どうしようもない気持ち。寮の部屋に戻ってくるなり、バッキーがドアを閉めたその瞬間だった。
スティーブにそっと後ろから抱きしめられた。
「……!」
一瞬、呼吸が止まった。
背中越しに感じる体温。高くて広い胸板。
声に出さなくても、それが誰のものかなんて分かりきっている。
(……スティーブ、背ぇ伸びたよな)
そんなことをぼんやり思いながらも、心臓は激しく跳ねていた。
その距離、その静けさに、バッキーの身体がこわばる。
(あ……キス、くるか?)
さっきまで求められていたワケだし……
自然と喉が鳴る。
しかし、数秒後。
スティーブの唇から出てきたのは、まったく予想していなかった言葉だった。
「……今日はありがとう」
それだけを言って、彼の腕がすっと離れた。
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