逸らす。

    「はっ、はっ、はっ、ハ、ッ……」

    ビク、ビク、とイッたばかりの体はまだ痙攣を起こしている。秘裂に挿入したままの指を、場地はゆっくりと引き抜く。

    「は、ぅ、う、ぅ…」

    肉壁が蠕動し、異物を排除しようとする。一緒にどぷりと体液が溢れて、尻の下に溜まり落ちる。
    排泄のための場所を使って互いの体を繋げることに、はじめから何の抵抗もなかった訳ではない。体も、心も、準備の時間と手間を要した。
    それでも、誰にも触らせない場所に、場地にだけは触れてほしかった。初めて出会った時のように、我を貫き通して、めちゃくちゃに掻き乱してほしかった。そうしてどこまでも共についてきてくれると、信じさせてほしかった。

    「──……ッ 、……ぅッ 」

    どぷっ、と漏れる最後の滴に呻き声を漏らす。見上げると、場地の双眼にはあきらかな嗜虐の色がにじんでいた。瞼を伏せ、それを隠そうとしている。
    とんだ茶番だ、と思った。本心を、本性を見せろ。それが俺とお前だ。
    上体をあげて場地の竿に手を伸ばす。両脚を広げ、ぐっしょりと濡れた場所に誘う。

    「来いよ」

    ひどく冷静な声で挑発する。場地は熱と欲の行きどころに躊躇するように、じっと一虎を窺った。ほんの数瞬のことだった。
    我慢ならない衝動が突き抜ける。出会った時から、いや、2人の道が分かたれてしまった時からその溝は続いていて、この先もどんどん大きくなっていくような気がしていたから。

    「やめろ。そんな目で見んじゃねえ。……さっさと挿入れろよ」

    もう一度煽ると、場地は容赦なく一虎の両手首を掴んで長机に押し付けた。一虎はしたたかに背中と肩を打ち付けて呻く。場地は構わず、赤ん坊のオムツ替えのような態勢を一虎に強いた。
    そのまま上からずっぽりと貫き通す。生のままの分厚い肉竿が、一気に奥に届いた。

    「んああああああぁぁぁぁぁぁぁ……、!」
「…おぉぉーーーーっ、……ッ!!」

    遠吠えのように場地が雄叫びをあげる。

    満足げに息を吐きながら呆けた声を洩らすと、全体重をかけて圧迫して身動きが取れないように両の膝裏を捕まえる。そして、柔らかい肉襞を押し広げながら連続で突き入れた。

    「ふッ…、ふ……ッ、……、…キッツ……」
「ンンン、ンンンーーーーッッッ……!」

    ズン、と最奥を突く肉厚の竿の衝撃に、ぶわりと全身から汗が噴き出す。圧迫に耐えかね、パクパクと口を開閉させる一虎の口許にちらつく舌に煽られ、場地は覆い被さって滅茶苦茶なキスをした。

    「んッ、ンッ!んンうッ…!!ンんぅッ…、ッ…」

    上も下も、狭い中を無理やり圧し入り、押さえつけて完膚なきまでに打ちのめすやり方。強者は弱者に勝つ。自然の摂理を体現したような振る舞いこそ、場地の本性だ。

    「ア、は、…ッ、ン、んむ、ンンンんんうぅ…!!!!!!!」

    激しい腰づかいで一心に奥めがけて突き回され、ドロリと腸液が肉竿にまとわりつく。せわしない息遣いと連動するように、出し入れされるたび肉壁がクチャクチャと音をたてた。
    勢いに気圧され、一虎はされるがままに喘ぐことしかできない。硬い板に背中と腰が擦れ、揺さぶられると背骨と尾てい骨が軋む。陰嚢が尻にぬちゃぬちゃと当たり、肉壁の音と重なって生々しく響く。

    
「んッ、あ、ぁ、あ、あッ、ン、あッ……!!」

    自分のものとは思えない甲高い嬌声。雄を欲しがり、肉の壺で必死に肉竿に絡みつく自分の体を、嫌でも自覚させられる。

    (これが本性なのか?これが、オレの…本性なのか?)

    分厚く長い舌で歯列をなぞられ、舌を啜られた挙句に喉奥までもを犯される。軟体動物のような動きで執拗に口腔内をいじくり回されると、たまらないほどの快楽で頭がいっぱいになってしまう。

    (嫌だ。やめてくれ。こんなのは違う。こんなのはオレじゃない)

    しかし、否定しても否定しても追い討ちをかけるように奥へと雄を突き込まれ、抗えないまま登り詰めていく。皮肉なことに、もはや上も下も受け容れることだけを第一に従順に馴染んでいた。

    (違う。違う。俺は雄だ。雌じゃない。お前だからなんだ。お前だから──)

    クチャッ、クチャッ、クチャッ、クチャッ、と粘ついた体液同士の混じり合う音がする。

    「あッ、ぁッ、アッ、ァ、あッ、ぁ、アッ、んッ、ンッ、ンッ!!んぁ、ンッ、ぁ、ンッ、あッ!!」

    密着した体同士で体液が混じり合い、番い同士と勘違いしそうになる。

    (違う、違う、違う……っ、お前だから、お前だから……ッ)

    パンパンに膨らんだ陰嚢が尻を打つたび、中の肉竿がビクビクと脈打つたび、いちばん深い場所がヒクヒクと涙をこぼして精子を欲しがるのを感じてしまう。ザリザリとした天井を甘く擦られれば、虜になって自ら求めてしまう。


    (お前だから──…)


    「あーッ、あーッ、気持ちー、気持ちいぃーッ、フーッ、フーッ、んッ、ンッ、ンーッ!!んぁーッ、ンーッ、ぁー、ンーッ、あーッ、気持ちいいーー…ッ、きもちいいーーーッッ……!!!!」
    「………ッ、フーッ、ふーっ、ふーッ、フーッ、…」

    濡れた唇同士が触れ合う距離で舌を這わせながら、言葉は介さず体で感じ合う。
    何か思いついたとしても、どのみち一言も発することができなかっただろう。一虎は何度目かの絶頂に肉壁を締め付けた。場地が中でブルブルッと震え、抜き挿しの速度がどんどん速まって行く。


    「…ッ、出る、出す…ッ、…」
「〜〜〜〜ッ、うぅーー……っ、ぅ、うう゛〜〜〜〜〜ッッ……!!!」


    ガクガクと激しく揺さぶられ、尻肉がぱちゃんぱちゃんと音を立てる。腰骨を掴む場地の手にだんだん力がこもり、胴体ごとのしかかって獣の交尾そのもののように乱暴に腰を押し付け、精子を植え付けるためだけの動きを繰り返す。

    「ウッ、ッ 、ウ゛、ウッ、ウ゛、、ウ゛ッ 、ッ 、ウ゛、ゥッ ……ッ ッ !!!!!!」
「ふ、ん、ん、ん、ん、む、ん、ん、ん、んっ、ん、ん……!!!」

    腰を振る動きが、だんだんと奥に奥に擦り付け栓をする動きに変わっていく。めちゃくちゃに押し広げられて中が苦しい。
やがて少しずつ、ゆっくり、ゆっくりと尾を引くように全ての精子を出し切り、場地は中から竿を引き抜いた。亀頭で秘裂にたっぷりと擦りつけてから、場地は上体を離す。

    (     ──…)

    
べっとりと秘裂に付着した白くて濃い精子の塊が、糸を引きながら床にボタリと落ちる。
    一虎は場地の背を抱いて、ひとつの身体のように強く触れ合った。すると、強い力で抱きしめ返される。
    ずっと奥底に溜まっていた澱が、霧散していくようだった。
    確実に待ちうける黒闇の中で、狂っても狂わずに回り続ける歯車のように思えた。
    いつまでも、その腕に抱かれていたいと思った。


    ***

    どれくらいの間、気を飛ばしていたのか。目を開けた時、ここがどこなのかすぐには理解できなかった。長机の下には場地がいて、ズボンのチャックもパンツも下ろしたままだった。

    「よぉ。目ェ覚めたか」

    一虎は起き上がる。

    「…ベタベタする」
    「はッ。だな」

    辺りは暗闇に包まれていた。ヘッドライトを切ったのだろう。窓越しに外を見ると、木々の間から遠くの景色まで見渡せることに気がつく。川沿いに点々と見えていた集落の灯りは絶えて、時たま聞こえる単車の嘶きと、名前も分からぬ虫の鳴き声とがさざめいている。

    「…どうだった」

    ケータイを開くと青白い光に浮かび上がる場地と目が合う。声は掠れていた。そこでようやく、喉の痛みと渇きを自覚する。
    立ち上がり、場地の傍にしゃがみこむ。自分で訊いておいて、答えをききたくなかった。
2人は、どちらからともなく唇を重ね合わせる。
    
「ンッ……、ぁ……ン……」
「ン……んンン……はっ……」
    
顔の角度を変え、舌で吸い付く密度を変え、キスに没頭する。
ちゅぽ、と音を立てて場地の唇が離れると、名残惜しむように伸びる一虎の舌を、場地はじゅる、と音を立てて口腔内に迎え入れた。
ねろねろ、と裏側をなぞり、唇を強く密着させてジュルル、と扱き上げる。
性器同士の交わりを思わせる動きに、一虎の体は場地の腕の中でゾクゾク、と震えた。
唾液が泡立ち、淫らな音が狭い部屋を満たす。時折、一虎の腰が浮いてきゅう、と股関節が締まる。

    「なぁ、…もっとくっつきたい」
「あぁ。…いいぜ」

    下腹にマグマのように溜まる欲がどんどんせり上がり、グラグラと脳みそが茹っていくのを感じる。だが同時に、急速に冷めていく。体温は近くに感じるのに、視線も声も感じられない。その無音が、どうしても恐ろしかった。

    「…怒ってる?」
    「…なんで?」
    「ダチ同士は普通、セックスしねぇから」

    一虎は寂しく笑う。
    “ダチだから”……あらためて言葉にすると、なんて拙いロジックだろう。

    (…場地には、分からないだろうな)

    幼い頃から、他人と分かり合うことを諦めそうになる自分をどれほど嫌悪したことか。無性に腹が立って、だが怒るのは違う気もして、どこにもぶつけられない不満が腹の底に渦を巻いていた。場地となら分かり合えると思っていた。
    誰もが場地を庇い、一虎だけを目の敵にする。一虎も親友として場地を庇った。親友としてそうするべきだと思ったし、親友だから何でもしてやりたかった。自分の全てを懸けてでも。場地はあくまで巻き込んだだけ。自分1人が罪を被るなら、それで構わないと思えた。心が泣いているのも無視して、場地を突き放したのだ。
    “東卍を抜けるかもしれない、けど片付けときたいことがあるから少しだけ待ってくれ”
    ──そう言われた時、嬉しくなかったと言えば嘘になる。
    もう一度やり直せるなら、何度だってやり直したいと思っていた。
    本当にそんなことができるのなら──…。何度も何度も念じた。
    天地がひっくり返るのと同じくらいあり得ないことだとは知りながら、場地を受け入れた。もう2度と間違いたくないという不安に、押し潰されそうになりながら。

    「俺が普通に見えんのかよ」
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