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    レイコ

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    レイコ

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    パバステにてリクエストいただきました。「ふたりの手が24時間繋がって離れなくなる黒紅」です!24時間か?と言われるとちょっと怪しいのですが…

    #黒紅
    deepCrimson

    ひとつひとつが些細なことでも、それが繋がれば大事に繋がることはままあることで。
     たまたま事務所の壁紙が剥がれていたのを、賢が憂いていたこと。
     それを知った雨彦が「知り合いの建材屋が使っている、おすすめの接着剤を使うかい」と提案したこと。
     壁紙を補修するときに事務所にいたのが、龍と朱雀と玄武だけだったこと。

     それぞれの糸が絡まった結果、朱雀と玄武の手がくっついてしまったのだ。

    「ほんっとーーーーーにごめん!!!!」
     土下座せんとばかりに頭を下げる龍に、苦笑いをしながら玄武は頭を上げて欲しい、と告げる。
     それは1時間ほど前、賢もプロデューサーも出かけてしまった事務所でのことだった。
     壁紙くらい俺たちで直せるよな! と意気込む龍をサポートするべく、ふたりで脚立を押さえたところまではよかった。
     だが運が悪いというのは時間も場所も選ばないようで、なんと脚立が開かないように付いている金具が、バキンと大きな音を立ててはじけ飛んだのだ。
    「ぅええ!?」
    「危ねえ、龍アニさん!」
    「わーっ! にゃこ! そこ危ねえ!」
     バランスを崩した龍と、滑り落ちた接着剤の缶が落下する地点にいたにゃこ。それを助けようとした朱雀と玄武が手を伸ばした先に、運悪く接着剤の缶が落下してしまった。
     結果、玄武の右手と朱雀の左手は面白いくらいぺっとりとくっついて、どんなに頑張っても剥がれなくなってしまったのだった。

    「まさか、超強力接着剤だとはなあ」
     はあ、と英雄がため息を吐くと、雨彦がそうだな、と苦笑いを浮かべる。
     遅れて事務所にやって来たふたりは、惨状を見て素早く状況を察し、慌ててプロデューサーや建材屋に連絡を取ってくれたのだ。
    「建材屋が使うくらいだからな、そんじょそこらのものとは違うんだろう」
    「でも龍さんに怪我がなくてよかったぜ!」
     元気いっぱいに笑う相棒は心の底からそう思っているようで、その純粋さに龍が目を潤ませた。
    「うう……ごめんよ、ふたりに不便な思いさせちゃうけど……」
    「すまんが、剥離剤がどうも特殊なものらしくてな。明日にならんと相手方と連絡が付かないんだ」
    「いいや、お互い利き手じゃねえのが不幸中の幸いだ。一日くらいどうってことねえ」
    「そうだぜ! オレと玄武は相棒だしよお、あーうん? の呼吸だから大丈夫だぜ!」
     阿吽な、と一応の訂正をいれるものの、玄武は素直にその言葉に頷くことが出来なかった。
     なぜなら、好きな男と一日中手を繋いで過ごせというのは、玄武にとって理性を試されるようなものだからだ。

     好きだ、と何度心の中で言っただろう。
     お前が好きだ、キスがしたい、抱きしめたい。
     言えない言葉は玄武の心の中にずっと閉まって鍵を掛け、けして外に出ることはない。

     とりあえず、一人暮らしの玄武の家に行くのは不便だろうと、その日は紅井家に泊まらせてもらうことになった。
     彼の両親は玄武達の姿を見て一瞬深刻そうな顔になったものの、事の経緯を聞くと、
    「大変だったねえ! まあまあ、飯食っていきな!」
    と大声で笑った。息子の人助けのせいでこういったことがあることには、きっと慣れているのだろう。
     夕食は食べやすいようにと大盛りのカレーで、朱雀のベッドで寝るのはせまいだろうと、床に大きめの布団を敷いてくれた。
     少し離れようと隅に寝転がると、何故か朱雀はこちらの手を引っ張って、せっかくだし真ん中で寝ようぜと促した。
     くっつくのはまずいんだが、と思っても、まさかそんなことは言えないので、しぶしぶその言葉に従うしかない。
    「明日になったら、学ランしわくちゃだろうなあ」
     暗闇の中、まったく深刻そうではない声が響く。むしろ朱雀は自分と一緒にいられることが嬉しいのか、ずっとにこにこと笑っている。
    「だろうな、明日が土曜で助かったぜ」
    「てことは、明日も玄武とずっと一緒だな!」
     暗闇に慣れた目が、間近でその笑みを見てしまった。
     どき、どき、と心臓が高鳴る。くっついた手を、ぎゅうと握ってしまう。
     好きだ、好きだ、好きだ。
     言いたい言葉が言えなくて、こみ上げる思いを抑えるせいで、つんと鼻の奥が痛くなった。
     どうして我慢しなければならないのだろう。けれど朱雀に嫌われてしまうことの方が、自分にとっては死にたいくらいに辛いことだった。
    「そう、だな。明日もずっと一緒だ」
     絞り出した言葉が震える。
     明日だって、明後日だって、ずっとずっとその先だって。
     彼が別の人間と人生を歩み始めるその瞬間までも。

    「……手、剥がしたくねえなあ」

     それは本当に、突然の言葉だった。
    「…………え?」
     どういう意味だと聞き返そうとすると、朱雀は素早く布団の中に潜り込んでしまった。
    「朱雀、おい」
    「顔を見ずに言うなんざ男らしくねえから、今から言うことは忘れてくれ」
    「何を……」

    「好きだ、玄武」

     びく、と心臓が跳ねた。
     まるで玄武の心の中から持ってきたのかと思うようなその3文字は、くぐもった音で鼓膜に届いた。
    「玄武に気持ちわりいって言われんのが一番、その、キツくて言えなかったけど、ずっと一緒にいられんのが嬉しくて、でも明日になったらまた離れちまうんだなって思うとよお、寂しくなっちまって」
    「す、ざく」
    「こないだのバレンタインの仕事んときも、あーそっか、玄武はこういう女子と付き合うんだろうなって」
    「朱雀!」
     布団を引きはがし、相棒の顔を空いた手で掴む。その目はいつものようなきらめきも強さも全くなく、どこか怯えたような色をしていた。
    「気持ち悪いなんて思うわけねえ。好きだ、大好きだ、俺にはお前しかいねえ、朱雀」
     もうその先を言わなくて済むように、玄武は震える唇を自身のそれで塞ぐ。
     キスなんて、たった一回、ドラマの仕事でまねごとをやっただけだ。やり方なんて全く分からないが、けれどこうしたいと心の中から溢れてくる欲求に従って、玄武は角度を変えて柔肉を擦りあわせる。
     抱きしめた体は最初驚いたようにこわばっていたものの、だんだんと慣れてきたのか力が抜け、こちらの腰を抱き寄せて体を密着させてきた。
    「……げ、んぶ、これって」
    「これが俺の答えだ」
    「……っ、ま、まじかよお、じゃあ、うう」
     ぼろりと目からこぼれ落ちてくる大粒の涙を学ランの袖でぬぐってやると、朱雀ははにかむように笑う。
     いつもの表情に安心し、くっついた手を握ると、同じような力で握りかえされた。
    「き、嫌いだって言われなくて、よかったぜ」
    「俺がお前のことを嫌いになるだって? そんなこと、天地がひっくり返ってもありえねえ」
    「オレも! ずーっと大好きだぜ、玄武!」
     眦を下げて嬉しそうに笑う顔が愛おしくて、玄武は彼の体を抱きしめる。
     今まで胸に溜めていた分の言葉を全て伝えられることが嬉しくて、こりゃあ明日からの分に少しずつ上乗せしていかねえと間に合わねえな、とこっそり笑みを零したのだった。

     ――人の歩く音で、ぼんやりと目を覚ました。
     そう言えば昨日は急転直下、いろいろ大変なことがあって、朱雀の家に泊まらせてもらったのだった、と寝起きの頭で考えると、隣で小さく笑う声が聞こえてきた。
    「おは、よう……」
     いつから起きていたのか、朱雀はきらきらと瞳を輝かせながらこちらを見つめており、いつもは自分より早く起きて朝トレをするのに珍しいなと思うが、手が繋がっていてはそれも難しい話かと思い至る。
    「悪い、朝トレ……」
    「へへ、こんな間近で玄武の寝顔見んの初めてだから、ずっと見ちまったぜ」
     そう照れる彼に、可愛いという感情と、ずっと寝顔を見られていたという恥ずかしさが入り交じって、玄武はうう、とうめき声を上げるしかなかった。
     剥離剤が手に入るまでこの状態が続くのかと思うと、はて自分の理性どころか心臓が持つのか。
     玄武は明鏡止水、と唱えながら一日を過ごすしかなかった。
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