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    chiocioya18

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    chiocioya18

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    月花妖異譚時空 本編の少し前の話
    すべて妄想の産物です
    レノックス+ファウスト編

    #まほやく
    mahayanaMahaparinirvanaSutra

    月花前日譚 二木漏れ日の朝の地面は万華鏡のように光が揺れる。茂る枝葉をたまに頭に引っ掛けながら、レノックスは迷いない足取りで進む。目的の小さな庵に着くと、丁度中から庵の主が出てきたところだった。

    「ファウスト様。お久しぶりです」
    「レノックス。また歩いてきたのか。一本下駄で山道なんて正気じゃないと言ったのに」
    「鍛錬に丁度いいので」
    「いや飛びなよ。きみも天狗だろう」

    呆れた溜息を零すファウストの顔色は白い。隈取りで分かりにくいが、目の下にも疲労が見える。

    「あまり眠れていないのですか? 体調が優れないのでしたら、出直しますが」
    「たまたま夜更かししただけだ。きみが来るのは前々からの予定だ。調整できなかった僕が悪い」

    言いながらファウストはレノックスに藤籠を手渡した。中身はファウストが煎じた薬だと聞いている。桜雲街の薬種問屋へ卸すのだ。

    「注文の品だ。先方によろしく伝えておいて」
    「はい。ありがとうございます」
    「きみを使ってしまってすまないな」
    「俺は、ファウスト様にお会いする機会を頂けて嬉しいです」

    こう言えば毎回、ファウストは困ったような顔をして黙ってしまう。困らせたいわけではないのだが、ファウストがどうしたら喜んでくれるのか、レノックスにはまだ思いつかない。

    「…長居してはご迷惑ですね。俺はもう街に戻ります。また数日したら、お顔を見に来てよろしいですか」
    「迷惑なんてことはないけど…。少し、頼みたいことがあるんだがいいだろうか」
    「はい。なんでしょう?」
    「針と糸を買ってきて欲しい。急がなくていいから」
    「…それは、構いませんが」

    意外な品目に一瞬反応が遅れた。よく見るとファウストの着物の袂がほつれている。視線でわかってしまったのか、ファウストは気まずそうに腕を隠した。

    「…俺が直しましょうか? 長屋で色々と修理なんかもしているので、繕い物も少しは出来るかと」
    「そ、そこまで世話になるつもりはない」
    「俺が世話を焼きたいのです」

    ファウストはレノックスにとって恩人だ。頼られれば応えたい、頼まれなくても力になりたい。なのにまた、ファウストに困った顔をさせてしまった。

    「自分でやるよ。きみに甘えているとひとりではなにも出来なくなりそうだ」

    苦笑まじりにそれだけ言うと、ファウストは庵へ戻っていく。山奥の木々に埋もれるような小さな庵。こんな辺鄙なところに、たったひとりで住んでいる天狗。

    「ひとりでなんでも出来てしまうから、ひとりにしておきたくないのに」

    それを伝えてもきっとファウストを困らせてしまうのだろう。
    黙々と山道を歩きながら、レノックスはようやく気づく。また飛ぶのを忘れていた。
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