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    遊兎屋

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    遊兎屋

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    【宿伏】

    #宿伏
    sleepVolt

    宿伏
    キスの日
    呪専卒業後
    長髪な2人のお話





    高専を卒業しても変わらないものはある。
    逆に変わったものも…

    「宿儺」
    「水分は落としてこい、風邪をひく」

    風呂上がり、ほかほかと心地良い温もりを感じながらバスタオルを頭に掛けてリビングのソファに座ってコーヒーを飲んでいる宿儺に声をかける。
    宿儺の持っているマグカップは俺が高専にいる間プレゼントした黒い犬のマグカップで、今も変わらず愛用し続けてくれている。
    それに少しの気恥ずかしさを感じながらポタポタと水滴を垂らしながら近づけば、小言がぽそっと落とされて、宿儺が立ち上がる。
    まだ湯気の立っているマグカップの中身をチラッとみて、宿儺に入れ替わってソファに座り飲み掛けのコーヒーに口をつける。

    「全く、言えば淹れてやる」
    「ん、これで良い」
    「俺のコーヒーなんだがな?」

    コーヒーの味は変わらない。
    香りが良くて丁度良い苦味…
    困ったやつだと少し苦笑する宿儺が、ドライヤーと櫛を持って戻ってくる。

    「まあいい、割ってくれるなよ」
    「気を付ける」

    目を細めて忠告した宿儺が俺の目の前に立ちドライヤーと櫛を一度ローテーブルに置き、頭に掛けたままのバスタオルで髪の毛を軽い力で拭いていく。
    目の前で揺れる自分の黒髪をみながら、変わったな。と思う。

    高専の卒業を控えた年、相変わらず突拍子もない提案をしてきた担任はみんなで文化祭をしたいと駄々をこねた。
    そうは言っても4人しかいないクラスで何をするんだと渋ったところ、卒業生や在学生を総動員させて文化祭を開催すると宣言し、実際その通りになった。
    出し物を決める際にはなぜか乗り気になった釘崎が女装メイドカフェなんてのをやると言い始め、その標的に俺が指さされた。
    「あんた髪伸ばしなさい」
    唐突に言われた言葉に抗ったところで無意味なことを高専に入って数年で理解していた。
    それでも俺だけ髪を伸ばすのも癪なので虎杖と宿儺を道連れにしようと画策したところ、
    「似合わない女装がみたい」というなんとも残念な理由によって虎杖は除外されたが、宿儺にあっては「お前が伸ばすのなら良い」とあっさり道連れに付き合ってくれた。

    それからずっと髪は伸び続け、肩のあたりまで伸びてしまえばどうでも良くなった。
    髪の毛のケアなんて知らず伸ばしっぱなし癖でボサボサな俺をみて宿儺が、まず髪を洗わせろ、俺にやらせろと言い始めた。それからというもの風呂お上がりは宿儺に任せるようにしている。

    パサパサと揺れる髪の毛からシャンプーの匂いが微かに香ってきて頭皮をマッサージする宿儺の手が心地よくついうとうとしてしまう。

    「恵」
    「んん」
    「寝るな」

    瞼が重くなってくる中で宿儺の柔らかい声が耳を擽る。
    結局力の入らなくなってきていた手の中からマグカップが奪還されてしまって抗議の意味で小さく唸れば、唇にふにっとやわらかな感触が押し当てられる。

    「めぐみ、もう少ししゃきっとしていろ」

    まるでいうことを聞かない子供に言うように、それでいて甘い声色で名前が呼ばれてうすらと目を開けば、小さく口角を上げる宿儺と目が合う。
    覗き込む様に宿儺の瞳を見つめれば顔に掛かる髪の毛を優しく払われて目元を撫でられる。

    「眠れなかったのか」
    「ああ、ちょっとしぶとかった。宿儺は?ちゃんと良い子にしてたか?」
    「お前が居らんから退屈だった」

    高専の頃から特級としてあちこち飛び回っており、各所で傍若無人の限りを尽くしてきていた宿儺を思い出しながら、揶揄うように言ってみればすぐに不貞腐れたような言葉が帰って来る。

    全てが完璧で人間から逸脱しているような宿儺が実はそうではなっかったのだと気付いたのは宿儺と恋人という関係になって暫くしてからだ。
    高専の時には得られなかった発見が日に日にあって、今では可愛いとさえ思えてしまう。
    小さく笑った俺の反応にふんと鼻を鳴らした宿儺がドライヤーのスイッチを入れて一番強い風を俺の顔に目掛けて掛けてくる。
    ブワッと襲いくる熱い風に髪の毛が吹かれ目が開けられず慌てて手を伸ばして風を防ぐ。

    「っ、う、んん!宿儺っ」
    「ケヒっ、目が覚めたか?」

    おかげさまで…
    ジトリと宿儺を見上げれば楽しそうに笑っていて、そのまま髪の毛を乾かし始める。
    リビングに響くドライヤーの音を聞きながら、されるがままに髪の毛を混ぜられ丁寧に扱われる。
    宿儺はことある毎に俺のケアをしたがる。
    手の乾燥や小さな傷はもちろんの事こと髪の毛を伸ばし始めてからは俺が髪を切りに行くのすら嫌なようで、いつの間にかハサミ一式を揃えて俺専属の美容師にまでなってみせた。

    高専卒業後、そのことを現状報告と題した酒のつまみにした釘崎と虎杖には可哀相にと哀れまれた。
    執着というのか独占欲というのか、何にしても大変だな…と。
    なんら苦労も不満もない俺にしてみれば何が大変なのかは分からなかった。
    確かに、俺に関連したもので行き過ぎて対象を瀕死にまで追いやる事が多々あるけれど、それも別段重大な問題では無い気がしてる。

    ぼんやりと宿儺の指先を感じながら思い出していれば、俺と同じように髪の毛を伸ばしている宿儺の紅い長髪が視界に入って来て、髪を乾かす動きに合わせてゆらゆらと揺れる。
    いつもは後ろで括られているそれは風呂上がりで解かれていてなんとなしにその動きを見ていれば、ベットの中で紅い髪の毛と宿儺の大きな身体に囲まれ揺さぶられた日のことを思い出してしまって慌てて顔を伏せる。
    やばい、なんてもの思い出してんだ俺…
    リラックスしてきた身体が恋人を前に思い出したかの様に熱を帯び始めてきている気がして内心で慌てる。

    「恵、顔を上げろ、乾かし難い」
    「ッ…」

    焦る俺をよそに、顔を伏せた俺の顎を軽く持ち上げ固定した宿儺とバチっと目が会ってしまって心臓が早鐘を打つように忙しなく脈打つ。
    少し驚いたような表情を見せた宿儺の顔が次第に意地の悪い笑みを浮かべていく。
    その表情の変わりようにごくりと喉がなり、内心で膨れる興奮と期待感に理性的な部分は萎えていく。

    「良い子で待っていろ」

    ぐるぐるといろんな感情に振り回されていれば、上機嫌な宿儺の掌が俺の頬を撫でて目を細める。
    それから垂れている俺の髪の毛を掬い取り、俺の目の前で髪の毛にキスをする。
    様になるその行動にぶわりと頬が紅潮したのがわかって、息苦しくてたまらない。
    それからゆっくりと伏せていた瞼が持ち上がり、キスをしたままの宿儺の瞳が獰猛な色を見せ始め、頭の中がショートする。

    言葉も詰まって出てこない俺に笑みを深めた宿儺の顔が近づき、吐息を首筋に感じたかと思えば、歯の硬い感触が肌に食い込みゆっくりと離れていき、その上からリップ音を立てて何度もキスが落ちてくる。
    はぁ…と小さく吐かれた色っぽい吐息に背筋が粟立ち、腹部がきゅうっと切なくなる…
    欲情しているのだと自覚しながら宿儺をチラリと見やればドライヤーで髪の毛を乾かす作業に戻っていた恋人の口元がゆっくりと動き、ドライヤーの風の音に邪魔されながらも辛うじて宿儺の声が俺の耳に届く。

    「たんと愛し尽くしてやる」

    獲物を前にした獰猛な肉食獣の前、食べられる事を期待して身体を硬直させドキドキと鼓動する自身の胸の音を聞きながら、ソファに大人しく座って待つ。
    複雑な気持ちの俺を見下ろした宿儺の紅い瞳がすうっと細まっていく。





    END…






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