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    niesugiyasio

    @niesugiyasio

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    niesugiyasio

    PAST原作軸エルリ連作短編集『花』から再録15『空』
    終尾の巨人の骨から姿を表したジーク。
    体が軽い。解放されたみたいだ。俺はこれまで何かに囚われていたのか? 空はこんなに青かっただろうか?
    殺されてやるよ、リヴァイ。
    意図はきっと伝わっただろう。
    地鳴らしは、止めなくてはならない。もとより望んだことはなく、地鳴らしは威嚇の手段のつもりだった。媒介となる王家の血を引く巨人がいなくなれば、行進は止まるはずだ。これは俺にしかできないことだ。
    エレン、とんだことをやらかしてくれたもんだ。すっかり信じ切っていたよ。俺も甘いな。
    また生まれてきたら、何よりクサヴァーさんとキャッチボールをしたいけれど、エレンとも遊びたいな。子どもの頃、弟が欲しかったんだよ。もし弟ができたら、いっぱい一緒に遊ぶんだ。おじいちゃんとおばあちゃんが俺達を可愛がってくれる。そんなことを思っていた。これ以上エレンに人殺しをさせたくないよ。俺も、親父も、お袋も、クサヴァーさんも、生まれてこなきゃよかったのにって思う。だけどエレン、お前が生まれてきてくれて良かったなって思うんだ。いい友達を持ったね。きっとお前がいい子だからだろう。お前のことを、ものすごく好きみたいな女の子がいるという話だったよな。ちゃんと紹介して貰わず終いだ。残念だな。
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    niesugiyasio

    PAST原作軸エルリ連作短編集『花』から再録⑩『善』
    巨人化のおそれに直面するナイル。
    ナイルは左腕に巻かれた黒い布を見る。ジークの脊髄液入りワインを飲んだ印だ。ジークの「叫び」により巨人化する。知らされる前のことだが、一瞬全身が痺れた。どこかで「叫び」があったということだ。ただ距離が離れていたため、シガンシナにいるナイル達にはその力は及ばなかった。ではどこでジークは叫んだのか。勾留地に決まっている。具体的な場所は知らないが、リヴァイと三十人の兵士が監視している。では、リヴァイと三十人の兵士が巨人化してしまったということか? まさか、あのリヴァイに限って——。ナイルは信じまいとする。
    ジークについて、リヴァイと話したことがあった。三年ほど前のことになる。調査兵団に鹵獲されたマーレの艦船の乗組員の一部が反マーレ派義勇兵を名乗り、エルディア人の解放を目的としてパラディ島との提携を求めてきた。首領は獣の巨人ジーク・イェーガー。ジークをパラディ島に受け入れ、腹違いの弟エレン・イェーガーに会わせろという。ジークには秘策があり、そのためには王家の血を引く巨人と始祖を有する巨人が揃わねばならないというのだ。調査兵団はジークの要求を呑む方向性で話を進めたがっているように見えた。
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    niesugiyasio

    PAST原作軸エルリ連作短編集『花』から再録⑤『苦い味』
    ニコロはリヴァイに頼まれコーヒーを淹れることになってしまった。
    苦い味いつからそこにいたのだろう。片付けが一段落し、ふと振り返ったニコロは、食堂の片隅に人影を見つけ、それが誰だか分かって危うく悲鳴を上げるところだった。
    「ニコロ、だったな」
    マーレ兵捕虜は大勢いるが、名前と顔を覚えられてしまった者はごく僅かだろう。ほとほと運が悪い。パラディ島の調査のため、派兵された。ニコロの乗った船は一番乗りで着いたはいいがあっさり捕らえられてしまった。ひ弱に見えたせいかニコロは一人連れ出され、後続のマーレ軍に人質として晒された。
    「コーヒーってやつを淹れてもらいてぇんだが」
    リヴァイ兵士長は隅のテーブルの端っこに掛けていた。イェレナの提案でパラディの兵士達にマーレ料理を振る舞うことになった。その一日目を終えたばかりで、食堂は屋外にテントを設えてテーブルと椅子を並べた仮設のものだ。彼はいなかったが、昼間には調査兵団の面々が来た。食後はコーヒーか紅茶か選ばせる方式を取った。彼らとってコーヒーは未知の飲み物だったようだ。その話を聞いて来たというところか。
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    INFO原作軸の冬のエルリエルヴィンはシガンシナでの冬のある日を思い出していた。あの年はなかなか冬らしくならなかったところに、急な冷え込みが訪れたのだった。エルヴィンは寒がりな方ではないが、突然の寒さにいくらかおののいた。
    凍てつくような空気に、思わず身を縮こまらせる。吐く息が白い。桶の水に氷が張っている。空はすでに明るいが、まだ日は差し始めていない。早朝の道を、ウォール・マリアの農地に向かう人々と、シガンシナ区の市中に向かう人々が行き交っている。
    エルヴィンは道の向こうにちいさな背中を見つけた。自由の翼のついた外套に、ちいさな頭。彼が何をしているのか、すぐには分からなかった。その場で足踏みをしては一歩動き、また足踏みをしている。足踏みといっても行進の訓練のような規則的なものではなく、地面を見下ろしながら無心に、かつ不規則に土を踏んでいる。しばらく見ていれば分かった。霜柱を踏んでいるのだ。音や感触が小気味よいのだろうか、背中が楽しそうだ。子どもみたいだ、と思ってしまう。鉄面皮と言われるほど表情の変わらぬエルヴィンの頬が綻ぶ。地下街は年間を通してさほど気温が変わらないと聞く。つまり、彼にとって、初めての冬だ。これ 2574