清(さや)けき指先[スパ+アス] 太刀のごと清(さや)けさ帯びた指先で
バナナ剥きけりイーガの参謀
―――イーガ団アジト、食堂
「あまりジロジロ見られると集中できぬでござる」
「! あ、あぁ、すまない」
コーガ様からいただいたバナナ一房を一本一本丁寧に剥いていたら、二席ほど離れた位置から占い師殿が私を見つめていた。
「お前がひどく慎重にバナナの皮を剥くから気になってしまったのだ」
頬杖をつきながら占い師殿はこちらの出方を窺うように口を開く。
「本当にそれだけにござるか?」
「本当だとも。相変わらず信用されておらぬようだな」
「……」
あまり他人には興味のない御仁だと思っていたので意外と言えば意外だった。他者への興味も思いやりも実は人並にあるのかもしれない。
そう思えばこの少し離れた場所にいる占い師殿の事も、そろそろ信用しても良い頃合いのような気もした。
「コーガ様から直々にいただいたバナナ…乱暴に扱うわけにはいかない故、こうやって一本一本愛刀のように慈しんで剥いているでござる」
「ふっ、お前の頭領への忠義とやらもそこまでいくと病的だな」
「…………」
――前言撤回。この御仁、やはりというか当然というか自分の見立て通り他者への興味も思いやりの心も全くの皆無のようであった。
でなければ、こんなイーガ団のアジトの真ん中でコーガ様への侮辱と取られておかしくない言動など出来る筈がないのだから。
「――仮面の下から凄むな。侮辱の意図はない。単に感心しただけだ」
「お主の言動はいまいち信用ならん」
「そう言うな。お前の邪魔をする気は毛頭ない。存分にあの頭領から下賜されたバナナを食すといい」
そう言って、占い師殿はそそくさと食堂を去っていった。
「占い師殿……」
面倒な客人がいなくなってホッとしている筈の胸は、微かにおかしなリズムを刻み続けている。
さっきの得体のない会話ではぐらかされてしまったが、自分を見つめていた本当の理由が知りたかった。ただそれだけ。
「なにゆえあのような……」
だってバナナを剥く自分を見つめていた占い師殿の眼差しは、確かに彼が星見の為に夜空を眺めている時のように柔らかなものだったから。
嗚呼何故だバナナ剝きたる大男の
太い指先離れぬ我が眼
了
あとがき
じっと見ていたのはバナナを剥く所作が綺麗すぎて見惚れてしまっていたからという話でした。
スパさんの所作は美しいと勝手に思ってるのでバナナを剥く姿でさえきっと綺麗だと思ってる。アス君ユガ様ギラ様程じゃなくても審美眼優れてると思ってるので、ガノ様に魅入られた後でも美しいものに本能的に目を奪われててほしい。
退魔の剣抜かれた時も、剣の輝きに目を奪われてきっと動きたくても動けなかったんだよ…!(真顔