宿伏版ワンドロライ
(正装 / マーキング / 慣れ)
マフィアパロ
ボス宿×構成員伏
パーティーでイチャイチャするお話
*モブ男女注意
「到着しました」
スッと静かに止まった車と同時に運転手から声が掛けられる。
携帯へ目線を下ろしていた顔を上げて少し待てば左側の扉が運転手によって開かれたのでゆっくりと車から降りる。
「ありがとうございます」
頭を下げて俺が車から離れるのを待つ運転手へ声を掛け、これから向かう先の杞憂を晴らすように一度息を吐いてから前を向く。
余り人付き合いは得意な方じゃない。
周りなんてどうでも良い…そう思い始めたのは傍にいる男の影響なのかもしれない。
コツコツと革靴が石畳を叩いて心地良い音を立てる。
ウィングチップの焦げ茶色、艶のある革感と施された装飾が好みのそれはうちのボスから誕生日プレゼントで貰ったものだ。
自分で買うには好みのデザインでも派手だなと気後れしてしまうそれは贈り物だと履く勇気が出る。
頑丈な扉の前では黒いスーツを着たガタイのいい男が招待状を確認していて、その横をすり抜けるように歩き、招待客と招待状を確認しながらチラリと俺を見た男に軽く会釈をして扉を自分で押し開く。
扉を押し開きパーティー会場へ足を踏み入れればざわざわと揺れていた空気が一気に静かになり視線が刺さる。
見られているのだと分かるその圧に早く逃れたいという思いと、ボスの顔を立てたいという強がりな気持ちが拮抗した結果しゃんと背を伸ばして注目を浴びながらホールを歩く事にする。
見知った顔が多く見られる会場を歩きながらボーイが持っていたシャンパンを一つ貰って口を潤しながら会場へさっと目を走らせる。
参加しろって無理矢理に俺を飾り立てた癖にまだ来てねぇのかよ…
そんな不満を感じながら時間を潰す為、適当に壁に寄り掛かってぼんやりとホールを眺めながらシャンパンを飲み進める。
俺の動向を見終えたからか、騒めきが戻りつつある会場で変わらず俺に視線を向けてくる男が数人いてこれには堪らず溜息が出る。
いくらボスのお気に入りだと言われていても俺と近くなれば気に入られる訳じゃない…
ただただ面倒臭い。
普段から話しかけ辛いと思われている雰囲気をより張り詰めるようにして此方の様子を伺ってくる男達を視線で刺す。
絶対に近寄って来んな…
そんな念を込めながら睨み付ければ慌てて視線が外される。
それにホッとしてシャンパンのグラスを口元へ運んだところで後ろから声が掛けられる。
鈴を転がしたような可憐な声…
甘いバニラと薔薇が混ざった咽喉に張り付くような匂いに眉が寄るのを感じる。
声のした方を見れば茶色いウェーブする髪の毛を揺らして距離を詰めてくる女性と目が合う。
ドレスは短く体に張り付くようなデザインで煌びやかな装飾が散りばめれているのが見える。
確か南地区を纏めている組織の令嬢だったか?
にっこりと笑顔を浮かべて不必要なまでに身体を寄せてくる女性にげんなりとする…
やっぱり来るんじゃなかった…
嬉々として俺を飾り立てるうちのボスが可愛くてつい折れて参加すると言った過去の俺をぶん殴って正気に戻してやりたい。
南地区は内部抗争が勃発するくらいに荒れていると聞くし今の内にうちと手でも組んでおいて南地区で頭角を表しておきたい思惑でもあるんだろう…
媚を売ろうと必死になっているこの人間は俺にとってただ嫌悪の対象でしかない。
こういった打算的な人間が寄り付いてくることにはもう慣れた筈だったけれど、疲れるのには変わりはない。
話しかけてきている言葉は理解しようとしない頭では別の言語の様に聞こえてきて何を言っているのか聞き取れない。
靄のかかったような会話に適当に相槌を打って愛想笑いを浮かべる。
別に相手にしなくても良かったけれど丁度眺めていた入り口から待ち人が入ってきたため、俺を待たせたそいつに向けて嫌がらせをしてやろうと細い腰を抱き寄せる。
入り口から入ってきた男に会場が一段と騒めきパーティーで浮かれていた空気がピリッと緊張感を纏うのが分かる。
みんながみんな、他人の出方を伺っている異様な空気の会場に入ってきた男はそんな事お構いなしに大きな歩幅で闊歩する。
「俺の居ぬ間においたか?恵」
「ええ、そうですねボス。俺の待ち人はどうやら遅刻してきているみたいで、寂しくて…」
「…ほう」
長くすらりとした足が俺の前で止まりスッと目を細めた男が俺の名前を呼ぶ。
腰を抱いた右手から震えが伝わってきてチラリと目線を向ければさっきまで浮かべていた笑顔を引っ込めて青褪め強張った表情を浮かべているのが見える。
少し可哀想ではあるけど、もう少し付き合って貰おう。
「ボスはお一人で?」
「ああ、そうだな…どうも俺の愛らしい恋人は臍を曲げたみたいでな?」
「それはお気の毒に…貴方もお似合いの人を探してみては?」
両ポケットに手を突っ込み、俺の言葉に片眉を上げた宿儺がこちらを見下ろしながら苦笑する。
ブラックスーツに赤いシャツ、少し崩した首元には黒地に薄らと模様の入ったネクタイを締め、足元はシンプルな革靴…
いつもより少し簡素な出立ちの男…宿儺が顎に手を当てる。
「そうさな…そうしたい所だが生憎俺の隣は有象無象では務まらんからなあ」
「ふぅん?それなら早く機嫌を取ったほうが宜しいのでは?…さ、行きましょう」
俺とのやり取りを愉しんでいるのか深い紅色がゆらりと揺れる。
その様子を見ながら首を傾げて見せればそろそろまともに立っていられなくなってきた隣の存在に声を掛けてやる。
ずっと下を向いたままの彼女をゆっくりと促せばよろよろと歩き始めるので支えながらホールの端に向かう。その間、背中に向けられる視線を感じながら彼女を壁際にある椅子へ誘導してボーイへ水を持ってくるように指示する。
「…すみません」
「謝るのはこっちです。宿儺には俺から南地区について進言しておきますから…」
どうだって良いと思えていた事柄もこうも青褪めて恐怖に震えている様子を見れば可哀想で仕方なくそう提案する。
進言したところでどうするかはうちのボスの決める事だ…
俺と宿儺の揶揄いに巻き込んだ存在をチラリと見て、長居する必要も無いだろうと水が届いたのを見てから離れる。
「さてと…」
ぐるりとホールを見渡しても目当ての人は見つからず内心で舌打ちを一つして仕方なく適当に歩いて回る事にする。
ただ目的もなくぶらぶらと会場内を歩いていれば会合で見たような顔が何人か見受けられ、一様に顔を逸らされる。
まぁ…そうだろうな…宿儺がいる今、俺に馴れ馴れしく近付いていくのは死を意味する。
さっきまでとは違い少しの解放感に息を吐いてどうせなら美味い酒でも飲もうかとボーイを探して視線を上げる。
その先で俺に粘質な笑みを向けてくる男がいる事に気付く。
…誰だ?見た事は無い顔。
俺と目があったと分かった瞬間へらりと笑い、近付いてくる。
中肉中背…年齢は大体40後半くらいか。
怪しむ様に男を見れば俺の目の前で止まり恭しくお辞儀をしてくる。
どう対応するのが正確か分からない…
できれば近寄りたくも無い雰囲気に内心で今日何度めかの舌打ちする。
次から次へと…
「こんばんは伏黒恵さま」
「…ああ」
「噂に聞く通りとてもお美しい方ですね、私も貴方様の噂を確かめてみたい程です。」
ぞわりと鳥肌が立つ様な気持ち悪さを感じて眉間に皺がよる。
噂…なんてたかが知れてる。
どうせ宿儺の愛人だとかそういう類の話だろう。
こうも直接的に言われた事は無いけれど、気色悪さに言葉に詰まる。
「っ、何か俺に用ですか」
「言っただろ…俺もあんたの身体を味わいたいって」
グッと距離が詰まったかと思えば耳元で低く呟かれて、距離を取るために後ろにたたらを踏み手が出そうになる。
瞬間、背中に硬い感触がして俺に伸ばされた男の手首が大きな手によって捕まえられる。
「っ」
「これは俺のだ、貴様などが触れて良いものではない」
頭上から低い声が降ってくる。
手首を握られた男の顔が歪み苦しそうな声が漏れているのが聞こえてくる。
「おい、俺の客だぞ…」
「なんだ、もう俺以外で満足出来んだろうに」
「やってみないと分かんねぇだろ」
全く可愛げがない。
強がって素直に助けてなんて言えない俺の性格に自分自身で落ち込む。
男を殴ろうとした手は震えていて、気付かれないようにそっと後ろへ隠し投げやりな言葉を吐けば宿儺の両手が俺の腰に回ってぎゅっと背後から抱き締められる。
「そうか…、ならまずは俺に抱かれろ。話はそれからだ」
「っ、、」
スリっと肩越しに頬を寄せてきた宿儺の言葉にゾクリと鳥肌が立つ。
優しくて全て見透かされているような声に唇をキュッと結んでから一度舌打ちして見せれば、小さく笑う声が聞こえてくる。
そんな俺たちを他所に目の前にいる男は手首を押さえ脂汗を浮かべていてさっきまでの余裕は既に無さそうだった。
「まだ居たのか…目障りだ、消えろ」
「っひぃ」
耳や頬に唇が寄せられてリップ音が響く…
宿儺の温もりをスーツ越しに感じながらも男へ向けられた鋭い言葉にそそくさとホールを出て行く背中を見送る。
宿儺がすぐに部下へ電話した後、少し休むかという提案に促されホールを後にして別室へと向かう道すがら、小さく名前を呼び呟く。
「…宿儺」
「なんだ?恵」
「…助かった」
ボソリと呟いたお礼は聞こえたのか、小さくふっと笑い声が聞こえてきて腰に回された手がするりと身体を撫でて抱き寄せらせる。
ホールから外れて薄暗い廊下を2人で歩き、いつもより密着して歩いてくる宿儺とお互いに擦り寄りながら別室の扉を開ける。
「ケヒッ、俺に合うのはお前だけでお前に合うのも俺だけだろう?」
扉を開けて出来た隙間に2人して身体を滑り込ませる様に室内れ入れば、電気の付いていない暗い空間に目が慣れてきて宿儺の紅色の瞳が際立って見える。
その瞳に吸い寄せられる様に少し上にある宿儺の襟柄を掴んで引き寄せる。
「そうだな…一つ訂正があるとすれば、あんたは俺のって事だ、勝手に離れてんじゃねえ」
近くなった距離で宿儺を強く見据えて啖呵を切れば、見開いた紅い瞳を覗き込みながら下から齧り付く様にキスをして距離を埋めるように少しだけつま先立ちになる。
そんな俺の不安定な身体を支える様に宿儺の掌が腰を支えてぴったりと体をくっつけて舌が絡む。
俺の理不尽な言い掛かりにすら愉しみを見つけているのかゆらりと揺れる宿儺の紅い瞳が色を濃くしてスッと細まる。
お互いにオーダーしたスーツを身につけ、こいつは俺のだと主張しながらパーティーで2人だけの言葉のやり取りを楽しむ。
宿儺との一つ一つの行動や会話が楽しくてついつい羽目を外しそうになる。
と言っても今現在で羽目を外してパーティーそっちのけでこんなことしてれば何とも言えないが…
「主催者なのに会場に居なくて良いのか、宿儺」
「離す気も無いくせによくそんな口が叩けるな?恵」
「また陰で好き勝手に言われるぞ」
「言わせておけば良い…本当の事だからな。お前は俺のものだと魅せしめるためのパーティーだ」
会場に居ない主催者とそのお気に入り…
その時点で様々な憶測が飛び交う。
飛び交えば飛び交うほどに俺と宿儺の関係性を見せ付けられる。
軽口を叩き合いながらお互いのネクタイを外していく。
シンッと静まった空間に俺と宿儺のくすくすと笑う声が部屋に小さく響いて消えていく。
end.