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    niesugiyasio

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    niesugiyasio

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    原作軸エルリ連作短編集『花』から再録⑨『仇』
    巨大樹の森でジークに部下を巨人化させられたリヴァイは、かつてエルヴィンとかわした会話を思い出す。

    巨大樹の森が、巨人の死骸から立ちのぼる蒸気で曇る。三体の巨人の足音が遠ざかっていく。立体機動で有利に戦うためには、この森から出すわけにいかない。急く心をリヴァイは抑え、ガスと刃の補充にかかる。過ぎし日の声を聞く。「ガスと刃を補充していけ」時間を惜しむリヴァイにエルヴィンはただ命じた。
    なあ、エルヴィン。あの頃は、まだ何も分かっちゃいなかったな。
    探りをいれるための作戦だった。思惑通りに事が運び、未知の巨人であった女型をおびき出すことができた。兵団内に密通者がいることも分かった。だがあまりにも多くの兵士が犠牲になった。
    あの戦いで、どれだけ死なせたか。リヴァイの脳裏に犠牲となった部下の顔が浮かぶ。
    今、巨大樹の根元では、リヴァイが討伐した巨人が蒸気を上げ、消えていこうとしている。ほんのちょっと前までリヴァイの部下達だった巨人だ。
    昔は、人間が巨人になるとも知らなかったんだよな。知った時には、動揺した。
    リヴァイは当時を振り返る。
    「この前、なぜ、笑った?」
    リヴァイはエルヴィンに尋ねた。エルヴィンは無精髭を剃り、髪を整えてこざっぱりとしている。兵服も着用しており、前に病室で見たときからは見違えた。だが空の右袖が虚しい。
    「何のことだ?」
    とぼけやがって。悪態をつきたくなったが、原因はリヴァイの口下手にあるのかもしれない。言葉が足らなかったかと、気を取り直す。
    「ラガコ村の報告をハンジから聞いただろ。ローゼに出現した巨人はラガコ村の住人だったんじゃねぇかと。つまり、巨人の正体は人間だったんじゃねぇかと」
    「不謹慎だったと反省している」
    「責めたわけじゃねぇよ。なぜ笑ったかと訊いている」
    「なぜだと思う?」
    理由を話す気はなさそうだが、少し食い下がってみる。
    「想像通りだったとかか?」
    エルヴィンが答えないので問いを重ねる。
    「巨人の正体が分かったからか?」
    「そんなところだ」
    それだけではなさそうだが、理由の一つとして外れではないのだろう。
    巨人の正体を突き止める。リヴァイが調査兵団に入った当時の団長が掲げていた目的だ。シガンシナ陥落をもってエルヴィンに代替わりし、以来、調査兵団の位置づけや壁外調査の在り方も変わった。古参の調査兵はこうした探究心が強い。
    「巨人は壁の外にいる。巨人は元は人間だった」
    エルヴィンは壁外の彼方に思いを馳せるような目をしていた。後から思えば彼は壁外に人間がいるということについて考えていたのだろうが、この時のリヴァイには分かりようもなかった。
    「俺は人間を削ぎ殺して回ってたってことだ」
    「人間ではない。巨人だ。元は人間だったとしても、お前が削いだのは巨人だ。そこは間違えてはならない、リヴァイ」
    「ああ」
    分かっていても、割り切るのは難しかった。
    「壁内に巨人が出現した。それがラガコ村の住人の変化した姿であった可能性が高い。かつて我々はシガンシナに攻め入られ、ウォール・マリアを失った。今回分かったのは、奪われるのは領土だけではないということだ。人も奪われてしまうということだ」
    背筋が凍るような話を、エルヴィンは感情を交えず語る。
    「ローゼに出現した巨人は夜も動けること以外、通常の巨人と変わりなかったと聞く。遭遇した者、討伐に当たった者は、それが元はラガコ村の住人だったなどと思いもよらなかったというわけだ」
    「壁に穴が開いてそっから入って来たんだろうと調べたくらいだからな」
    「つまり、すっかり変化させられてしまう。どのような力によってか分からないが、人格や思考能力を奪われ、敵の手先にされてしまう。意思と無関係に寝返らされる、とでも言えばいいか」
    「隣にいる奴が巨人にされちまうこともあるんだろうか」
    「その可能性はある」
    「もし、隣にいる奴が巨人になったら?」
    「俺に訊かずとも、リヴァイ、お前は分かっているはずだ」
    「削ぐか」
    間違えたらしい。エルヴィンが渋い顔をする。不要な戦いは徹底して避ける方針の調査兵団団長だ。
    「まずは回避か」
    「そうだ。最優先は安全の確保。人を襲うような状況なら討伐する。壁外調査時と同じだ」
    なあ、エルヴィン。もっと早く気づいていたなら、こうはならなかったのかな。どうも腹を決めるのが遅すぎた。人命というものにおよそ興味を持たねぇクソ野郎だと察してはいたが、秘策とやらに惑わされた。
    リヴァイはほぞを噛む。
    あのクソ野郎、俺の部下を巨人に変えやがった。異様に動きが速かった。奴の仕業だろう。あの野郎、俺の部下を奪って自分の手下にしやがったんだ。
    もっと早くに見極められていたなら。いや、無理だったか。クソ野郎の脊髄液が仕込まれていたと思しきワインは憲兵の上役だけが口にできると前々から噂になっていたマーレ産の稀少なものだ。クソ野郎がこの島に来る前から周到に計画されていた。つまりは始めから茶番だったということだ。
    リヴァイは雷槍を装備する。通常は一本だが、特殊アタッチメントを用いることにより四本同時装備が可能になる。強力だが負荷もかかるので、これを扱えるのは歴戦の調査兵のなかでもごく限られた者だけだ。
    だが、エルヴィン。あの野郎、俺を見くびっているらしい。巨人になったからといって、それが元部下なら殺せねぇと踏んだらしいぞ。知らねぇんだな。俺達がどれだけ仲間を殺してきたか。見捨てるという判断を下すことで。あるいは、犠牲を前提とした作戦を決行することで。これまでどんな思いをしてきたかも。
    ガスも刃も雷槍もフルに装備し、点検も終えた。リヴァイは立体機動に移り、森を高速で移動する。瞬く間に追いついた。リヴァイから奪った部下を三体の巨人として従えるジークを、逃しはしない。
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    niesugiyasio

    PAST原作軸エルリ連作短編集『花』から再録15『空』
    終尾の巨人の骨から姿を表したジーク。
    体が軽い。解放されたみたいだ。俺はこれまで何かに囚われていたのか? 空はこんなに青かっただろうか?
    殺されてやるよ、リヴァイ。
    意図はきっと伝わっただろう。
    地鳴らしは、止めなくてはならない。もとより望んだことはなく、地鳴らしは威嚇の手段のつもりだった。媒介となる王家の血を引く巨人がいなくなれば、行進は止まるはずだ。これは俺にしかできないことだ。
    エレン、とんだことをやらかしてくれたもんだ。すっかり信じ切っていたよ。俺も甘いな。
    また生まれてきたら、何よりクサヴァーさんとキャッチボールをしたいけれど、エレンとも遊びたいな。子どもの頃、弟が欲しかったんだよ。もし弟ができたら、いっぱい一緒に遊ぶんだ。おじいちゃんとおばあちゃんが俺達を可愛がってくれる。そんなことを思っていた。これ以上エレンに人殺しをさせたくないよ。俺も、親父も、お袋も、クサヴァーさんも、生まれてこなきゃよかったのにって思う。だけどエレン、お前が生まれてきてくれて良かったなって思うんだ。いい友達を持ったね。きっとお前がいい子だからだろう。お前のことを、ものすごく好きみたいな女の子がいるという話だったよな。ちゃんと紹介して貰わず終いだ。残念だな。
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