メリークリスマス
未来捏造
3人同棲中
(キスあり)
12月、それは呪術師にとっての繁忙期…
言わずと知れたクリスマスは友達や家族、恋人と幸せな日を過ごし、年末に差し掛かれば世間は浮かれたまま除夜の鐘を迎える。
それを妬み嫌う存在は必ずいるわけで、それにより生まれた呪いの対応にあたるせいで休みなんてあってないようなものだ。
「って言ってもさー、クリスマス2人と盛大にやりたかった!!」
「仕方ないだろ、3人とも任務入ったんだから」
「あんたみたいに吹っ切れないわよ!」
俺の誕生日が終わり事後のベッドでまず大声を上げたのは虎杖だ。
ごろりと寝返りを打ちながら携帯で任務の予定を確認しているのが見える。
俺も釘崎も先に任務が入ってしまっていた為、ひとりぼっちのメリクリか〜と嘆いていた男が携帯を投げ出す。
「2人はいつ帰ってこれる?俺これだと3日位掛かるかも」
「25日には間に合いそうにないわね」
「…俺も難しいな」
任務の内容とカレンダーを思い浮かべてそれぞれが重い言葉を吐き出す。
今年はクリスマスを飛ばして正月かもしれないな。
「遅れても良いからクリスマス祝いたい!」
「なんでそこまで必死なんだ」
「あんたそういうところよ!もう枯れてんのか!」
未だに駄々を捏ねる2人に呆れながら釘崎からの言われようにため息を吐く。
こちとら早く寝たいんだ…静かにしてくれ…
「チキン食べてさ!ダサいセーター着てさ!ちっちゃいツリー立てて、ケーキ食べて!プレゼント交換したい!!」
「ばっか虎杖!寿司とピザも忘れんじゃないわよ!」
「ツリーの上の星は伏黒に譲ってあげんね」
そんなに買ってどうするんだ…食いきれねぇだろ。
だとか、星なんて誰が刺しても一緒だろ…なんて文句が口の中に溜まる。
吐き出せないまま2人の騒がしい様子に布団がずれて肌寒くなる。
寝かせてくれ…散々人のことを好き勝手抱き潰しといてすっきりしてはしゃいでんなよ…。
両隣であーでもないこーでもないとはしゃぐ恋人たちを落ち着ける手技は持ち合わせていないが仕方なく、2人の名前を呼ぶ。
「釘崎…虎杖」
「「なに(よ)?」」
俺の声にピタリと2人のトークが止まって左右から俺を覗き込むように身体を近寄らせてくるため片手で頭を抱き込むように胸元へ引き寄せる。
「ダサいセーターもオーナメントもピザもチキンも寿司も好きにしていいからもう寝ろ」
「…伏黒がチューしてくれたら寝る」
「同じく」
おい…そこは大人しく引けよ。
可愛い顔したって…っ
虎杖の身体が胸元に乗り上げてくる。
唇を尖らせてキスを強請ってくる顔に今日何度目かのため息を堪える。
それに続いて釘崎も今か今かと順番を待つように擦り寄ってきて仕方なしに虎杖の頬を手で強く掴む。
「っ」
「ん…、これでいいだろ。ほら、釘崎も…っ!?」
がっと掴んだ頬が少し寄って間抜けズラになった虎杖の少しかさついた唇にキスしてすぐに離れる。
俺の行動に目を丸めて驚く虎杖を置いて釘崎にもと顔を向けたところで横からゴツい手に顎を掴まれて視界がぶれる。
引き戻された視界の中、熱を含んだ虎杖の瞳と目があった気がして直ぐに唇をばっくりと食われる。
「っ!んッ!」
「ふ…んっ、ぅ」
いきなりで驚き隙間を作った唇からぬろっと分厚い舌が入り込んできて慌てて虎杖の肩を叩く。
躊躇なく本気で。
ごすっ、どすっと音がするのにも関わらず上顎を舐め上げられてゾワッと慣れた感覚が背中を走る。
「ッぅ、ふ…ッ、う」
「んん…」
「ちょっと、虎杖長いわよ。早く変わんなさいよ」
俺の抵抗にびくともせずそれどころか口内を好き勝手に舐めしゃぶってきて自由な手で耳を擦られる。
脳内に唾液の絡む音が響いてさっきまで高められていた身体が次第に熱を溜め始める。
「んっ、ぅ、はぁ…っ、は…ばっ、か」
ぢゅっと吸われて唇が離れれば足りなくなった酸素を補いながら力の抜けた手で虎杖の頭を小突く。
満足げに笑う虎杖へ悪態をつけば、次は私の番だと言わんばかりに釘崎が顔を覗き込んできて、さらりとした髪の毛が頬をくすぐってくる。
「ん、、のばらっ」
出来れば熱が溜まり切る前に終わって欲しい。
釘崎の意地悪そうな表情にそれが無理なことも薄々感じていて、こうなったらと懇願も込めて釘崎の顔を見上げて名前を呼ぶ。
「……、あんたお願い聞いて欲しい時に名前呼びするのバレてんだからね」
にんまりと笑った釘崎の言葉にカッと耳まで赤くなった気がして、可愛いけど…なんて嬉しくもない言葉が付け足されてふっくらとした唇が押し付けられる。
「んっ、っ、んぅ」
小さいリップ音を立てて何度も唇を吸われ啄まれる。
鼻で息するのも辛くなった頃、吐息を吐き出すと同時にちろりと唇が舐められてうっすらと開いた視界に釘崎の大きな栗色の瞳が見えて、どうしようもなくなって促される様に隙間を作る。
「ぅ、ンンっ…ふ」
「ん…はぁ、ふ」
作った隙間から虎杖の舌に比べて薄くて小さな舌が入ってきて歯列をなぞられる。
なんだか甘い様な気がするキスに諦めも混じって身体から力を抜けば褒めるように釘崎の手が俺の頭を撫でる。
ああ…気持ち良過ぎて逆上せそうになる。
「ん…はぁ…っ、っ」
「んぅ、こんなものね」
満足したのか唇が離れて、最後には口端に伝った唾液を吸い上げられる。
2人を相手にキスしたせいで息が上がってなんとなしに体温も上がった気がする。
「はぁ…も、お前ら、早く寝ろっ」
「「はーい」」
ぐつぐつと煮え切る前に離れた2人に言えば楽しげに声を揃える。
さて寝るかとなったところで、釘崎の手が俺の腕を掴んで釘崎の身体に回る様に持っていかれ細い腰へ回される。
「寒いから抱き枕になってあげる」
「2人とも可愛いことしてんね、俺も混ぜて」
釘崎を背後から抱き締める様な体制になったかと思えば、虎杖が俺を背後から抱き込む。
前からは釘崎の体温が、背後からは虎杖の体温がじわじわと移ってきて暖かい…
2人がいいならそれで良いかと半ば諦めながらも2人に挟まれて目を閉じる。
♢
目が覚めてまず目に入ったのは長い睫毛とつるりとした肌で背後から抱きしめていたはずなのにいつの間にか向き合って寝ている釘崎に苦笑する。
寝起きのぼんやりとする頭で吸い寄せられる様に額にキスすれば閉じていた瞼がぱちりと開いて目が合う。
「むっつり」
「は…」
ぱちぱちと瞬きする釘崎の口がうっすらと開いたのが見えて、これ以上何か言われるのも恥ずかしいため小さな頭を胸に抱き込む。
小さな叫び声がくぐもって聞こえてきてバタバタと腕の中で抵抗していた釘崎の動きが次第に弱くなっていき抵抗がおさまった頃合いで腕の中から解放してやる。
「もー、さいあく、あんた後で櫛で解きなさいよ!」
「はいはい」
がばっと身体を起こした釘崎が目を怒らせながらボサボサの髪の毛を撫で付けていてその様子に目を細めて適度に頷いておく。
釘崎がベッドから出て行く際にパチンと叩かれた頭をいつの間に起きていたのか背後から虎杖に撫でられる。
「やっと起きたのか」
ぴんぴんと自由にはねる毛先を倒す様に頭に撫で付けてくる虎杖の手を掴めば胸元に抱き込まれて後頭部に虎杖の頬が擦り寄せられる。
「任務行きたくねぇー…」
ぎゅむぎゅむと何度も抱き締めてくる虎杖の力に呻き声が上がる。
「…駄々こねんなよ。頑張ったらご褒美あるかもな」
意味深にそう言って後ろを振り向いて見ればぱっちりと開いた大きな目が俺の顔を映し出していて嬉しそうな色を浮かべたそれに少し気圧される。
「クリスマスプレゼント以外で?」
まるで貰えるのは当たり前だと言い切らんばかりの言葉と態度に思わず笑いが漏れる。
「ふ、お前欲張りだな」
「そ、俺欲張りなの」
2人で笑い合ってればリビングから釘崎が俺と虎杖の名前を呼んでいるのが聞こえる。
きっとなかなかベッドから出て来ないからだろう…
髪の毛をとかす役割もあるため返事をしながらベッドから抜け出す。
虎杖も続いてリビングに行けばちょうどトースターからちんっと軽い音が鳴ってトーストの美味しそうな匂いがしてくる。
朝ご飯を軽く済ませて(虎杖はトーストを3枚も食った)釘崎の髪の毛をといてやり、3人並んで歯を磨く。
高専の時からあまり変わり映えのない服に腕を通してキスを送り合う。
「じゃ、気を付けて!」
「無理すんなよ」
「あんたに言われたくないわよ」
愛しい人たちが無事に戻ってきます様に…
心の中で何に縋るでもなく思い浮かべて玄関を出る。
「何かあればすぐ連絡しろ」
「「伏黒も!」」
別れ際に手を振り合う。
毎回この瞬間、言い知れない不安感を感じる…
心臓を抜かれた虎杖、眼球から頭蓋までを潰された釘崎…
それを思い浮かべてしまって底無しの恐怖を感じる。
あの2人なら大丈夫だ。
大丈夫だと言い切れるだけ一緒に任務をこなしてきただろ…不安な気持ちを押し殺してそう言い聞かせながら2人の背中を見送って自分の任務に向かう。
♢
がちゃりと音を立ててドアを開け郵便受けを見れば有名洋菓子店の名前で不在届が入っていて目を細める。
そういえば注文したとか言ってたな…
「クリスマスは有名どころの美味いケーキが食べたい!」
そう言って色々と調べていた釘崎が決めたものだ。
結局部屋の中の暗さを見れば2人ともクリスマスには間に合わなかったみたいで、分かってはいたけれど少し寂しい気がして追い出す様に息を吐く。
携帯の画面を見れば12/25 22:00の文字が浮かぶ。
もうすぐでクリスマスも終わる…
毎年クリスマスパーティーだなんだと騒がしくしている気がして、こんなにも静かなクリスマスは久しぶりかもしれない。…1人で過ごすのは初めてか。
いままでは津美紀がいたり、五条先生がいたり…高専に上がっては2人が必ずいた筈だ。
靴を脱いでリビングに進みながらそんなことを思ってひんやりとした空間を見回して電気をつける。
「…早く帰って来ないとダメになるぞ」
此処にいない2人に向けてボソリと呟けば届く気がして床に浮かぶ自身の影に手を突っ込む。
ずろっと引っ張り出した袋からは香ばしいチキンの匂いがしてきてくうっとお腹が鳴る。
「馬鹿か俺は」
もしかしたら帰っきているかもしれないなんて思って気付いたら買っていたそれを見下ろして取り敢えず冷蔵庫へと移動させる。
パタンと冷蔵庫が閉まった音を聞くとドッと疲れを感じて目を擦る。
今日はもう早く寝よう…
そう思って風呂に向かう途中で携帯が震え高専の時から変わらないグループへメッセージが送られてくる。
"ごめん、間に合わなかった!"
メッセージの後に虎が泣いているスタンプが送られてきて思わず笑ってしまう。
無事でしかも元気そうだ…
"ねぇ…ケーキ届くの忘れてた"
今度は釘崎から何故かクマを殴っているウサギのスタンプが送られてきて眉を寄せる。
やめろ、クマが可哀想だろ…
"一足先に帰ってるぞ、早く帰ってこい。ケーキは不在届受け取ってるからな"
タプタプと文字を打ち込んで送信…
それから、虎杖にプレゼントされた黒い犬のスタンプの中から笑っているスタンプを迷った末にちょっと遅れてタップする。
"でかした伏黒"
"早く2人に会いてぇー"
しゅぽんっと音を立ててスタンプが送られて直ぐに2人の反応が返ってくる。
文面から容易に想像できる様子に口元が緩む。
1人で家にいるにはやっぱり寂しかったのかもしれない。
"俺も"
そう打ち込んでから正気に戻り消そうとしたところで間違って送信をタップする。
っ、と声が上がる。
…メッセージ消すのどうするんだったか
見られる前にとまごついていれば既読の数が2を示す。
何を言われるか気恥ずかしくなって返信が来る前にと携帯を寝室へ投げ込み風呂場に向かう。
結局風呂から上がって寝る準備を済ませ布団に潜り込んだところで確認した携帯の画面は俺のメッセージのまま。
肩透かしを食らった感を感じながらも画面を見て、やりとりが終わっているのもなんだか恥ずかしくて寝る前にもう一度画面をタップする。
"気を付けて帰ってこい"
きちんと送信出来たことを確認して携帯を離す。
いつもの定位置に体を横たえれば左右がどうしても余ってしまって寒さを感じる。
♢
ギシッとベッドが軋む音が聞こえて小さな囁き声も耳に届いてくる…
もう流石にサンタクロースを信じてるわけでも無いけれど一つの可能性を思い立って徐々に意識が浮上する。
「ちょっと、釘崎もうちょっと詰めてっ」
「伏黒が起きるでしょ」
聞き慣れた声が寝ぼけた頭に2人の存在を認識させてうっすらと開いた視界の中に釘崎と虎杖の顔が映り込む。
「…なに…やってんだ」
「あ、起きた」
「虎杖のせいね」
「ええ!なんでよお」
掠れた声が辛うじて出て今何時だと携帯を探す。
伸ばした手に携帯の画面が当たってパッと明るくなる。
日付は変わってるがまだ朝ではない…
胸元に身体を寄せてきた釘崎に自然と腕が回って釘崎を抱き込む様に後ろから抱きしめた虎杖と距離が近くなる。
2人と向き合った様な体勢に顔をざっと見て怪我がない事を確認する。
「おかえり」
「「ただいまっ」」
ニッカリと笑った2人の笑顔がなんだか似ていて2人に順番にキスをする。
ちゅっちゅっと2度軽い音を立てて顔を離せば2人からお返しだとキスが返ってくる。
「…会いたかった」
2人の顔を見てしまえば緩んだ頭で素直に言葉を声に出す。
嬉しげに笑った2人が「俺も」「私も」なんて返してきて3人でぎゅうぎゅうと抱き合う。
「あんたが寂しがってるからマッハで帰ってきてやったわよ」
「ありがと」
「よく言う〜、釘崎会った瞬間に"伏黒めちゃくちゃに抱きたい!"って言ってた癖に」
「はぁ?あんただって伏黒にサンタコスさせるって言ってたじゃない!衣装ケースの一番上の段!」
一気に騒がしくなった寝室が暖かく感じて頑張って任務を終わらせてきた2人の言葉に苦笑する。
「後でな…」
虎杖にはご褒美をあげると言った手前仕方ないと割り切ることにする。
2人の声が心地よくて、体温が広がる布団の温もりと安心する匂いに睡魔がぶり返してくる。
「あんたは何がいいの?ご褒美」
「…起きたら、クリスマスパーティーしたい」
「それはもう決定事項だから無し」
「もっと欲張れって伏黒」
ご褒美と言われてパッと出てこない。
お前らが帰ってきてくれたことがもうご褒美なんじゃないかと思うけれど、そう言ったところで引き下がりはしないだろうな…
「…お前らに痕付けたい」
いつも揺さぶられて好きにされているせいでそんな余裕も無い。
2人のご褒美につられてエロい枠から出られなかったけれどこれで良いだろ。
たまには鏡に映ったキスマークや歯形だらけの自分の身体を見て悲鳴を上げれば良い…。
「えーそんなで良いの?」
「相変わらずむっつりね」
「うるせぇ」
俺が良いっつったら良いんだよ…
人のご褒美にケチつけんな。
暫く文句を言った後に満足したのか静かになる。
うとうとと瞼が落ちてくる。
明日には再配達を頼んだケーキも届く…
たとえ世間から一日遅れたとしても、俺たちがクリスマスだと言い切ってしまえば俺たちの中では25日だ。
「サンタさん、来るといいな!」
「ばか」
暗くなった視界のなか聞こえてきたやりとりにふっと笑う。
虎杖に嬉々として渡されたサンタさんのコスプレがミニスカートで、"男のロマン"だと叫ぶ虎杖の顔面にそれを投げつける事になるまであと数時間
end.