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    onsen

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    onsen

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    クロラム
    「20グラムの甘さに託して」の続きのホワイトデー話です。ほとんどクラゲ兄の話でクロラムはほんのり。
    初出 2021/3/14

    #クロラム
    chloroform
    ##怪ラム

    Cookie Clickers! なんでこんなことになったんだ。自分の手元と目の前で繰り広げられる光景をどこか他人事のように感じながら、クラゲは考える。手元にあるのは、どこで切っても同じ市松模様が出てくる、よく冷えた生地とナイフ。こういう風に作るんだ、金太郎飴みたいだなだなんて、明後日の方向に転がっていく思考。目の前には、まだうっすらと湯気を上げている大量のクッキー。わたわたと走り回るふたりの妹。そして。
    「クラゲ! 次行けるか!?」
     オーブンレンジの前で采配を振るう、ラムネの姿。ふざけた柄のエプロン姿が癪に障るが気にしている場合ではない。
    「とっくにできてるよ!」
     嘘だ。結構ギリギリのタイミングで切り終わった生地の載ったオーブンペーパーを鉄板に載せて渡せば、ラムネがオーブンの中の鉄板とそれを入れ替える。出てきた鉄板の上には勿論、たくさんのクッキー。台所に充満した甘すぎる匂いにクラクラする。
     もう、何百枚焼いたんだったっけ。
     そもそもどうしてこんなことになったんだったか。

    Cookie Clickers!

     話はちょうど1ヶ月前に遡る。
     戦利品と、それよりだいぶ多い果たし状でぱんぱんになった紙袋を手に意気揚々と帰宅したクラゲの目に、テーブルに置かれた綺麗な箱が入った。
    「お、誰のだろ」
     高さはだいたい4cmの、艶のある加工の施された黒い箱。時期的に中身はチョコレートに違いない。それも、それなりにお高いやつ。
     たとえ本命だったとしても、悠流の同級生ぐらいの年齢の子が買うような雰囲気ではない。だとすれば、兄か。こんなところに出しっぱなしにしておく迂闊さを思って、クラゲはにやりと笑う。一つ二つ食べても問題ないだろう。出しっぱなしにしてた方が悪い。
     高級感漂う黒い紙箱の蓋を外せば、黒、茶、白、赤、色とりどりのトリュフが並んでいる。いくつか歯抜けのようになっているのは、もう兄が食べたからか。
    「いただきまーす」
     その中で目についた、艶やかな赤を摘む。よりによってハート柄のを奪ったのはちょっとしたいたずらだった。この量と値段で義理ってことはないだろう。
     ぱくり、と口に放り込み。
     しばし、言葉を失った。
    (なにこれ、めっちゃうまっ!?)
     少し固めの表面は、口に入れると滑らかに溶けて、中の柔らかなガナッシュが現れる。苦さがほどよく甘みを和らげて、後味が重くなり過ぎない。満足感はあるのに、いくつでも食べられてしまいそう。
     一体いくらするんだろう。こんなのどう考えても本命だ。さすがに謝ったほうがいいかもしれない。
    「あ、クラゲ兄。それ食べた?」
     ひょい、と姿を現した悠流が、手元の箱と、目を見開いたクラゲの顔を交互に見て尋ねる。やばい、さらにまずいことをしたかもしれない。
    「え、これトールのだったの!? ごめんね、てっきり兄貴のだと思って! すぐ同じの買ってくるから!」
     最愛の弟の肩を掴み、全力で謝罪した。でもそれはそれとしてこんな高級感溢れるチョコを渡してくれる子ってなんなんだ。けれど、悠流は特に気を悪くする様子も困惑する様子もなく、いつも通りの調子でこう応えた。
    「食べていいよ。それ、先生がみんなにって持たせてくれたものだから」
    「は?」
     聞き捨てならない言葉が含まれていた気が、した。
    「僕は先生のところで食べてきてるから、これはみんなの分」
     さっき雷が食べてるのは見たけど、他のみんなはまだだから残しておいて、という言葉が耳を素通りする。
    「ラムネが?」
    「うん」
     なんなんだあいつは。いちいち癪に触る。でもチョコレートのチョイスは見事だった。どこの店のだ、これ。ちょっと教えて欲しい。
     とはいえ、あんなヤツに借りは作りたくない。これより3倍……とまでは言わないが、ちょっとランク上の焼き菓子でも買ってきて返してやろうと思ったのに。
    「先生の手作りだよ」
    「は!?」
     更に聞き捨てならない言葉が投入されて、いよいよ大声が口から転がり出た。
    (こんなオシャレなチョコレート専門店みたいなのが、あいつの手作り!?)
     料理の腕前が超一流であることは知っている。手先が器用なのも、野菜の飾り切りや盛り付けがいちいち見事だからわかってはいる。毎日このクオリティで食事の用意をしてくれているのだと知り愕然としたものだ。
    (それにしたってこれ、店で買ったら一粒200円とかはするんじゃ……)
     なんであいつ医者なんかやってるんだ。いや、腕が悪くないのは嫌というほど知っているが。
     端的に言えば、してやられた気がした。向こうにはそんな意図はないだろうに。
    「クッソっ、絶対ラムネに借りなんか作らないよ、3倍返しにしてやる」
     とてもとてもバレンタインの日の独り言とは思えぬ、どちらかといえば某金融経済ドラマの主人公の如き地の底から這うような声が、クラゲの口からどろりと流れ出た。

     とはいえ、どうしたものか。純粋に店で売ってる同じぐらいのクオリティのチョコの3倍ぐらいの値段の焼き菓子を用意しようかと思ったが、普通にとんでもない値段になったので諦めた。家族7人分のチョコレートは、数もそれなりにあった。たぶん、数千円ぶんぐらいの味はした。
     妹たちがクッキーを焼く相談をしているのを聞いたのは、いよいよラムネに一矢報いる手段を思いつけないまま、ホワイトデーも差し迫ってきた時のことだった。バレンタインの時に友チョコをたくさんもらったので、そのお返しをするらしい。
     何人分? クラスの女子全員! 何枚焼くの? たくさん! みたいな、母と妹たちの可愛いやりとりを見ているうちに、頭にふと、電撃のようにアイデアが降ってきた。
     量で3倍返せばよくない?
     要は、考え過ぎて脳がショートしたのである。
    「僕も一緒に焼くよ」
     そんなことを妹たちに告げたのが数日前の話。

     そしてラムネが大きな買い物袋を手に玄関先に現れたのが、大体3時間前の出来事。
    「は!? なんでいるの!?」
    「なんでって……お前に呼ばれたから来たんだけど」
    「こんな時間だって言ってない!」
    「氷詩が1時の約束だって言ってたぞ……?」
    「え?」
     ラムネの貧弱な胴体には、呼び鈴が鳴るなり弾丸のように飛び出した妹たちがご機嫌でまとわりついている。
    「だってクラゲ兄、1時から焼くって言っただろー?」
    「言ったけど、それは作り始める時間で……」
    「え、クッキー作りの助っ人に呼ばれたんじゃねーの?」
    「は?」
     一見ばらばらな全員の話と自分の記憶が、かちかちと斜めに噛み合って一枚の歪な絵になっていく。状況はおそらくこうだ。
     一昨日の夜、直接ラムネに連絡を取るのが癪だったクラゲは、悠流に伝言を頼んだ。渡すもんがあるから明後日の夕方に取りに来い、と。しかし、あの賢明な弟にしては珍しく、兄が夕方に来るように言っていた、と言う部分だけを伝えて、要件は言わなかったらしい。あの時はもう良い子は寝る時間で、そういえばすごく眠そうだった。踏ん切りがつかなくて散々躊躇った結果のその時間だったのだが、半分聞いてなかったのかもしれない。
     クラゲに決闘でも申し込まれたのかと怯えたラムネは、思ったより早く今日の仕事が片付いたので、ご機嫌取りにか土産を用意してこようと思ったらしい。今日在宅の人数を聞こうと電話を掛けてきた。
     その電話をとった氷詩は、ラムネの来訪とクッキーを焼く、という予定から、てっきりラムネが手伝いに来る約束をしていたのだと勘違いし、電話口で大喜びしてしまった。母に台所を使う許可を取った時刻をラムネに告げる。
     約束の時刻を勘違いしていたかと焦ったのはラムネだ。慌ててスーパーで材料を買い込み、この時間に駆けつけたというわけである。ピタゴラスイッチ並に見事な勘違いと伝達ミスの連鎖だった。だいたいの事故原因は自分たち兄妹にあり、ラムネはだいたい巻き添えを食っただけ、というのがこれまた癪に障る。
    (こんなことなら自分で連絡しとけば良かった……!)
     後の祭りである。呆然としたのち舌打ちすると、ラムネがびくりと怯えたように身を震わせた。もうこうなったらヤケだ。
    「バレンタインですごい量もらっちゃってさ! 料理の腕だけは確かなんだから、お返し作るの手伝ってよ。普段トールを独り占めしてるんだからこれぐらいいいよね?」
     我ながらめちゃくちゃな理屈だが、もはやほかにどうすることもできない。
     明らかに困惑しているし、なにかを誤魔化そうとしていることに気づかないわけもないだろうが、そもそもそのつもりで来たラムネは了承する。妹たちがそれぞれの手を引っ張って行くものだから、肘の位置まで落ちてきた買い物袋の重みにあげた悲鳴が、いかにも貧弱で気に障った。
     本当に、なんでこうなった。だいたい自分たちのせいな気はしている。

    「で、なんのクッキー作んだ?」
     腹立たしいほど勝手知ったる様子で台所の準備を整えていく。妹たちは小学生でも簡単に作れそうなチョコチップクッキーを作るつもりのようだった。
    「でもラムネが手伝ってくれんならもっとすごいのも作れるな!」
     目をキラキラと輝かせた妹たちの笑顔が眩し過ぎて頭が痛い。
    「お! んじゃこんなのはどーだ?」
     持ってきたお菓子の本を広げて、いくつか写真を指し示す。
    「こんなの家で作れるのか!?」
    「作れるよ。これにすっか?」
    「これにする!」
     妹たちが選んだのは、中に色つきガラスが入ったようなクッキー。本当にこんなの家で作れるんだろうか。
    「クラゲは? こーゆーのがいいとかあるか?」
    「雷と氷詩が選んだやつでいーよ」
    「お前もくれた子にちゃんとお返ししてーんだろ? 何種類か入ってっと見栄えいいし」
     こんなのどーよ、と提案されたのをそのまま受け入れるのもなんとなく嫌で、敢えてその隣のをろくに見もしないで指差す。
    「お、市松模様のアイスボックスクッキーか」
     そんな名前であることすら知らなかった。
    「うし! んじゃ気合入れてっぞ!」
     ラムネのその一言を合図に、台所は戦場になった。
     妹たちは本当にクラスの女子全員に配るつもりのようで、もうそれだけで軽く100枚は超えた。せっかく焼くんだから家族みんなに食べさせたい、とのことで、さらに枚数は増えた。それにラムネに返す分も含んだ、自分の分のお返し。
    「これ、味見していいか?」
    「待て待て、クッキーは焼き立てすぐより冷めてからの方がうめーから、次の焼いちまってからにしような」
     柔らかな湯気を立てるクッキーが載ったシートを鉄板から下ろし、次のを載せる。
     そう、次の。焼いては取り出し焼いては取り出し、焼いても焼いても終わらない。
     いつのまにか、あらかじめ準備していた材料とラムネが買ってきた分の全てがクッキーの生地へと錬成されていた。ラムネのお手本と指示のもと、ひたすらバターと小麦粉を捏ねた。カラフルな飴を指で砕いては粉にした。そんなに粉々にしなくても……というラムネの若干引き気味の声は無視した。
    「おいクラゲ、これでお前のお返しの分足りるか!?」
    「まだだよ!」
     ぶっちゃけこんなにもらってない。もはや見栄や誤魔化しなのかどうかさえわからない。ただ、なぜかクッキーの生地を成型し続ける手を止めたくなかった。ラムネはひたすらクッキーを焼いては、冷めたものから綺麗に袋詰めをしていく。妹たちも同じだった。
     全員目がおかしかった。わけがわからなかった。やたら楽しかったことだけ、覚えていた。
     こんな感覚を、自分たちはよく知っている。
     それは、強者との全力を賭した勝負の時とよく似ていた。

    「うちの台所が、夕方の河川敷みたいになってる……」
     それから約一時間後、その日の鍛錬を終えた悠流が見たものは、台所の床に仰向けに倒れ込みながら、やたらと満足げな笑みを浮かべた兄と妹たちと師の姿だった。

     よくわからない心地よい疲労感に浸りながら、しかし帰り支度を始めたラムネに、今日の本題を思い出す。
    「ん? どした?」
     妹たちからのお礼としてそれぞれから贈られたクッキー(どちらが作ったのかわかるように、それぞれ自分の名を示した形を不恰好ながら作っていたらしい)の袋を持ったラムネに、市松模様のクッキーだけが入った大袋を渡す。質量にして、だいたい3倍。
    「一応、お礼だよ」
     今更もう、バレンタインのお返しとか仕返しとかはどうでも良くなっていた。ただただ、なんだか楽しかったのだ。
    「お、おう」
     3人分合計でひと抱えはありそうなクッキー。一人暮らしのラムネが食べ切るにはどれだけかかるだろう。けれどこいつはきっと、湿気って味が落ちてしまう前に完食してくれるんだろうという確信があった。
    「ありがとな!」
     なんとか落とさない位置取りを見つけてから、満面の笑顔。生地を作ったのも焼いたのもだいたい自分だし、材料を持ってきてくれさえしたのに。
    「荷物多いし、駅まで送ります」
    「いいよ、多いっつってもクッキーだけだし」
    「両手塞がってて転んだら粉々になります」
     大の大人に対して随分と過保護な発言をしつつ、当たり前のように寄り添う悠流の姿に、寂しさを感じないわけはない。だけど、そうしたくなる理由が恩義だけではないことも、これまでの付き合いでわかりつつある。
     ついていきたがる妹たちを制して、歩き出すふたりを、なんとも言えない気持ちで見送った。


    「先生、それ食べ切れますか?」
     駅まで送りながらクロが尋ねれば、もらったもん無駄にするわけねーだろ、と返ってくる。
    「それ昼食がわりにするとかやめてくださいよ」
    「…………おう」
     これは、絶対する。ため息が出た。他人の気持ちをこれだけ大事にするのに、自分の体は全然大事にしない。
     見送りにきたのは心配だからだけではない。鞄の中で存在を主張する紙袋。中身はべっこう飴だ。理科の実験で作って、先生の目の色に似ていると思ったし、なんだかんだで多忙な先生でも簡単に摂取できると思った。でも、これだけ大量の糖質の塊を抱えている先生に、渡すのが躊躇われる。
    「……どした、クロ。さっきから俺の目じっと見て」
    「えっ」
     べっこう飴のことを考えていたら、自然と見つめてしまっていた。金色の、なにもかもを見透かすような、怖さと、慈愛の同居する目を。
    「……先生の目、飴玉みたいって思って」
    「は? んだよ、それ」
     逆だ。飴玉が、先生の目に似てると思ったんだ。
     渡すなら、今しかない。
    「理科の実験でべっこう飴作ったんです。よかったら、食べてください」
     袋で渡そうとして、先生の両手が、兄や妹たちからの贈り物で塞がっていることを思い出した。
     だから、一粒取り出して、先生の顔の前に腕を伸ばした。似ていたけれど、先生の目の方が綺麗だと思った。
    「口開けてください」
     なんの躊躇いもなく開かれた唇から、舌が覗く。その上に飴玉を落とすと、迷わずに口に含んで、
    「さんきゅ」
     と片側の頬を膨らませて笑った。
    「お返し、受け取ったよ」
     理科の実験で作った、その後に、先生のためだけに作ったことは、やっぱり見抜かれていた。
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    onsen

    DONEクラファ仲良し
    クラファの3人が無人島で遭難する夢を見る話です。
    夢オチです(超重要)。
    元ネタは中の人ラジオの選挙演説です。
    「最終的に食料にされると思った…」「生き延びるのは大切だからな」のやりとりが元ネタのシーンがあります(夢ですが)。なんでも許せる方向けで自己責任でお願いします。

    初出 2022/5/6 支部
    ひとりぼっちの夢の話と、僕らみんなのほんとの話 --これは、夢の話。

    「ねえ、鋭心先輩」
     ぼやけた視界に見えるのは、鋭心先輩の赤い髪。もう、手も足も動かない。ここは南の島のはずなのに、多分きっとひどく寒くて、お腹が空いて、赤黒くなった脚が痛い。声だけはしっかり出た。
    「なんだ、秀」
     ぎゅっと手を握ってくれたけれど、それを握り返すことができない。それができたらきっと、助かる気がするのに。これはもう、助かることのできない世界なんだなとわかった。
     鋭心先輩とふたり、無人島にいた。百々人先輩は東京にいる。ふたりで協力して生き延びようと誓った。
     俺はこの島に超能力を持ってきた。魚を獲り、木を切り倒し、知識を寄せ合って食べられる植物を集め、雨風を凌げる小屋を建てた。よくわからない海洋生物も食べた。頭部の発熱器官は鍋を温めるのに使えた。俺たちなら当然生き延びられると励ましあった。だけど。
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    onsen

    DONE百々秀

    百々秀未満の百々人と天峰の話です。自己解釈全開なのでご注意ください。
    トラブルでロケ先にふたりで泊まることになった百々人と天峰。

    初出2022/2/17 支部
    夜更けの旋律 大した力もないこの腕でさえ、今ならへし折ることができるんじゃないか。だらりと下がった猫のような口元。穏やかな呼吸。手のひらから伝わる、彼の音楽みたいに力強くリズムを刻む、脈。深い眠りの中にいる彼を見ていて、そんな衝動に襲われた。
     湧き上がるそれに、指先が震える。けれど、その震えが首筋に伝わってもなお、瞼一つ動かしもせず、それどころか他人の体温にか、ゆっくりと上がる口角。
     これから革命者になるはずの少年を、もしもこの手にかけたなら、「世界で一番」悪い子ぐらいにならなれるのだろうか。
     欲しいものを何ひとつ掴めたことのないこの指が、彼の喉元へと伸びていく。

     その日は珍しく、天峰とふたりきりの帰途だった。プロデューサーはもふもふえんの地方ライブに付き添い、眉見は地方ロケが終わるとすぐに新幹線に飛び乗り、今頃はどこかの番組のひな壇の上、爪痕を残すチャンスを窺っているはずだ。日頃の素行の賜物、22時におうちに帰れる時間の新幹線までならおふたりで遊んできても良いですよ! と言われた百々人と天峰は、高校生の胃袋でもって名物をいろいろと食べ歩き、いろんなアイドルが頻繁に行く場所だからもう持ってるかもしれないな、と思いながらも、プロデューサーのためにお土産を買った。きっと仕事柄、ボールペンならいくらあっても困らないはずだ。チャームがついているものは、捨てにくそうだし。隣で天峰は家族のためにだろうか、袋ごと温めれば食べられる煮物の類が入った紙袋を持ってほくほくした顔をしていた。
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