選り好み 知ったかぶりの贈り物例えば一人の旅先で。例えばユニットではないお仕事で遠方に赴いた先で。ここにいない二人に、たまにはおみやげくらいあげてみようかななんて思った時に。
クリスさんのは選ぶのに苦労しない。
海や魚に関係するもの。クリスさんの『海』の守備範囲は案外広いから、海産物を使った乾物やお菓子なんかでもいい。そこまで気にしなくても、海と関係ないものでも素直に喜んでくれるからおみやげ選びのハードルは低いのだ。
雨彦さんのは、難しい。
そもそもあの人の好みがよくわからない。油揚げが好きなのは知っているけど、特別有名な品でもないとおみやげとしては適さない気がする。普通に、おみやげ屋さんで一番人気とポップが出ているものをあげても嫌がりはしないんだろうけど。
奇を衒って驚かせてやりたい。それでいて喜んでくれなきゃ意味がない。
勝手に難易度を上げて勝手に悩んでいる。たかがおみやげに毎回こんなに頭を抱えているなんて、雨彦さんは露ほども思っていないだろう。だってあの人は、「気に入りそうだと思って」なんてさらりと言いながら、いつも僕の好みにピタリと嵌るものを寄越してくるのだ。それが嬉しくて、ちょっぴり悔しい。
それともあの人も、同じように悩みながら選んでくれているのだろうか。想像できないが、もしそうなら少し、してやったりという気持ちになる。困らせて喜んでいるわけではないけれど、何を考えているか読めない雨彦さんの頭の中に、僕が占める割合が多ければいいなって、そう思うことが増えてきた。 だとしても雨彦さんはけっして顔には出さないんだろう。
だから僕だって、さんざん迷って考えて買ったことなどおくびにも出さずに言ってやりたいのだ。
「雨彦さん、こういうの好きでしょー」