宿伏ワンドロワンライ
お題「喧嘩/寝癖/調理」
現パロ、同棲
伏と宿の痴話喧嘩のお話
「ッふざけんな!子供扱いしやがって!俺はお前のそういうところが大っ嫌いだっ」
目を見開いて少し驚いた様な表情の宿儺を睨み付けて強く言えば宥める為にか向けられた手を叩き落とし逃げる様にキッチンから出る。
なんでこうなったんだ…
カッとなった頭で少し後悔しながらも足は止まらず自室に勢いよく入ってドアを閉め、そのまま流れる様にベッドへ飛び込んで布団に包まる。
セックスをした次の日に宿儺より早く目が覚めて嬉しくて、今日は行きたいところがあると言ったから加減されたんだなと思えば擽ったい様に幸せで…
目の前で気持ち良さそうに眠る宿儺の寝顔を眺めながら、いつも朝は宿儺がご飯を作ってくれているから今日くらいは俺が作ろうと思ったんだ。
そうと決まればと、身体に巻き付く重い腕から抜け出して、柔らかく手触りのいい宿儺の髪の毛を少し撫でてからベッドから抜け出した。
前に作ってくれた生姜のスープが美味しかったからそれを作ろうと冷蔵庫から食材を選び、包丁を握る。
喜んでくれたら嬉しいなと少し浮かれていた…。
暫くして起き出してきた宿儺がまだ眠そうな目をしながらのっそりとキッチンにやってきて、無言で俺の腰を抱き寄せ、顔を擦り寄せて来るから、まるで肉食獣が甘えてきている様で可愛くて片手で頭を撫でてやる。
「宿儺、危ないからちょっと待て」
「…そんな事しなくて良いだろう」
「…は、」
ビシッと音が立つ様に固まったのが俺自身で分かって、冷たい声が漏れる。
寝起きで掠れた声が耳元で聴こえて何もしなくて良いと言う。
そんな事ってなんだよ…
「いや、」
「手が傷付いたらどうする、危ないだろう…」
「な、ん…」
「何が食いたかったんだ?俺が作ってやるから待っていろ」
怪我することを心配されているのか、それが余りにも子供扱いされている様で、何もせず大人しく座っていろと言われている事に腹が立った。
確かになんでもそつ無くこなせる宿儺とは違って幼稚な部分は有るだろうし、心配するのも分かるけれど、何もしなくて良いと言われてしまえばプライドが傷付く。
「恵」
しまいには言うことを聞かない子供に言い聞かせる様な宥める様な声色にぶちっと頭の中で何かが切れる音がした。
自室に逃げ込んで布団に潜り込み閉じ篭ればドア越しに宿儺に名前を呼ばれる。
名前を呼ぶだけで入ってこようとはしない。
鍵なんて付いてないし入ってこようと思えばドアなんて直ぐに開けられる。
けれど、俺の拒絶した距離をきちんと把握して立ち入らない様にする宿儺に余計に腹が立つ。
いつだって余裕がある宿儺には勝てないし、俺だけ手一杯でいつもドキドキしている。
こういう小さな事だって、子供扱いされたくないって言っときながらガキみたいな行動をとっているのは自分でもよく分かっている。
幼稚だなと呆れられているんじゃないかと思えば、じわっと涙が溢れてくる。
何やってんだよ俺…
折角久しぶりに休みが重なったのに、こんなことしたかったんじゃ無い。
スッとドアから宿儺の気配が離れて行って駆け寄りたくなる衝動を堪え、鼻を啜りながら静かな自室で冷たい布団に包まる。
暫く時間が経って、キッチンをそのままにしてきたのを思い出しリビングから音がしないのを確認してゆっくりとドアを開ける。
電気は切れてて、宿儺の気配は無い。
もしかしたら呆れて何処かへ出かけたのかもしれない…
そうだと嫌だな…なんて、拒絶したくせに落ち込む。
キッチンを覗き込めば途中だった食材も無く、調理器具も綺麗片付いていてため息が出る。
全部宿儺が片付けてくれたんだろう…
ふと、蓋のかかった鍋が置いてあって、俺がキッチンにいた時には無かったそれに近付き蓋を開ける。
「…美味そう」
鍋の中身は俺が作ろうと思っていた生姜のスープで湯気と一緒に美味しそうな匂いが鼻腔から流れ込んでくる。
ムカつく…でも、こういう所が好きで堪らない。
ぐぅっと腹が鳴る。
まだ湯気の立つそれをスープ皿にとってスプーンと一緒にダイニングへ持っていき手を合わせる。
久し振りに食べたそれは相変わらず美味しくて、冷蔵庫に生姜が常備されていることすら嬉しくて…
対等に接して欲しいと思った事をまた思い返して鼻がつんっと痛くなる…
別に喧嘩したかった訳じゃ無い。
喧嘩だとも思われてないかもしれない…。
皿を洗ってリビングのソファに寝転がる。
俺のちっぽけなプライドのせいで休日が潰れたし、きっと宿儺にも嫌な思いをさせた。
思い返せば自然と深く重い溜息が出てきて目を瞑る。
ガサガサと袋の擦れる音で意識が浮上する。
宿儺が帰ってきたのか…
直ぐ近くに宿儺が近寄ってきた気配を感じるのに瞼が重くて持ち上がらない。
「恵…風邪をひくぞ」
声が近い。
床に座ったのか直ぐそこに宿儺がいる様に感じて、もしかしたら帰って来ないんじゃないかと心配だった気持ちが落ち着く。
良かった…
そう思っていれば目元をツーっと撫でられて指が離れていく。
たったそれだけの接触が嬉しくて、物足りなく感じる。
「…撫でてくれないのか?」
「…、子供扱いされたく無いのだろ?」
「今だけは許す」
スッと瞼を持ち上げてみれば思いの外、宿儺の顔が近くにあってばちりと目が合う。
行き場を無くした宿儺の手が中途半端な所で止まっているのが見えて、恥を忍んで伺う様に聞いてみれば俺の言った言葉を返してきながら頭の上に大きな手のひらが置かれる。
仲直りの意を含めて掌に頭を擦り寄せれば宿儺の瞳がすっと細まる。
「すまなかった」
「……、あんたが喜んでくれると思ったんだ。だから何もしなくて良いなんて言われてカッとなった。俺こそごめん…痛かっただろ」
撫でてくれる手に俺の手を添わせればきゅっと優しく握り締められる。
「恵」
「…?」
「恵」
「ふっ、なんだよ」
握られた手にするりと絡んできた宿儺の指に絡め取られて、まるで確かめる様に名前を呼ばれるから思わず小さく笑ってしまう。
顔を覗き込まれれば柘榴の様に真っ赤に染まる瞳と目があってどきりと心臓が跳ねる。
ちくしょうカッコいいな…
ぼんやりとそう思っていれば顔が近付いてきて、キスされると思ったところで柔らかな唇の感触がして押しつけられたそれがゆっくりと離れていく。
「ん…」
離れた距離を少し寂しく感じていれば床に座り込んだ宿儺の両手が伸びてきて抱き締められる。
ふわりと香る宿儺の匂いと、少しだけ残る外の空気の匂い…触れた肌から感じる宿儺の体温に身体から力が抜ける。
「居なくなったのかと思った…朝、目が覚めた時にお前が居なくて心底肝が冷えた…。名前を呼んで、反応が無い事がこれ程までに辛いとはな…」
宿儺の腕にガッチリと抱き締められて後頭部を撫でられる。
いつもの宿儺らしくなく弱った様な声に、ああ、こいつも不安だったのかと少し安心してしまう。
「宿儺…」
「なんだ」
「好きだ」
どうしようもなく愛おしく感じて自然と出てきた言葉に少し間があって宿儺が小さく笑うのが聞こえる。
今更に気恥ずかしくなってきて顔が熱い…
「恵…愛してる」
すりっと擦り寄ってきた宿儺から与えられた言葉に心臓が締め付けられて押し出す様に息を吐く。
「っ、俺も…」
堪らなくなって、宿儺の頭を抱き締めれば柔らかな毛先が頬に当たってきて擽ったい…。
ぎゅうっと強くなった抱き締めに苦笑しながら、俺も真似して強く抱き着く。
「ん、そういえば、何買ってきたんだ?」
「ああ」
暫く同じ様に抱き締めていて、外に買い物に出ていた事を思い出して顔を上げる。
それに合わせて腕の力が緩んで、ローテーブルに置いてあるコンビニの袋を宿儺が雑に引き寄せる。
カーペットに置かれたコンビニ袋をガサガサと鳴らしながら宿儺が買っただろう商品を取り出していく。
気になっていた新発売の生姜の炭酸とレトロを謳ったプリン、前に食べて美味しいと言った杏仁豆腐とゼリー、気になっていた惣菜パンなどがごろごろと出てきて思わず宿儺を凝視する。
少し気不味そうな宿儺の表情と商品を何度か見返して思わず笑ってしまう…
「もので釣ろうとしたのか?」
「…許せ、俺だって気が気じゃ無かった」
グッと眉間に皺を寄せて渋い表情を作ってみせる宿儺の顔を覗き込む。
俺の好きそうなものだったり、好きだと言ったものを覚えてくれていてちゃんと見てくれてるんだなと暖かい気持ちになる…。
ソファに頬をつけながら向けていた目線をプリンに落として置かれたそれを拾い上げる。
「一緒に食ってくれたら許す」
「ふ…、甘いな」
昔、小さなボロアパートで姉と2人で一生懸命作ったプリンを思い出す様な商品…
そのパッケージと宿儺の顔を並べて視界に入れれば、少し驚いた様に目を見開いた後、瞳が柔らかく細まる。
「食ったら本屋…行きたい」
「ああ」
大きな手が降ってきてゆるりと頬を撫でられる。
心地いい額の暖かさを享受してからゆっくりと身体を起こすと宿儺が隣に座ってくるのでスペースを空ける様に少しだけ横にズレれば、空いたスペース分を宿儺がズレてピッタリと身体が触れ合う。
チラリと宿儺を見れば悪戯げに笑っていて、スペースを空けて、埋められてを何度か繰り返す。
「ッおい!」
「逃げずとも良いだろう、大人しく捕まれ」
ソファの端まで追いやられて腰を抱き寄せられればそのまま捕まってしまい抱き締められる。
プリンじゃなくて俺が食われるんじゃ無いかと思うほどの勢いにドギマギしながら、俺を抱き締めて落ち着いたのか宿儺の手がプリンに伸びる。
「今度宿儺の作ったプリンも食べたい」
「良いぞ…、一緒に作るか?」
「え、良いのか?」
「卵ぐらいは上手く割れるだろう?」
「おぃ」
くつくつと楽しそうに笑う宿儺の身体を小突いて睨みつければ宿儺が大袈裟に肩をすくめてみせて、ピリピリと音を立ててプリンの封を外し始め、つるりとしたプリンの表面にコンビニでついてくるプラスチックのスプーンが突き刺さる。
当然のように一口分を差し出されてやけくそになりながらスプーンに食らい付く。
硬めの食感と甘さ、カラメルの苦味を感じて美味しくて思わずもう一口を宿儺に強請る。
「美味い」
「そうか」
まるで餌付けされているようなそれを恥ずかしくは思うけれど、子供扱いだとは思わなくなった。
愛されているんだと思えば擽ったくて落ち着かないけれど、宿儺の腕の中はこんなにも安心できる場所で手放したく無い、大好きな場所だ。
もう、今更一人で冷たいベッドで寝ることは出来ない。
end.