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    遊兎屋

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    遊兎屋

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    【宿伏】R15

    #宿伏
    sleepVolt

    出られない部屋系








    "名前を呼ばないと出られません(12回)"



    「……はぁっ?」

    思わず声が漏れる、盛大に。
    何がどうしてこんなところに閉じ込められているのか皆目検討も付かなくて、わがままに跳ねる自分の癖っ毛を掻き混ぜ大きく息を吐く…

    さっきまで自室で本を読んでた筈だ…

    うつらうつらと船を漕いでいたのは自分でも気付いていて、そろそろ布団に入らないとな。と考えながら、意外にも心地の良い揺れに身体が動かせなかった。
    うとうとしていたところでいきなり力が抜け、ガクッと身体が揺れて、慌てて顔を上げた時には既にこのよく分からない空間に座っていた。

    白い壁に囲まれた部屋…
    目の前の壁には名前を呼ばないと出られないと書かれていて、空間にあるのはベッドのみ。まるで意味が分からない。
    新手の呪霊か?
    取り敢えず…一つ息を吐いてから部屋の真ん中に置いてあるベッドにどっかりと胡座を組んで座っている男に目を向ける。

    「…、宿儺…だよな?」
    「ああ、この姿は初めてか」

    胡座を組んだ膝に肘をついて頬杖をつき、何やら楽しそうに笑う宿儺の姿
    虎杖を受肉体としての姿ではなく、昔の…呪いの王と呼ばれた最盛期の頃の姿だろうそれに目を細める。
    全体的にゴツいし、大きい…
    ベッドが小さく見えるほどの姿は少し近寄りがたい。
    4本の腕と4つの目、何故か上半身は裸
    子供っぽさの残る虎杖の顔とは似ても似つかない精悍な…大人の顔。

    「いつまでそこに突っ立っておるつもりだ?こっちに来い」
    「出口、探さないとだろ」

    もしかしたら隠し扉があるかも、そう思って壁を撫でてみてもつるりと滑らかな感触が指先にあるだけだったけれど…
    俺の言葉にふんっと鼻を鳴らした宿儺がベッドをぽんぽんと叩く。

    「そんなものは無い。出たいのならこっちに来い」

    くっと顎で壁にある文字を指されて小さく唸り声が上がる。
    方法は一つしかないってか…
    それでもそれを認めたくなくて、可能性を考えてベッドを軽く叩く宿儺の言葉を無視してぐるりと周りを見渡す。
    部屋の壁は全て白くて、扉なんてものは無い。
    本当にベッドしか置いてなくて、手を組んでみてもいつも応えてくれる声が無い…
    もともとダメ元で試しただけだからそこまで落ち込まない。

    方法は一つ。
    名前を12回呼べば良いだけ。
    それなら別に宿儺の方に行く必要もないだろう。

    「…名前、呼べば良いんだろう。」

    誰が誰の名前を呼べと指示はない。
    それを指摘して宿儺に目を向ければなんとも不服そうな顔で俺のことを見てきていて、笑いそうになる。
    拗ねたのか。
    俺が近寄らないから。
    案外に表情豊かで分かりやすいのだと気づいたのは、関係性が変わって最近になってからだけれど呪いの王に対してまさか可愛い、なんて思う日が来るなんて思わなかった。

    「宿儺」

    ぽつりと名前を落とせば、宿儺の眉がピクッと動く。
    それから続けて宿儺の名前を11回…
    指を折って確認しながら名前を呼び終わっても部屋はシンっとしていて思わず顔が歪み、舌打ちが出る。

    「ケヒッ、どうやらこの命令は俺に対しての様だなあ?」

    俺の様子と部屋の様子に、さっきまで不貞腐れた様な顔をしていた癖ににんまりと笑う宿儺にもう一度舌を打っとく。調子がいい奴だな…

    「ほら、こっちに来い」
    「…なんで」
    「なんだ、怖気付いたのか?この姿に」

    どうしても俺を近くに呼びたいらしくて、今度は胡座を組んだ自分の足を叩く宿儺に思わず声を溢す。
    そうすればにやにやと質の悪い笑みを浮かべながら煽られて、単純にイラッとする。

    「別に…」

    早く名前を呼んでくれ。
    12回呼べばすぐに出れるんだ、長居する必要も無いだろ…
    そう言いたいのに、名前を呼べ、なんて自分からはなかなか言い難い…。
    宿儺の姿は確かにいつもと違うし圧は感じるけれど、呪いの王の最盛期と言われても全く恐怖感は浮かばなかった。
    それどころかかっこいいとすら思えるくらいには好きだなと思った。…絶対言わねぇけど。

    「直ぐに呼んだらつまらんだろ。別に脅威があるわけでも無い、小僧の中はつまらんからなぁ…久方振りに愉しませろ」

    満足したら直ぐに出してやる。
    そう付け加えた宿儺に見据えられて、少し迷った末に足をベッドへ向ける。
    呪いの王が脅威はないと言っているわけだし、好きにさせるのが一番か…。
    結局この空間が何かも分からないままだけれど仕方ない。
    俺だって別に会いたくなかったわけじゃない。

    「ここに来い」

    ベッドに近寄り膝をついて上に乗れば、ぽんぽんと自分の足を叩く宿儺をじとっと見つめる。
    近寄ってみるとより一層大きく感じる宿儺の身体に少しだけ圧倒されながらおずおずとにじりよる。
    目の前まで来て、胡座の上に座れと言われている事は分かっていても自分から進んで座ることも憚られて躊躇していれば腕を掴まれ強く引き寄せられる。

    「ッ」
    「くく、そう緊張するな」

    引き込まれた腕の中、胡座の上に横抱きで乗せられてしまいいきなりのことに身体が固まる。
    身体がしっかりと足の上に乗っかっていて俺の足が少し出ているくらいの体格差に改めて宿儺の大きさを実感する。
    手だって大きくて、前髪を掻き上げられた時に頭を握りつぶされるんじゃないかと思うほどだったし、分厚く硬かった。
    2本の副腕が俺の身体を抱き締めていて、残りの2本が顔や手を好き勝手に触ってくる。

    …ああ、何も変わらない。
    体格が変わっても、宿儺の瞳は血で染めたみたいに紅くて不気味で、それ以上に魅力的で…
    俺をみてくる瞳には優しさを感じるから知らずに入っていた身体が抜けていく。
    手付きだって、まるで壊物を扱うかの様に柔らかくて、そんなに柔じゃないと言いたくなるほどにむず痒い。
    腰を撫でてくる宿儺の手を取って、ずっしりとした重みと節だった男らしい手付きが羨ましく感じる。
    綺麗に切り揃えられている爪や、手のひらを擽ったり、指の間を撫でてみたり…
    普段こんなにも近くで触れる機会が少ないこともあって、全く飽きない。

    「…恵」

    自分の腹の上で宿儺の片手を好きなように触っていれば名前を呼ばれる。
    あ、と思って顔を上げれば上から覆い被さるように俺を見下ろしてきている宿儺の顔が視界に入って近付いた距離がそのままゼロになる。

    「んっ、う」

    ちゅうっと吸い上げられるように下唇を食まれて、思わず声が漏れる。
    自分の声が聞こえて恥ずかしさでビクつく身体をゆったりと撫でられながら、唇を舐められ、少し開けた唇から宿儺の舌が入り込んでくる。

    「っ、はっ、ンンッ」

    なんだこれっ…口ん中いっぱいになるっ
    若干の息苦しさに眉を顰め、チラリと宿儺を見てみれば近距離でぼやける視界の中、スッと目が細められるのが見える。
    いつもは虎杖の身体だからか、人間の範疇を超えない程度の愛撫をされるけれど、今は違う。
    舌も分厚くて長いのか…
    普段よりも深く口腔内を舐められてあまりの深さに宿儺の着物を握り締め、苦しさを抗議する様に鼻に詰まった声をあげる。
    宥めるように頬を撫でられ、すぐに嗚咽が出そうな場所から舌が引いたかと思えば、上顎をなぞられ、歯を一つ一つ確認するように舌が這う。

    「ふ、ぅ…、はッぁ…」

    気持ちいい。
    苦しさに慣れてしまえば、いつもより広く舐め上げられる気持ち良さに身体が熱くなる。
    時々、鼻で息するのを苦しく感じればそれを見計らって呼吸するために少しだけ口に隙間が出来る。
    舌が絡み合う気持ち良さに声を漏らしていれば、さっきまで弄っていた宿儺の手が俺の手に絡み付いて握られる。

    「んッ、は…、ぁ…、はっ」
    「気持ち良さそうだな」

    ちゅるっと、口内の唾液を舌と一緒に吸い上げられ、頭が痺れる。
    解放された口で息をしながら宿儺を見上げれば、目元を撫でられ口端に唇が当てられる。

    「ん…」

    頭を撫でられる感触が心地良くて、握られた宿儺の手を握り返せば宿儺が満足げに笑う。

    「…恵」

    スッと顎を掬い上げられ、宿儺の口元が顔の横に落ちてくる。
    少しだけ傾けられた顔が無防備に左耳を晒して、そこに宿儺の息遣いを感じ吐息を含んだ低い声が俺の名前を呼ぶ。

    「ッ、ぅ、ぁっ」

    突然びりっと走った快感に慌てて左耳に手を持っていって耳を押さえる。
    びっくりした、名前を呼ばれただけなのに…
    それだけで心臓がバクバクと跳ねて息苦しくなる。
    俺の反応に気を良くしたのか、くつくつと笑う宿儺の身体が揺れて、必然的に俺の身体も小さく揺れる。

    「ッ、名前っ」
    「なんだ、呼ばれたいのだろう?」
    「普通に呼べ!」
    「普通とはなんだ、つまらん。俺の好きに呼ばせろ…早く出たいのだろ?」

    未だに楽しそうに笑う宿儺を睨み付ければ軽くあしらわれる。
    好きにって…、心臓に悪いんだよっ
    手の甲で頬をするりと撫でられ、その手が左耳を隠す俺の手を掴む。
    ゆったりとした動きに乗せて、嗅ぎ慣れた…何処か懐かしい匂いが香ってくる。
    言ってみれば線香に近いような…死を連想させるそれとは別だけれど、白檀と言ったか…
    宿儺から香ってくるその匂いは自然と身体の熱を高めてくる。

    「手を離せ」
    「ふざけんな、嫌だっ」
    「…良いのか、ずっとこのままだぞ。俺はそれでも構わんがな」

    それを言われてしまうと抵抗出来ない…
    ぐうっと苦しく唸って宿儺の手に促されるように力が抜けていく。
    宿儺の手によって退けられた俺の手は身体を支える副腕に捕まえられて、既に握っていた片手と一緒くたにされて宿儺の片手で拘束される。
    これで俺の両手は捕まり自由を奪われ、宿儺は自由に3本の手を動かせる事になる。
    圧倒的に不利だ。
    4本ある時点で4対2だしどっちにしろ不利だったけれど…
    抵抗も虚しく左耳に宿儺の唇が落とされるのをなんとか肩をすくめる事で耐える。

    ふにふにと意外に柔らかい宿儺の唇が、左耳に当たって、耳朶を食まれる。
    息遣いがダイレクトに届きゾワつく首筋を宿儺の手が撫でてくる。

    「みみ、やめろ…っ」

    手で阻止しようとしてぎちりと握られている感覚に拘束されている事を思い出す。
    左耳から入ってくる音と息の振動が鼓膜を揺らしてなんとも言えない擽ったさが伝わってくる。

    「宿儺っ…いやだ」

    名前を呼ぶでも無し、何か言うでも無し。
    ただ左耳の凸凹を唇で喰み、時々舐めて吐息を溢す。
    湿っぽさを含む宿儺の息遣いと少し詰まった声が時々漏れ聞こえて、それがあまりにもセックスしている時のものに近いから無理矢理にでも身体が煽られて昂ってくる。
    腹の中できゅんっと切なく収縮したような感覚があって内腿を擦り合わせる。
    くそっ…

    「っん、ふ…ぅ、やめろって」
    「ふ、さっきからそればかりだな?これでもしゃぶって大人しくしておけ」

    擽ったさに堪えるように詰めていた息が抜けて抵抗できる口だけで静止の声を掛ければ、耳元で小さく笑う宿儺の声が聞こえて、それから言葉と同時に宿儺の片手で口元を覆われる。

    「んんぅ!ッ!?」
    「口吸いが好きだろう?好きなだけしゃぶれ」

    覆われた掌から、ずろりと舌が現れて唇を舐められ無遠慮に口腔内に入ってくる。
    顔を左右に振ってみても外れる事なく、上顎をなぞられ咽喉が反る。
    分厚い舌が俺の舌を捕まえて絡まり舌同士が擦り合わせられ、気持ち良さに自然と目が細まる。
    ぐちゅぐちゅと唾液の絡まる音と俺の鼻から抜ける声、それから耳へ吹き込まれる宿儺の息に堪らず目を瞑る。

    「ンッ、ぅ…、ふッ、んぅ」

    気持ちいいっ
    口内の気持ち良さに目を瞑った事を後悔しながらも、もう瞼が持ち上がらない。
    舌の先を吸い上げられてびりつく…
    舌に夢中になっていれば、右耳に宿儺の指が触れて、耳朶や耳の後ろをすりすりと擦られ耳腔に指が入れられる。

    「んんッ、ぅ、んっ、ふ、ぁ」
    「めぐみ」
    「んッ!」

    右耳の穴を指で押さえられ、余った指が好き勝手に撫でたり揉んだりと動いて、右耳が聞こえなくなった分、左で聴力を補おうと敏感になり、さっきよりも宿儺の声が鮮明に聞こえる。
    そこに落とされた俺の名前…

    「ふ、ぅうッ、ん、っ」
    「恵」
    「んッ、ぅ!、んっ!」

    堪らないッ
    口内の蹂躙は止まず、右耳も触られ過ぎてじんじんと熱を持ち始めた。
    左耳は宿儺の舌で舐め上げられ、ぐちゅぐちゅと淫猥な音が頭に響く。
    はぁ、と宿儺の吐息が聞こえたかと思えば、舌が、中に、入ってくるッ

    「ッー!!」

    生ぬるい濡れた感触
    ぬちっと耳を舐められる音に身体が跳ねて、昂ったペニスがパンツの窮屈さに小さな痛みを訴える。
    唾液を多く含んだ宿儺の舌がぬぽぬぽと穴に差し入れられ、抜かれて、溜まった唾液は吸い上げられる。
    腰が跳ねる
    触られてすらないのに、ペニスがビクつく。
    きっと下着が濡れてる…
    キスだけで、耳を舐められただけで、名前を呼ばれただけで…
    積み重なった快感に涙が溢れてくる。
    やばい
    もうギリギリのところまで来てる

    「んぁっ、は、んぅッ、ぢゅっ、ん」

    苦しくて、息を吸おうと口を開ければ一度手が離れてまたずろりと舌が入ってくる。
    喉奥まで入り込んできたそれにびっくりして、目を見開けば、手が離れないように下顎に宿儺の指がかかりがっちりと覆われる。

    「んぐっ、ぉ、ッん!ぅ!」

    息が出来ないっ
    苦しい、のに、気持ちいい
    舌先が喉の奥を舐め、分厚い舌の中間部分が俺の舌を擦りながら奥を突いたり引き抜いたりを繰り返す。
    鼻で息をするのも苦しくて顔に血が昇る…
    なんでっ、苦しいのに
    ぼたぼたと溢れる涙はそのままに、喉奥を突かれると舌を締め付け、目の前が白く爆ぜる。
    イくっ…
    酸欠のせいでふわつく頭で限界を感じる。
    その瞬間、左耳を舐めしゃぶっていた宿儺の舌が抜かれて思いっきり吸い上げられる。

    「ッんっ!!」

    ガクンっと身体が跳ねて力が入る。
    耳に与えられた快感が全身に走って射精した…
    最悪だ…
    嘘だ…

    「ふ、ッ、ぇあ…」
    「なんだ、果てたのか」

    喉奥を犯していた舌が俺の舌を吸い上げながら抜かれていく。
    まともに出来るようになった呼吸に、胸を上下させて必死に空気を取り込みながらチラリと自分の下半身を見る。
    スラックスの上からだと分からないけれど、確かにイったしさっきまでの窮屈な痛みを感じない。
    力の抜けた身体を宿儺に預けながら、ゆるりと宿儺を見れば何が嬉しいのか、笑っていて目元を拭われる。

    「嫌だって言った」
    「ああ、そうだな」
    「こんなっ、触ってないのにっ」
    「くくっ、ああ、全く愛らしいなあお前は…」

    ツンっと鼻が痛くなって元凶の宿儺を睨み付ければ、今度はちゅっと音を立てて目元に唇が落ちてくる。

    「最悪だっ…、も、やだ」
    「恵」

    大きな手のひらが慰める様に頭を撫でてくる。
    それから甘い声で名前を呼ばれ、宿儺の開いていた足が少し閉じられ、上体がより覆い被さってくる。
    全体的に小さくなった宿儺の身体に抱かれている俺は上も下も横も宿儺に抱き締められて、まるで囲われる様な体勢になる。

    「めぐみ」
    「恵」

    耳元で低くて柔らかい声が響いてきて、その心地良さに心臓が跳ねて息苦しくなる。
    12回呼ばれないと外には出れないと分かっているけれど、呼ばれるとビリビリと全身が痺れて、気持ち良くて、また身体に熱が溜まってくる。

    左耳にリップ音をわざと拾わせて、時々掠れる宿儺の声…
    俺に向けられる柔らかいこの声が好きで、愛されていると分からせられる程に愛の篭った声

    「恵…」
    「ッあ…」

    ふわふわする。
    身体に渦巻く熱をゆっくりと吐き出し今が何回目かを考える…もっと、呼んでほしい…

    「はっ、ん…」
    「恵」

    拘束されていた手が離されて、指を絡め合う様に手を握られる。
    それを握り返してもう片方の手を宿儺の顔に伸ばせば、掌に宿儺の頬が擦り寄せられる。

    「すく、な…」
    「なんだ」

    名前を呼べば、俺の手首を掴み頬を擦り付けていた宿儺の瞳がこちらを向いて、綺麗な紅の瞳と目が合う。

    「もっと名前…呼んでくれ」
    「…そう急くな。そんなに早く出たいのか?流石の俺も傷付くぞ」

    回数なんて、もうどうでも良くなって単純にもっと呼んで欲しくてそう言えば、俺の言葉の意味が伝わらなかったのか少し眉を寄せて指を甘く齧られる。
    意外に子供っぽい反抗に思わず頬が緩む…

    「違う…もっとあんたの声で呼ばれたい。気持ちいいから…だから、俺の名前…呼んで」

    なんだかいつも言えない様な言葉がするりと口から出てくる。
    身体が浮いているのかと思うほど心地良い。
    指を齧る宿儺を見つめながら言えば、存外に大きな瞳がぱちくりと一度ゆっくりと瞬いて眉を下げて小さく笑う。
    あ、その顔は初めて見る。
    どう言う感情なのか、表情なのかは分からないけれど、新しい発見が嬉しくて、擦り付けられている頬を指で軽く撫でる。

    「…めぐみ」
    「ん、もっと…」
    「恵」

    手首を掴まれて、指の一本一本に宿儺の唇が押し当てられて、時々噛まれる。
    俺の手の向こう側から宿儺の瞳はじっと俺を見つめていて、その自然にむず痒くなる。

    「宿儺」
    「そんな顔をするな…抱きたくなるだろう」
    「…しないのか?えっち」
    「はぁー…、お前と言うやつは…全く」
    「なんだよ」

    そんな顔ってどんな顔だよ…
    分かってないなあと呆れた様な声を出す宿儺にムッとして、唇をなぞった宿儺の指に噛み付く。

    「擽ったいぞ」
    「んぅ…ッ!」

    ふっと笑った宿儺の目が弧を描いて細まる。
    抵抗にもならないことは分かっていたから、指を離そうと口を開いたところで宿儺の指が2本、口の中に入れ込まれる。

    「恵」
    「んッ!うう!」

    まるで口腔内を擽るように動く指が、驚きで暴れる俺の舌を掴み上げて口外に引っ張り出す。
    きゅっと先っぽが摘まれたかと思えば指が離され代わりに宿儺の唇で舌を吸われ、深くキスをする。

    「んっぅ…ふ、ぅ…んッ」
    「は…」

    じゅっと吸われて、舌が絡み付き溜まった唾液が口端から溢れる。
    柔らかい舌の動きが気持ち良くて宿儺と繋いでいる手に力が入る。
    きゅっと握った手に応えるように宿儺も握り返して来て2人で確かめ合うように交互に握り締める。
    溜まる唾液を飲み下しながら、イッてすぐの柔らかい快感に燻っている熱が再熱しそうで伏せていた瞼を少しだけ持ち上げ宿儺をチラっと見る。

    「ッ、んぅ…ぅ、ん」
    「ふ」

    気付かれないだろうと開けた視界の中、近距離に宿儺の紅瞳があって思わず肩が跳ねる。
    びっくりしたっ
    驚く俺の様子に小さく鼻で笑った宿儺が首筋を撫でてきて、それからゆっくりと口が離れる。

    「んッ…、はぁ、、」
    「ああ、、今ここで、食ってしまいたいなあ」

    ぎゅっと強く抱き締められて、首元に擦り寄ってくる宿儺が溜息混じりに言葉にした内容にまたびくりと肩が跳ねる。
    冗談のようでいて本気の声色に、首元を晒している身として、こくりと無意識に息を呑む。

    ふわふわと頬を擽る宿儺の髪の毛を眺めながら、大きな掌が身体を這って横腹を撫でる。
    全く性を匂わせないスキンシップに、疼く自分の身体を持て余しながら小さく息を吐く。
    煽るだけ煽って…結局俺だけイかされて…
    不満だらけだけれど、こうなってしまえば俺に手を出して来ない事は経験済みだ。

    「宿儺、擽ったい…」
    「我慢しろ」

    頬をくすぐってくる髪の毛に堪らず声を掛ければ笑いながら一言返ってくる。
    スンッと時折鼻を鳴らす宿儺の様子に、仕方なく空いている片手で宿儺の頭を撫でる。
    柔らかい…
    いい匂いがする。
    抱えるほどの大きな宿儺の頭に顔を近づけて頬を擦り寄せる。
    お互いでお互いの身体に擦り寄る変な体勢に小さく笑ってしまいながら、心地良さにほうっと息を吐く。

    「…宿儺」
    「なんだ、めぐ…み」

    ーガチャ

    「あ…」
    「チッ」

    なんとも呆気ない
    特に意味もなく名前を呼んだことで宿儺も気が抜けていたのか、音とともに現れた扉に視線を向ければ、下から舌打ちが聞こえてきて笑ってしまう。
    丁度12回目だったのか…

    「めぐみ」
    「ん…っ、おい、もう終わりだって」

    ぐりぐりと擦り寄ってくる姿がまるで大型犬みたいで癒される。
    大型犬なんて可愛いもんじゃねぇけど…
    ぎゅぎゅうと抱き締められて、若干の苦しさを感じながら声を掛ければ胸元に顔を押し当てた宿儺がめいいっぱい息を吸って、ゆっくりと堪能するように息を吐く…
    おい、やめろ、恥ずかしいだろ…
    複雑な気持ちでそれを甘んじて受け入れながら、満足した宿儺の身体が離れるのを待つ。

    「もう少し、縛りを緩めても良かったな…」
    「ん?」
    「くく、なかなか小僧の身体の中からでは難しくてなあ…今回のが限界だった訳だが。しっかり愉しませて貰ったぞ伏黒恵」

    まるで宿儺がこの空間を作ったとばかりの言葉に少しずつ弛んでいた頭が理解する。
    固まった俺を宿儺が笑いながら立ち上がり、俺を横抱きにしたまま歩き出す。

    言うなれば暇を持て余した宿儺の作った領域に引き込まれて、好き勝手に遊ばれた訳か?

    「っ、はぁ!?」
    「ケヒッ、良い反応をする」

    肩を揺らして笑う宿儺を腕の中から睨み付け、ムカつく気持ちを吐き出す。
    ふざけんなっ
    だから脅威が無いとか言ったのか?
    出口がな言ってのも宿儺が言っていた事だ。
    まんまと引っ掛けられたっ

    「ふざけんなっ!殴らせろ」
    「暴れるな暴れるな」

    グッと拳を握れば宿儺の腕に阻止されてひとまとめに拘束される。
    足をバタつかせてみても身体はしっかりと抱き締められていてびくともしない。
    余裕そうな顔に歯噛みしていれば扉の前に着いたのか宿儺の足が止まる。

    「またな伏黒恵」

    ちゅッと額に落とされた唇に、反抗してやろうと口を開いたところで俺の身体をふわっと投げられ、浮遊感に慌てて下を見る。
    扉の向こう側には真っ暗な空間が広がっていて、そこに落とされたのだと分かった瞬間、身体が落ちる。


         ♢




    「っうあああ!!?」

    重力で落ちる感覚に全身が粟立ちガバッと身体を起こす。
    ドッドッドと荒く跳ねる心臓と、汗ばんでいる身体、飛び起きたそこは自室のベッドで息を荒げながら部屋を見渡す。
    家具も置いてある本の位置も、何も変わっていない。
    それに少し安堵すれば隣の部屋から大きな音が聞こえてそれからドタドタと走る音

    「伏黒っ!?大丈夫!?ッ入るぞ!」

    叫んだ声で虎杖を起こしたのか、ノックの途中でドアが開く。

    「伏黒っ!」
    「…すまん、起こした」

    勢い良く入ってきた虎杖に申し訳なく謝ればベッドに近寄ってきた友人に目を向ける。

    「いや、叫び声聞こえたからさ…嫌な夢でもみた?」
    「ん…そんなとこ…だ」

    心配そうに俺の顔を覗き込んでくる虎杖の頬に、にんやりと口角を上げて笑う口が浮き出ているのが見えて、反射的に手が出る。

    「んグッ!」
    「あ…」

    あまりにもムカつきすぎて思わず殴ってしまった。
    虎杖から痛そうな声が上がって、床に倒れヘナッとベッドにもたれるように上半身を預けた虎杖の驚いたまんまるな瞳と目が合う。

    「え…、ごめん、なさい?」
    「…すまん」

    訳もわからず頬を押さえて謝ってくる虎杖に申し訳なさと…笑ってはいけないけれど、小さく笑ってしまう。

    「……マジで大丈夫?伏黒」

    訳もわからず殴られた虎杖に逆に真面目に心配される羽目になる。
    今日の昼飯奢ってやろう…










    END
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