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    suck629it

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    suck629it

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    シチュお題でお話書くったー
    「攻めが医者の設定でいきなり告白されて戸惑う晴道」

    #晴道
    clearChannel

    職権濫用もいいところだぞ「297番さん、診察室へどうぞ」

    番号を呼ばれて立ち上がり、一歩進んだところで鞄を持っていないことに気がついて中待合のソファを振り返る。大きな体の背を曲げてふらふらと診察室のドアへと向かった。部屋の中はクリーム色の壁紙、木製の机と椅子、それから白衣を着ていない医者らしき男がひとり。

    「どうぞ、お掛けください」
    「はい……」
    「確認のため、お名前を教えてください」
    「蘆屋…道満です」

    小さくぽつりぽつりと話す様子に加え、長い髪が表情を隠してまるで幽鬼のようである。それもそのはず、蘆屋道満は病んでいた。職場でぶっ倒れ救急搬送され、目が覚めたら点滴に繋がれていたので職場に戻りたいと医師に訴えたところ「心療内科に今すぐ行きなさい」と紹介状を握らされた上ドクターストップを告げられたのが早朝、そして今は昼前である。

    「医師の安倍晴明といいます。…問診票を見ると睡眠時間が少ないですね」
    「はあ…仕事が溜まっていまして」
    「どれくらい溜まっているのかな」
    「ええと…明日までに研修資料と報告書を作成して、明後日の会議までにデータを揃えて資料が必要で、明後日の来客の用意と、それと別に先日辞めた社員のデータ入力がこれくらいあって…」

    ジェスチャーで示された書類の高さは山と言える量である。どう考えても一日、二日で終わるものではない。

    「ずいぶん忙しいんですね。食事は摂れていますか?」
    「あまり食欲もなく、時々ゼリー飲料を合間に」
    「休みの日は何をしていますか?」
    「休み……休み、ですか…」

    そういえば家に帰ったのはいつが最後だったろうか。確か着るものが無くなって替えをとりに行ったときで。

    「洗濯と、溜まった郵便のチェックと…それくらいでしょうか…?」
    「そうですか」

    何かをさらさらと書きつける手元に目が行く。紺色に金のペン先のついた万年筆は上品で高級さを感じた。そういえばシャツもしっかりとアイロン掛けされている。柔らかいブルーのシャツにネイビーのベスト、それにパープルのネクタイでコーディネートされており、体格に合わせてきちんと仕立てられている。営業部だというのにこんなことに初見で気が付かなかったのかと頭に浮かび、自己嫌悪で更に俯いた。

    「蘆屋さん、過労ですね。しばらく休みしましょう」
    「しかし…儂、私が抜けてしまうと会社に迷惑がかかってしまいます」
    「いいですか。あなたは鬱病になっています。このままだと心身が弱りきって、あなたの命にも関わることです」

    などと言われても、会社員にとって収入を失えばそれこそ生きていけない。ここは適当に言うことを聞いておくフリをしつつ、会社には点滴を打ったら平気だとでも…

    「蘆屋さん、職場に足を踏み入れたら強制入院させますよ」
    「な」
    「ああ。昨今はリモートワークもありますか。よし、今すぐ会社を辞めましょう」
    「いえ、仕事が無くなれば生活に困りますゆえ…」

    何の冗談だと、医者と目を合わす。色白の整った顔立ちの男は微塵も冗談ではない目をしていた。

    「過労死したいんですか?」
    「む、無職で孤独死するなら職場で過労死のほうがマシです!」
    「ほほう。"会社で死んだ方がマシ"と。これはいけません、希死観念は重篤な症状です」
    「ちが、」
    「違いますか?仕事を辞めるのより過労死がマシと言いませんでした?」

    言った。が、何か違うというか、そうではなく、あれ、何が違うのだろう?言いたいことはそうではなくて、うまく言葉に、説明にならない。

    「ほら。あなたには休息が必要です」
    「ですが…生活が…」
    「ではこんなのはどうです?入院ではなく、仕事を辞めて同居人を作る。そしてしっかり休息をとって体調を整える」
    「しかし仕事をしないと」
    「休息がきちんととれるようになったらまずは家庭の仕事をするんです。掃除や料理はリハビリになります」
    「いえ、生活費を稼がねばなりません」
    「大丈夫ですよ」

    ぎゅうと握られた両手。体温は低いが、それでも冷え切った道満の手よりは温かい。

    「私が生活費を全額出します。だから一緒に住みましょう。なんなら結婚しますか、一生面倒みますから」
    「は、はァ……?」
    「私のところに永久就職して、家で働く道満…とても素敵だと思いますよ」
    「ちょ、ちょっと待ってください、なぜそのような話に?」
    「一目見て気に入りました。その髪も筋肉も艶やかになるまでしっかりケアしましょう。美しい顔に隈なんて勿体無い。なァに、私はプロです。付きっきりのメンタルケアと愛情ですぐにおまえを幸せにさせてやりましょう」

    鬱で判断力の鈍った頭は限界だった。理解不能な言動の数々を「これはジョークに違いない」と解釈して、適当な相槌を打って、トントン拍子に話が進んで。そして夕方には高級マンションの一室でクイーンサイズのベッドに寝かされ、運ばれた食事を甲斐甲斐しく世話をやかれながら食べさせられているなどとは、想像するべくもないのであった。
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    nicola731

    DOODLE「罪深き墓前まで」
    思いつきの時代物パロ晴道。多分この後二人で共謀して旦那を始末します。
     晴明の兄が妻を娶ったのは彼が十五の時だった。付き合いのある旧家の長子で、美しいことで評判だった。まだ十八になったばかりだった。晴明の幼馴染だった。
     晴明は義姉になる前まで兄の結婚相手を「道満」と呼んでいた。義姉になるまで兄の結婚相手を抱いていた。去年の盆に宴会があり、その裏で二人は体を繋げた。お互い初めての相手だった。晴明にとっては初恋だった。
     道満は自分の妻になるものだと信じ切っていた彼は、夏の盛りを過ぎた頃に兄から婚姻のことを聞かされて、がらがらと全てが崩れていくような心地になった。美しい上に賢い道満は詩経さえ誦じてみせる。対して夫となる晴明の兄は凡庸で家柄ばかりが取り柄の役人だった。幼少のみぎりから才覚を発揮していた晴明とは大違いだった。
     晴明は兄が何処か勝ち誇ったような顔をして自分を見ていることに気付いた。兄が自分を打ち負かしたいがためだけに、道満を妻に迎えたのだとすぐに理解した。殺してやろうかと思った。
     道満は家庭に入ると頗る良妻で、よく躾けられた奥様になった。夫の父母に気に入られ、夫の床屋政談にも美しい笑みを浮かべたまま付き合った。晴明が「義姉さん」と呼んでも笑み 1027

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    kanamisaniwa

    MAIKING晴道+息子(吉平)+息子(吉昌)『アー、てすてす!こちら安倍晴明の座経由で通信中!安倍吉平の弟吉昌ですがー!兄さーんまたへんな男ひっかけてないよなー?』
    「……突然の情報過多に色々と追い付けない僕マスター。誰かヘルプ…!!」

    ふいにノウム・カルデアの食堂に現れた五星が描かれた掌大の人形の紙がそんな声を発して、立夏は盛大に頭を抱えた。
    いきなり未召喚ならぬ未実装の英霊から通信が飛んできたことも異常だし、それが安倍晴明の息子で吉平の弟というのも驚くしかない。そして、その紙が飛んできた食堂の状況もまた悪かったのがいただけない。

    「んお?なんだなんだまた日本の魔術師かぁ?」
    「こいつらやたら紙を使う術が好きだな。男なら正々堂々直接乗り込んでこいよー」
    「ひっく!そんな紙切れ気にするな!ほら飲め吉平!シンシン秘蔵の酒だぞー!」
    「んー、…ごくん」

    カルデアきっての酒好き達が集合し、やんややんやの飲み会の真っ最中だった。


    「おわぁぁっ!吉平さんもうやめよ?!顔真っ赤だから!!ってこれ奇奇酒?!誰が持ち出したの?!」
    『…まあ、予想の範囲内だが。おーい、カルデアのマスター!父上か道満法師様は呼べないか?』
    「ついさっきま 1690

    nicola731

    TRAINING晴道の練習。明るくポップな話とか、優しくて可愛い話とか思い付けたら、良いなって思ったんですよホント・・・。

    こあら「球体関節人形!ちょっと難しいけどまともな晴明さんを練習したいから考えてみるぞ!」
    企画こあら「はいネタ」
    脚本こあら「はい書いた」
    こあら「なんでだよ!なんでこんな感じなんだよ!」
    晴明はついうっかり道満を殺してしまったので作り直すことにした。術比べで事故死してしまった道満の残骸を集め、自宅に持ち帰った晴明は自分で組んだ人形にそれを納めた。名を三度呼び、魂を吹き込めば血が通う。
     出来上がったのは完璧な人形だった。可愛い弟子の生き写し。寸分違わぬ麗しい拵え。晴明は暫く自画自賛していた。だが現在進行形の問題は、それでは解決しない。
    「うーん、余った」
     何故か部品が余った。腑が幾らか、肉が幾らか、皮が幾らか、髪が幾らか余った。はみ出た分を切り取ったら余った。骨は全て外して綺麗に取ってある。腹が減ったら舐める用に。
     仕方が無いので人形を作成する際に出た端材を使い、七歳程度の大きさでまた別に人形を拵えた。足りていない部品は輝石を削り出して充てがった。
     出来上がったのは輝くばかりの美童だった。
    「うーん、端材だけで傑作が出来てしまった。さすが私」
     子供の顔は現在固定している自分の顔に寄せてみた。絹のような肌に映える濡羽色の髪。所々に月白の色が混じっていて雲母のようだった。魂を調達するのは面倒なので自分の尾を一本を裂いて入れてみた。己の中では比較的素直で大人しい側面な 1652

    nicola731

    DOODLEhttps://twitter.com/nicola731/status/1374684085319168000?s=21
    晴道ハッピーゆるゆる結婚生活だよ。ホントだよ。
    ふと、書き付けを捲る道満の指が止まる。自分が書き留めたはずの術式がまるで目新しく見えた。自分の屋敷から運ばせた書物の内に紛れていた一片の書き付けを、道満は思い出すことができない。なぜ自分が書き留め、なぜこのように術を構築したのか。道満は考え込んでしまう。
     晴明の屋敷の奥、その御帳に囲われている道満は外へ出ることもできないため、自邸から自身の蔵書を運ばせた。一度死んでしまい、晴明の手によって人形の体に魂を移し替えられてしまった道満にはできることが少なかった。与えられる衣服が小袖のみなので人前に出ることもできない。仕方なく畳の上に座って自分を囲む書を読むか、不本意ながら夜伽の真似をするか、まことに不本意ながら子の世話をするぐらいしかない。
    「ンン、ンンンンン? なぜこのように……いや、効果的ではあるが、こちらではむしろ、ンンン、検証済であるか…………」
     紙片を前に悩む道満の背に勢いの付いた何かがぶつかる。道満が振り返ると七歳ぐらいに見える、夜の海に幾つもの白波が立っているような、白髪の混じる黒髪の子供がいた。
    「おや吾子、腹でも空いたか?」
    「かかちゃまー縺ェ縺ォ繧偵@縺ヲ繧九」
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