Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    niesugiyasio

    @niesugiyasio

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 20

    niesugiyasio

    ☆quiet follow

    原作軸エルリ連作短編集『花』から再録12『不屈』
    リヴァイを助けたハンジ。

    不屈ハンジは数え切れないくらい何度も思ったものだ。
    ああ! エルヴィンが生きていたら!
    もちろん、口に出すことはない。出さないからこそ、暴れ回りたくなる。八つ当たりで、机や椅子を蹴ったり殴ったりすることもある。かえって痛い思いをして、余計に情けなくなる。エルヴィン自身にも恨み言を言いたい。なぜ私を後継の団長に指名した?
    思考が一巡りすれば落ち着いてくる。
    エルヴィンが生きていたら、私はこんな苦労をせずにすんだのに。
    団長でなければ、こんな重い責務を背負い込まずにすんだのに。
    そういう、まったくもって身勝手な思考だ。エルヴィンにすべて押しつけたかったのだ。
    リヴァイがなぜエルヴィンに注射を打たなかったか、分かる気がする。重責から解放してやりたかった。そんな気持ちがあったのではないか。ハンジの知らないところでエルヴィンは苦しんでいたのかもしれない。他の兵士を犠牲にして蘇ったとなればさらなる重荷となることも予想できた。
    何もかも投げ出したいような気持ちが薄らいでくる。このまま隠れていようかと弱気になったが、ありえなかった。
    リヴァイの容態は落ち着いたようだ。重傷だが、助かるだろう。生きていてくれてよかった。まだ、希望がある。ひとりじゃない。
    何もしないのが一番いけない。破損した荷台を改造することにする。リヴァイはしばらく起き上がれまい。乗せて運ぶものが必要だ。
    無心でトンカチを打ちつけていれば、突如、エレンの声が聞こえた。島外のすべてを踏み潰すと、すべてのユミルの民に告げる。バカな! そんなこと、させるわけにいかない!
    振り向けば、リヴァイが目を覚ましていた。第一声から、ジークの行方を気にした。殺気が凄まじい。何があったのか。彼の話は要領を得ず全容は分からないが計り知れない無念が伝わってくる。
    リヴァイはジークを殺すことしか頭にないようだ。それよりエレンを止めなければならないんじゃないかな。ハンジはジークの殺害を優先することはできないと考えたが、リヴァイを否定することはできなかった。
    責任を感じる。ジークの作戦を遂行すると決めたのはハンジだった。
    事の始まりは三年前。反マーレ派義勇兵を名乗るイェレナを通し、ジークが協力関係を持ちかけてきた。
    「獣のクソ野郎の提案を受けいれるのか? あの野郎と手を結ぶと?」
    リヴァイは穏やかならぬ調子でハンジの意向を確認した。
    「受けいれがたい気持ちは分かるよ。でも」
    「あいつと約束したんだ。獣の巨人は俺が仕留めると」
    「あいつってエルヴィン?」
    「そうだ」
    「最終奪還作戦の時にってこと?」
    「そうだ。俺はあいつの命令をまだ果たせてねぇんだ」
    その命令は作戦当時に限るものであり情勢の変わった今は無効なのではないか。エルディア人の問題を一挙に解決するというジークの秘策をはね除けることは現段階では得策ではないのではないか。そういったことはリヴァイも頭ではわかっているようだった。だが心がついていかないのだ。
    その後、正式に方向性が定まれば、リヴァイはジークの殺害を諦めたかに見えた。彼は意外なほどに規律を重んじる。基本的には上の取り決めに従い、勝手な行動は起こさない。
    だが、諦めたわけではなかったらしい。
    罪な男だね、エルヴィン。
    アッカーマンだから至近での雷槍の爆発にも耐え、深手を負いながらも生きていられるのかと考えたが、エルヴィンへの想いがこのひとを生かしてるんじゃないかと思えてくる。
    無下にできない。
    「エレンは始祖を掌握したらしい。つまり、王家の血を引く巨人との接触が叶ったんだ。エレンが始祖の力を発揮するには、王家の血を引く巨人が必要」
    「ジークを殺っちまえば、エレンの暴走も止められるってことか」
    「そうだ! きっと!」
    確証はないが、にわかに前向きな気持ちになった。これが正解のような気がしてくる。
    「修理にもう少しかかる。終わるまで休んでて」
    ぎりぎりの精神力で会話していたのだろう。リヴァイはあっさり眠り込んだ。

    ハンジは手負いのリヴァイを改造した荷台に乗せ、仲間を探すべく南下した。ウォール・マリアも、シガンシナの壁も崩れ、中にいた巨人が整然と行進している。空を見上げれば、飛行船が遠ざかっている。すでに撤退に転じているようだが、マーレ軍がここまで攻めてきていたということだ。思ったより情勢は悪そうだ。
    ハンジは馬をとめた。楽観視はできないが希望が見えた。
    「いたぞ」
    リヴァイに知らせる。
    「味方か?」
    「巨人っていいねぇ」
    「アルミンか?」
    「ううん。車力の巨人と隊長のマガト」
    「敵じゃねぇか」
    「今のところはね。だけど、これからもずっと敵かな?」
    ハンジの意を、リヴァイはすぐに汲み取った。
    「奴らにとっちゃ、ジークは裏切り者だ。エレンを止めねぇことには、奴らの国は踏み潰されちまう。目的は一つといえるか」
    「そうだよ!」
    ハンジは馬とリヴァイのもとを離れ、マガトを背に乗せた車力の巨人に近づく。仲良くできるといいな。始めからこうできていれば、どんなにか良かったろう。でも今からでも遅くない。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    niesugiyasio

    PAST原作軸エルリ連作短編集『花』から再録15『空』
    終尾の巨人の骨から姿を表したジーク。
    体が軽い。解放されたみたいだ。俺はこれまで何かに囚われていたのか? 空はこんなに青かっただろうか?
    殺されてやるよ、リヴァイ。
    意図はきっと伝わっただろう。
    地鳴らしは、止めなくてはならない。もとより望んだことはなく、地鳴らしは威嚇の手段のつもりだった。媒介となる王家の血を引く巨人がいなくなれば、行進は止まるはずだ。これは俺にしかできないことだ。
    エレン、とんだことをやらかしてくれたもんだ。すっかり信じ切っていたよ。俺も甘いな。
    また生まれてきたら、何よりクサヴァーさんとキャッチボールをしたいけれど、エレンとも遊びたいな。子どもの頃、弟が欲しかったんだよ。もし弟ができたら、いっぱい一緒に遊ぶんだ。おじいちゃんとおばあちゃんが俺達を可愛がってくれる。そんなことを思っていた。これ以上エレンに人殺しをさせたくないよ。俺も、親父も、お袋も、クサヴァーさんも、生まれてこなきゃよかったのにって思う。だけどエレン、お前が生まれてきてくれて良かったなって思うんだ。いい友達を持ったね。きっとお前がいい子だからだろう。お前のことを、ものすごく好きみたいな女の子がいるという話だったよな。ちゃんと紹介して貰わず終いだ。残念だな。
    677

    recommended works