Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    chiocioya18

    @chiocioya18

    20↑ と〜〜っても腐ってます逃げてください
    ジャンルもCPも闇鍋

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 71

    chiocioya18

    ☆quiet follow

    雨想バレンタイン。想楽くんがから回ってる話です。わりと甘々です 大人っぽくてしっとりした雨想はいませんので解釈違いにご注意ください

    #雨想
    fleetingThing

    二月に入った途端、店先はどこもバレンタイン色に染まってしまった。以前のバイト先ならかきいれ時だねーと売り場作りに精を出していた気もするけれど、今では通りすがりに眺めていくだけになってしまった。
    ……そのはず、だったのだけど。

    「色めいた空気に香るチョコレート……」

    二月十四日。事務所に向かう僕の鞄の奥底には、綺麗にラッピングされたチョコレートが眠っている。眺めるだけのつもりだったバレンタイン催事のコーナーで、キツネの描かれたパッケージを見つけてうっかり雨彦さんを思い出してしまったのが発端。そういえばチョコあげた方がいいのかなとか、でもファンからのプレゼントでも貰うだろうから僕からはいらないかなとか、でもなにも用意しないのも一応恋人なのに薄情かなとか、なんだかぐるぐる考えてしまって、気がついたらレジでお会計が済んでしまっていた。
    買ってしまったなら仕方ない、食べ物に罪はないのだし。問題は渡す時だ。忘れてたふりして差し入れだよーってあげてもいいけど、かえって照れ隠しみたいでからかわれそうだ。かといって改めてバレンタインチョコですって渡すのも、照れくさいというかなんというか。世の中のバレンタインにチョコを渡す人たちって、みんなこんなに悩んでいたのだろうか。
    悶々としながら事務所の扉を開けると、すぐに賢くんが「お疲れ様です!」と声をかけてくれた。作業中の机の上には色とりどり華やかなラッピングの、まさに僕を悩ませているものが所狭しと積まれている。

    「今年もみなさんにチョコたくさん届いてますよ」
    「お疲れ様ですー。仕分け大変だねー、手伝おうかー?」
    「いえ、僕の仕事ですから! プロデューサーさんはもうすぐ着くそうなので、想楽くんは奥で待っててください」

    にこやかに示された奥のソファーには、座ってても背が高いのがわかりやすい白縹色の頭が見える。僕が来たのに気づいて雨彦さんはひらりと手を振ってきた。

    「よう北村。お疲れさん」
    「お疲れ様ー」

    先にLINKで連絡を貰ってたから、雨彦さんが先に来てるのもクリスさんが少し遅れてくるのも分かっていたけど。おそらく雨彦さんも同じように賢くんとのやりとりをしたはずで、これでバレンタインを忘れていたふりもしづらくなった。どう切り出そうか、トートバッグの肩紐を握って内心迷っていると雨彦さんの方が「そうだ」と口火を切る。

    「北村に渡すものがあってな」
    「えっ!? あの、実は僕もあるんだー!」

    驚きに若干声が裏返った。まさか雨彦さんもチョコを用意していたなんて。予想外だけど都合がいい、お互い渡すのなら照れくさいのもお互い様だ。僕が慌てて鞄の底から小さなチョコレートの箱を出すのと、雨彦さんが手に持ったなにかを渡してくるのはほぼ同時だった。

    「はい、これー……え?」
    「ほら。昨日更衣室に忘れてたぜ。気に入りなんだろう?」
    「あ、うん。ありがとうー……」

    雨彦さんが差し出したのは、僕がいつも付けてる花の飾りのブレスレットだった。そう、昨日帰ってから失くしたことに気づいて、たぶんレッスンで着替えた時だろうから探しに行かないとって思ってた、それはそうなんだけど。……今、このタイミングで出してくるのは紛らわしすぎないー?

    「で? お前さんのはなんだい?」

    絶対分かっているくせに。ニヤニヤと笑う狐顔に悔しい気持ちを募らせつつ、僕は観念して明らかにバレンタイン用のラッピングがされた箱を雨彦さんに押し付けた。

    「……別に、他意はないからー」
    「何も言われてないのに他意もないんじゃないか?」
    「あーもう!バレンタインチョコですー。本命ですー。これで満足ー?」

    やけくそになってむくれる僕に雨彦さんはさらに笑っている。慣れないことをして、勘違いでから回って、こんなにも恥ずかしい。これも全部、あなたを想ってのことなんだってわかってるのかな。
    渡した包みを、雨彦さんは大事そうに眺めて、その顔のまま僕を見つめ返して。

    「笑って悪かった。ありがとな」
    「どういたしましてー」

    そっぽを向いたまま返事をすれば、「そう臍を曲げなさんな」と肩に手を乗せられた。耳元に雨彦さんの唇が近づく。

    「実は、俺も北村に用意してたんだ。バレンタインのチョコ」
    「……本当かなー」
    「本当さ。ただ、今日になって渡す勇気が出なくてな。家に置いてきちまった。だから……」

    帰りに寄っていかないか、って、囁かれて。その話の真偽はともかく、誘われたってことは期待していいのだろうか。途端に浮き足立つ心がそわそわし始める。それでも体裁だけは整えて「まぁいいけどー」としれっと返した。雨彦さんだって、そんな僕のことなどお見通しだ。

    「お望みなら三倍返しもしてやれるぜ。お前さん、明日の予定は?」
    「それ聞いてくるってことは、三倍で済まないんじゃないかなー」

    入り口の方から、クリスさんと賢くんの声がする。間もなくプロデューサーさんも到着するだろう。雨彦さんは小箱をしまって、僕はブレスレットを付け直して仕事仲間の顔に戻る。その横顔にこっそりと呟いた。

    「ちなみに明日は一日オフだよー」

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤🍫😇🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works