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    pa_rasite

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    pixivにアップしてたの引っ込めたのでこちらに

    #final

    過去ログ4今にも雪が降ってきそうな灰色の空をした日のことだった。吐く息は白く濁って空の色に溶け込んでいく。どんよりとしたこの鉛色の感情も溶け込んでしまえば楽になれるのにと少年はとめどなく溢れる涙を袖で拭った。着古して薄くなったコートの袖は涙をたっぷりと吸って重たくなっている。
    今日は少年の7歳の誕生日だった。本当ならフレディ・ベアーズ・ダイナーで誕生日会を開いてもらえる予定だったが……。今日に限って両親の仕事が立て込みパーティーの計画はキャンセルされてしまった。両親の仕事が忙しいのはわかっている。少年の家は自営業を始めたばかりだった。

    『仕事が軌道に乗ればフレディのお店よりも立派になるぞ!』

    パーティーが急遽取りやめになった少年を慰めようとした父の言葉を思い出したが、そんなことはどうでもいいのだ。せっかくの誕生日なのにパーティーも開かれず、フレディから誕生日の冠もメダルも首にかけてもらえない。こんな不幸はなかった。ケーキはフレディの店に頼んでいたから用意できないが、プレゼントだけは用意してくれると母が約束してくれた。だがそれが望みじゃない。一番の仲良しの友達のようにフレディのお店でパーティーを開いてバースデーケーキが欲しいだけ。ちゃんと誕生日の日にだ。来週の日曜日に新しくパーティーの予約を入れてもらったからというのは少しも慰めにならない。
    そのまま発作的に家を飛び出してきてしまったことを後悔しながら少年はダイナーの入り口に立っていた。鞄すら持ってきていないのだ。もちろん1ドルのお金も持っていない。お金がなければお店にも入れない。大好きなフレディの近くにも行けないことが余計少年の心を引き裂いた。そして余計に涙が頬を濡らすのだ。風が濡れた頬を撫でるたびにひりひりと痛む。頬を押さえながらダイナーの入り口から店の中を覗いた。フレディが忙しそうに稼働している。色鮮やかなカップケーキの乗ったトレーを片手に子供達にプレゼントしていた。本当なら今日ケーキをプレゼントしてもらえるのは僕だったのに、という事実に喉の奥がきゅっと引き絞られるように痛んだ。あんな小さなカップケーキじゃなくもっと大きくて色もたくさん使われていて、チョコレートもフルーツも乗った特別なケーキをプレゼントして貰えたのに。そんなフレディの姿を見たせいで胸がボイラーのように熱くなり、今日を期待していた気持ちは焼けただれていくようだ。

    「どうしたんだい。ボク?」

    店の中を覗き込みながら泣いていた少年の肩に大きな掌が置かれた。全く背後の気配に気がついていなかった少年はビクッと体を跳ねあがらせた。警戒心の強い野生動物のように身構え、掌の正体を見つめた。彼はその人物に見覚えがあるような気がした。顔は特にこれといったものを感じるものはない。そうだ、この男の着ている服に見覚えがあるのだ。フレディ・ベアーズ・ダイナーの中で……。

    『あの服を着ているのは警備員さん。私たちが楽しくここで過ごせるのは警備員さんがいるおかげなのよ』

    一度、この服を着ている人物について母に聞いたことがあった。フレディ・ベアーズ・ダイナーの店員の着ている服とは違うことを疑問に感じての質問だった。

    「ああ、もしかして…今日の誕生日パーティーの子って君のことだったのかな?」

    警備員が膝を曲げて少年の視線に目を合わせる。訳知り顔といった表情で優しく微笑むと少年の頭を優しく撫でた。

    「フレディも今日のパーティーが中止になって残念がっていたよ。だからパーティーの主役の君が来てくれたって知ったら大喜びしてくれるはずさ!さあ、ここは寒いから中に入ろう」

    警備員が優しく少年の肩に手を置き、ダイナーの入り口から背を向けさせ歩かせようと背中を押した。なぜここから中に入らないのかと質問すると、今フレディはお仕事中で急には抜け出せないんだよと教えてくれた。仕事は確かに大切だ。少年は自分の両親の姿を見て痛感していた。

    「裏口から入ろう。仕事が終わったフレディをびっくりさせるんだ!」


    花火が弾けるのを表現するように警備員は両手をパッと広げた。そのおどけた仕草にようやく少年は微笑みを取り返した。それにもうすぐフレディに会える。今日はフォクシーのように急に現れてフレディをびっくりさせるのだ。今日が特別な日になるという確信に少年の小さな心臓は興奮で跳ね上がっていた。

    『お店ではお母さんから離れてはいけないよ』

    このポスターが貼られていた場所を少年は思いだせる。紙の端が破れていたことも、セロテープで補強されていたことも、そのポスターを母親に読み上げてもらった時の日のことも。あれは去年のクリスマスの日のことだった。ツリーには紙細工やオーナメント、フレディのマスコットも飾られていた。
    フレディ・ベアーズ・ダイナーが近所に建てられたのは去年のクリスマスの近くだった。せっかくできたのだからと両親に連れて行って貰ったクリスマスの日には雪が降っていた。ホワイトクリスマスを祝ったのは赤い帽子を被ったサンタではなく黒いシルクハットのフレディだった。それからだった。少年がフレディに心を奪われたのは。

    「私はね、フォクシーがお気に入りなんだ」

    どうしてポスターの言いつけが守れなかったのだろう。

    「君はフレディが好きなんだね」

    警備員の掌には大振りのナイフが握られていた。血をたっぷり吸って濁った銀色に光っていた。警備員の青い色の服は血を吸って紫色に染まっていた。青い色はスーパーマンの色、守ってくれる色だと母親は教えてくれた。そして紫色は……悪の象徴だった。少年は身をもって悪の色を教えられた。そして自分の幼い愚かさも。
    涙がまた流れていた。目の中に入った血が洗い流されて灰色の空が見える。ナイフで刺された傷から溢れた血は温かかったのに今は凍えるように冷たい。氷水に浸されたように身体中が寒い。頬に流れる涙だけが温かいがこれがいつ冷めてしまうのかも分からない。この涙が枯れ果ててしまうとき、きっと自分の命も流れ出て行ってしまうのだ。だから少年は泣くことしかできなかった。涙を流せることが生きている証だった。

    「私からの誕生日プレゼントだよ。フレディのがあればよかったんだが……これでも許してくれるかな?」

    ナイフを得意げに少年の目のまで振ると、ナイフの切っ先から血が飛んで頬を濡らした。だが誕生日プレゼントはそれではないようだ。もちろんナイフのキスの雨でもなく、警備員は鞄から何かを取り出して少年の顔に近づけた。それはパペットを模したお面だった。パペットはプレゼントを渡す人形だ。自分の誕生日なのにそれを被るのは嫌だ。しかし男は少年の意思を歯牙にもかけず優しく顔にお面をかけ後頭部にお面の紐を通す。

    「よかった。サイズはピッタリだね。じゃあ、私はもう行くよ。仕事は夜からだから遅れたら大変だ!」

    少年の手を握ると小さく左右に振らせた。バイバイ、ということらしい。その力の入らない様に満足したのか紫色の警備服を着た男は笑顔で手を振り返した。裏口から誰かが出てくる気配はない。誰もナイフに刺された少年に気がつくものはいない。

    −−−−置いて行かないで。電話して。お母さんのところでも病院でもいいから、僕を助けてって誰かに……

    仰向けに転がったまま少年は男に手を伸ばした。だがそれは声にならず口から出たのは傷ついた内臓に溜まった血反吐のみだった。自分の吐いた血が目の中に入り込み視界がどんどん赤く濁っていく。それを洗い流せるのも涙だけだ。すすり泣きが赤く濁った空に響いていく。やがて雪が空からチラチラと舞い降り始め、少年の血に濡れた頬を優しく撫でる。切り裂かれて剥き出しになった骨に染み入る寒さは苦痛の感覚を麻痺させ、深い深い泥濘のような眠りへと誘っていった。もう二度と目が覚めることはないことを少年は察していた。怖いほど冷静に死を受け止めていた。

    −−−−僕の誕生日だった

    大きなケーキを大きく切り分けて貰って、そのケーキの上にはハッピーバースデーと書かれたチョコレートのプレートが載っていて、ロウソクが7本立っていて、色とりどりの風船が誕生日を祝うようにたくさん浮かんでいて、家族がいてフレディがいてバースデーソングを歌ってくれることを望んだだけの代償がこれだった。ケーキに代わりに切り分けられたのは少年で、ベリーソースの代わりに大量の血をぶちまけ、クリームのように白い雪をデコレーションする皮肉な誕生日だった。

    パペットの前で一人の少年が泣いている。色の褪せたフレディ・ファズベアー・ピザのパーティールームの隅で一人の子供がひっそりと泣いていた。
    “誕生日おめでとう”
    と大きく書かれた横断幕が色を失って寂しげに揺れている。この誕生日会の主役の子供はパペットの以前の少年よりまだ幼いようだ。小学校にも上がっていないだろう。そんな小さな子が泣いている姿にパペットはかつての自分をなぞらえとっておきのプレゼントを少年の前の机に置いた。
    “誕生日おめでとう”と書かれたチョコレートのプレート、年齢と同じ数のロウソク、チョコチップとナッツとフルーツが白い生クリームを鮮やかに盛り立てている。
    −−−−誕生日にケーキがないのは悲しいからね
    涙に暮れる少年が驚きに目を見開いた。マングル、バルーンボーイ、ゴールデンフレディ、トイチカ、そして……蜃気楼のように漂うシャドウボニーが今日の主役の少年を見守っていた。
    −−−−お誕生日おめでとう
    風船がふわふわと天井に向かって舞い上がった。ついに誕生日会が開かれないままに終わったパペットを慰めるように紙吹雪がパペットの頭の上に舞い降りた。
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    pa_rasite

    DONEブラボ8周年おめでとう文
    誰かが見る夢の話また同じ夢を見た。軋む床は多量の血を吸って腐り始めている。一歩と歩みを進める度、大袈裟なほどに靴底が沈んだこの感触は狩人にとって馴染みのものだった。獣の唸り声、腐った肉、酸化した血、それより体に馴染んだものがあった。

    「が……ッひゅ……っ」

    喉から搾り出すのは悲鳴にもならない粗末な呼気だ。気道から溢れ出る血がガラガラと喉奥で鳴って窒息しそうになる。致命傷を負ってなお、と腕を手繰り寄せ振り上げる。その右腕に握るのは血の錆が浮いたギザギザの刃だ。その腕を農夫のフォークが刺し貫いた。手首の関節を砕き、肉を貫き、切先が反対側の肉から覗いた。その激痛にのたうちまわるどころか悲鳴さえも上げられない。白く濁った瞳の農夫がフォークを振り回す。まるで集った蝿を払うような気軽さのままに狩人の肩の関節が外された。ぎぃっ!と濁った悲鳴を上げればようやく刺さったフォークが引き抜かれた。その勢いで路上に倒れ込む。死肉がこびりついた石畳は腐臭が染み込んでいる。その匂いを嗅ぎ取り、死を直感した。だがこれで死を与える慈悲はこの街にはなかった。外れた肩に目ざとく斧が叩き込まれたのだ。そのまま腕を切り落とす算段なのだろうか。何度も、何度も無情に肩に刃が叩き込まれていく。骨を削る音を真横に聞きながら、意識が白ばみ遠のきだした。いっそ、死ねるのであれば安堵もできただろう。血で濡れた視界が捉えるのは沈みゆく太陽だ。夜の気配に滲んだ陽光が無惨な死を遂げる狩人を照らし、やがて看取った。
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    pa_rasite

    DOODLEpixivにアップしてたの引っ込めたのでこちらに
    過去ログ4今にも雪が降ってきそうな灰色の空をした日のことだった。吐く息は白く濁って空の色に溶け込んでいく。どんよりとしたこの鉛色の感情も溶け込んでしまえば楽になれるのにと少年はとめどなく溢れる涙を袖で拭った。着古して薄くなったコートの袖は涙をたっぷりと吸って重たくなっている。
    今日は少年の7歳の誕生日だった。本当ならフレディ・ベアーズ・ダイナーで誕生日会を開いてもらえる予定だったが……。今日に限って両親の仕事が立て込みパーティーの計画はキャンセルされてしまった。両親の仕事が忙しいのはわかっている。少年の家は自営業を始めたばかりだった。

    『仕事が軌道に乗ればフレディのお店よりも立派になるぞ!』

    パーティーが急遽取りやめになった少年を慰めようとした父の言葉を思い出したが、そんなことはどうでもいいのだ。せっかくの誕生日なのにパーティーも開かれず、フレディから誕生日の冠もメダルも首にかけてもらえない。こんな不幸はなかった。ケーキはフレディの店に頼んでいたから用意できないが、プレゼントだけは用意してくれると母が約束してくれた。だがそれが望みじゃない。一番の仲良しの友達のようにフレディのお店でパーティーを開いてバースデーケーキが欲しいだけ。ちゃんと誕生日の日にだ。来週の日曜日に新しくパーティーの予約を入れてもらったからというのは少しも慰めにならない。
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