神獣の一撃を放つ時のポーズにこだわるリーバル君の話「なぁ……あんたさ、神獣の一撃を厄災に食らわす時、どうするの?」
いつかの英傑同士の会合後、リトの英傑が変な事を聞いてきたことがあった。
「どうって……そりゃ、こう雷を放つ時みたいに指を鳴らして」
「右手か、右手だね」
右手を振り上げて指を鳴らすフリをすると、リーバルは私が答え終わる前にまた変な確認してくる。
「そうだけど……一体どうしたんだい?」
「…………」
どことなく焦ってるようにも見えるが、今度は何を気にしているのやら。
悪い奴じゃないとは思うのだが、リンクとのリトの村での一件から見ても如何せん若いのに気難し過ぎるのではと最近常々思う。
「土壇場になって左手でやったりなんて事……しないよね」
「…………」
何となく、このリトの青年の今気にかけている事が分かってしまった。
(まさか神獣を繰る時のポーズにまで拘るなんてねぇ…)
いつも大人ぶっているが、リーバルはごくたまにどこか子どもっぽい所を覗かせる。
叙任式の日に皆でウツシエを撮ろうとした際、私とポーズが被りかけたのが余程嫌だったのだろう。あの時目の端でこの英傑が小さく舌打ちしながら組んだ腕を下ろしているのが見えて、密かに吹き出しかけたのが懐かしい。
(ま、その後もっと面白いものを見せてもらったが…)
その事に触れてやらないのも大人の務めかもしれない。
「しないしない。私はアンタと違って器用じゃないからさ」
ひらひらと手を仰ぎ、そんな気一切ないとアピールする。
「……今の言葉、覚えておくからね」
私の返事にとりあえず納得したのかリーバルは英傑の間を去ろうとする。
「あぁでも……」
少しだけイタズラ心が湧いて、青いヴァードの背中を呼び止めた。
僅かに振り向いた群青によく馴染んだ風の神獣のスカーフがふわりと揺れる。
「アンタが素直じゃない事ばかりしてたら、悲しくて被っちまうかもねぇ」
「!?」
「……フン、ゲルドの族長サマは勘が良過ぎてホント腹立つね」
「褒め言葉として受け取っとくよ」
笑顔でウィンクしてやれば、リーバルは余計嫌そうに舌打ちしていた。
「チッ……これだから嫌いなんだよあんたは…っ…!」
リーバルは吐き捨てるようにそう言って、本丸からタバンタの方角にあっという間に飛び立っていた。
◇ ◇
「ふふっ…あいつはやっぱりからかうと面白い」
リトの戦士が落としていった青い羽根を拾いあげながら、一人ごちる。
あと十年もすれば、今の刺々しさも抜けてもっと良いヴォーイ…もとい良い戦士になるだろう。
「その姿を見れるかはまだ分からないけど……」
誰一人欠けること無くガノンとの決戦を乗り越えて、いつか皆が酒を飲めるようになったらあんな事もあったねと思い出話に花を咲かせられる日が来ることを祈るばかりだ。
(でも、もし出来なかったら…)
厄災の討伐に失敗すればその未来も潰えてしまう。
私やダルケルはまだ良いが、他の三人はまだ若い。そんな事、絶対にあってはならない。
「ま、そうならないように私も気合い入れるかね」
リトの英傑が飛び立ったタバンタの方角を見つめながら、そう呟いた。