バブル感覚で車を貢ぐはるあき「というわけで、おまえに金をかけるのも投資。失敗したところでおまえを責めたりしません。まあ、失敗したことないし、失敗しませんが」
詭弁である。総資産は怖くて聞けなかった。
「本当に、返せないですから」
「おまえなら充分にやれると思うが、それはそれとして私からのプレゼントだと思って受け取ってくれればいい。返す必要はないよ」
「ああもう、わかりました! 知りませんからね」
ベントレーに比べれば中古の軽なんて安いものだろう。そういう金銭感覚の男が目の前にいる。気にするな、儂。
「で、私と同じ車でいいかい?」
「あなた本当に幼稚園からお金の大切さ学んだほうがいいです」
◇
車選びはそれはそれは難航した。三千万円のベントレーと、二十万円の中古の軽自動車での価値観がそう噛み合うはずもなかった。
「国産です。そこは譲りません」
「じゃあLC」
「せん! ごひゃく! まんえん! レクサス禁止!」
「スカイラインとか?」
「…これ、ハイオクしか入らないじゃないですか。燃料費高いです。というか走ればいいので中古でいいです」
「新車は譲らない。他人の手垢がついたものなんて使わせられない」
案外潔癖症な男だなあと思った。その割に同居をするだなんて、線引きがよくわからないが。そしてお互いに妥協に妥協を重ねてたどり着いたのはCX-8。妥協の末などというとひどい言い方だが、価値観の殴り合いの結果勝ち残ったチャンピオンと言ってやりたい。ディーラーに男ふたり、しかも現ナマ一括払いで速攻契約。店員の視線が痛かった。
「やっぱりNSXのほうがよくないか?」
「買ったあとに何言ってるので? あとマンション買える値段の車は嫌です」
「二台目とか」
「買ったら本当に怒りますよ」
ちえ、と拗ねた子供のような顔をしているがやっていることはえげつないので笑えなかった。