Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    9660moyunata

    @9660moyunata

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 19

    9660moyunata

    ☆quiet follow

    植物系人外ローレンツとそこへ通っている少年クロードのおはなし。

    ##風花
    ##クロロレ

    深い深い森の奥、その少年は鼻をすすりながら歩いてきた。もう殆ど泣いているようなものだったが、声は漏らすまいと口をきゅっと結んでいる。
    ああ、そんなに下ばかり見ていてはぶつかってしまうぞ。あんなに目に涙を浮かべていてはろくに前も見えないだろうに。木の根や岩が飛び出し、平らとはとても言えない地面の上をふらふらしながらやってくる。一歩、二歩...
    「いてっ」
    ああほら、やっぱりぶつかった。少年はようやく顔を上げ、そして僕と目が合った。
    しまった、と思った時には遅かった。僕の姿を見たら、今度こそ少年は泣き出してしまうかもしれない。今からでも目を閉じてただの木のフリでもしようか、などとどうしようもない考えしか出てこない。
    しかし少年は泣かなかった。涙の溜まった目を真ん丸にして、真っ直ぐに僕を覗き込んでいた。
    驚かせてしまうかもしれないが、僕はこの少年が心配で仕方がなかった。腕を持ち上げる。ああ、体を動かすなんていつ以来だろう? 僕の腕はぎいぎいと鳴きながら少年の方へ伸びる。長い指を広げ、ゆっくりと彼の頭の後ろへ添える。そのまま抱きしめても少年は抵抗しなかった。
    冷たい雨と風に晒されるだけだった僕の体に、彼の体温がじんわりと伝わってくる。
    「あったかいな...」
    そう少年がぽつりと零すので驚いてしまった。僕があたたかいだって? ほとんど枯れ枝のようになってしまったこの体が?
    さっきまで泣きそうだった少年は穏やかな、安心したような顔をしてしばらく僕に包まれていた。
    日が傾く頃になってようやく少年は起き上がった。もう戻らなくちゃ、と少し名残惜しそうな顔をしながら呟く。歩き出して少しするとこちらを振り返ったので、僕は微笑みを返した。つもりだったが、はて、きちんと笑顔を作れていただろうか?

    数日して、またその少年はやってきた。今度はしっかり前を見ていた。
    「やあ、また来たのかい」
    と声をかければびくりと震えて歩みを止める。
    「うわっ、しゃべった! ていうか女の人じゃなかったんだ......」
    何を失礼な、見ればわかるだろう!......と言いかけたが、たしかにこの伸びきった髪と貧相になってしまった体ではわからないかもしれない。胸は無いが、それ以上に華奢過ぎるのだろう。
    初めて会った時に話しかけなかったのは、きちんと声が出るのか不安だったからだ。体を動かすのも久しかったが、それ以上に声は出していなかった。もし化け物のような音が出てこの子を泣かせてしまったら暫く立ち直れそうにない。彼が帰った後に話す練習をしていたのはここだけの話だ。なんなら歌も歌えそうなので、いつか子守唄でも聞かせてやろうかと思う。
    少年はあまり家にいたくないのだと言う。あの日は森の奥まで逃げてきて、偶然僕を見つけたのだと。
    それから度々少年は僕の元を訪ねてくるようになった。よくもまあここがわかるものだ。僕自身ですら僕がどこにいるのか知らないというのに。

    僕は大木の根元にもたれ掛かるようにして、毎日毎日、ただその日が終わるのを待っているだけの時間を過ごしていた。動こうだなんて思わなかったし、目を開けることすらしない日もざらにあった。
    そんな暮らしをしていれば当然であろうが、段々と痩せ細り、ほとんど背にある大木と一体化しているような状態だった。
    そんなところにやってきたのがあの少年、名をクロードと言った。初めは家から逃げるためにここへ来ていたというのに、いつしか僕へ会うために来るようになった。僕もそれが嬉しかった。
    この頃は身体に葉が付くようになった。今にも折れそうだった指も生え変わって緑が戻った。そして胸元には花の蕾が付いていた。人間であれば、心臓のある位置であろう。

    ある日現れたクロードはまた下を向いていた。
    「なあローレンツ、やっぱりおれっておくびょうだと思う? いつもにげてばっかりだし......」
    まつ毛の下からこちらを覗く瞳は滲んでいた。そして鼻を赤くしている。
    「君は僕を怖いと思うかい?」
    クロードは無言で首を振る。
    「それに君は一人でこんな森の奥深くまで来れるんだ。勇敢じゃないか」
    そうしてそっと抱きしめた。初めて出会った日を思い出させた。
    「ほら、これをあげよう」
    胸元に燃えるように咲いていた赤い薔薇をぷつり、とちぎってクロードに手渡す。
    「暗くなる前にお帰り。僕もそろそろ眠ろうかと思っていたから......」
    素直に頷いたクロードは、背伸びをして僕の頬に軽いキスをくれた。ああ、笑顔になってくれて良かった。森の外へ戻っていく彼が見えなくなるまで見つめ続けて、そして目を閉じた。

    「花なんて育てたことないや......」
    ローレンツからきれいな花をもらって浮かれていたんだ。帰ってきてからこの後どうすればいいのかわからなくて困ってしまった。茎も付いてないけど、水に浮かべていておけばいいのかな? 枯れちゃったらいやだし、明日もう一回会いに行って聞いてこよう!
    外が明るくなってすぐ、クロードは家を飛び出した。太陽が出ていていい天気だけど、森に入るとすっと涼しくなる。
    「あれ、ローレンツ?」
    たしかこのあたりだったはずだ。いつもはローレンツがおれのことを見つけてくれて、長い手をふって教えてくれるんだ。
    「やっぱりここだよな......」
    大きな木の根元には、まるで人のような形をした蔓草のかたまりがあるだけだった。

    結局あれからローレンツには会えなかった。日が落ちるまで森の中を彷徨って、泣く泣くあきらめた。次の日もその次の日も探したけどやっぱり見つからない。花の育て方は相変わらずわからないままだったけど、何日経ってもそれは枯れることはなかった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭🙏😭😭😭😭😭🙏🙏🙏🙏🙏😭😭😭😭😭😭😭😭💐💐💐💐😭💘👏👏👏👏☺☺😭👏🌹😭🙏🌹
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    9660moyunata

    DONEテレビゲームをするだけの現パロ年後クロロレ
    光属性ですご安心ください。
    「ローレンツはゲームとかしないのか?」
    「そんなもの、時間の無駄だろう」
    やっぱりそう言うと思った。庶民の娯楽に現を抜かしてる暇なんてありませんって顔に書いてある。
    「じゃあさ、1回だけ対戦付き合ってくれないか? このゲーム1人でもできるんだけどさ、せっかく買ったんだしちょっとくらい人と遊んでみたいんだよ」
    「仕方がないな、1度だけだぞ」
    ローレンツはせっかくだから、とかそういう言葉に弱い。あいつは俺のことに詳しいなんて言っているが、俺だって負けてない。ローレンツが俺のこと見続けているなら同じだけ俺もローレンツを見ているんだ。
    今始めようとしているゲームはいわゆる格闘ゲームだ。さすがに初心者のローレンツをこてんぱんにするのは気が引けるから、あえて普段使わないキャラクターを選ぶ。それでも俺の方が強いことに変わりはない。手加減しつついい感じの差で勝たせてもらった。
    「......。」
    勝利ポーズを決めている俺のキャラクターをローレンツが無表情で見つめている。よし、かかったな。
    「クロード、もう一戦だ」
    「おっと、1回しか付き合ってくれないんじゃなかったのか?」
    「せっかく買ったのに 1372

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    紅花ルートで戦死した記憶があるクロードと青獅子ルートで戦死した記憶があるローレンツの話です。12月にクロロレオンリーイベントがあればそこで、実施されなければ11月のこくほこで本にするつもりで今からだらだら書いていきます。
    1.振り出し・上
     クロードが最後に見たのは天帝の剣を構える元傭兵の女教師だった。五年間行方不明だった彼女が見つかって膠着していた戦況が動き始めそれがクロードにとって望ましいものではなかったのは言うまでもない。

     生かしておく限り揉めごとの種になる、と判断されたのは故郷でもフォドラでも同じだった。人生はなんと馬鹿馬鹿しいのだろうか。だが自分の人生の幕が降りる時、目の前にいるのが気に食わない異母兄弟ではなくベレス、エーデルガルト、ヒューベルトであることに気づいたクロードは笑った。
    >>
     もう重たくて二度と上がらない筈の瞼が上がり緑の瞳が現れる。その瞬間は何も捉えていなかったが部屋の窓から差す光に照準が合った瞬間クロードの動悸は激しく乱れた。戦場で意識を取り戻した時には呼吸が出来るかどうか、視野は失われていないか、音は聞こえるのかそれと体が動くかどうか、を周りの者に悟られぬように確かめねばならない。クロードは目に映ったものを今すぐにでも確認したかったが行動を観察されている可能性があるので再び目を瞑った。

     山鳥の囀りが聞こえ火薬や血の匂いを感じない。手足双方の指も動く。どうやら靴は履 2041

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    青ロレ赤クロの話です。
    6.初戦・下

     クロードから自分たちを襲った盗賊の討伐が今節の課題だと告げられた皆は初陣だと言って沸き立っていた。金鹿の学級は騎士を目指す平民が目立つ学級で入学以前に領主の嫡子として盗賊討伐を体験している者はクロードとローレンツしかいないらしい。クロードはローレンツの印象よりはるかに慎重で毎日先行したセイロス騎士団がどの方面へ展開していったのか細かく記録をつけ皆に知らせていた。セイロス騎士団に追い込んでもらえるとはいえどこで戦うのかが気になっていたらしい。

     出撃当日、支度を整え大広間で待つ皆のところへベレトがやってきた時にはローレンツたちはどこで戦うのか既に分かっていた。

    「騎士団が敵を追い詰めたそうだね。場所はザナド……赤き谷と呼ばれている」

     そう言えばクロードはザナドが候補に上がって以来やたら彼の地についた異名の由来を気にしていた。赤土の土地なのか赤い花でも咲き乱れているのか。土地の異名や古名にはかつてそこで何があったのかが表されていることが多い。土地の環境によっては毒消しが必要になる場合もある。だが先行した騎士団によると特殊な条件は何もない、とのことだった。初陣の者た 2081

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    7.背叛・上
     皆の初陣が終わるとクロードの記憶通りに事態が進みロナート卿の叛乱の知らせがガルグ=マクにもたらされた。養子であるアッシュへセイロス教会からは何も沙汰が下されていない。軟禁もされずアッシュの方が身の潔白を証明するため修道院の敷地内に閉じこもっている。鎮圧に英雄の遺産である雷霆まで持ち出す割に対応が一貫していない。前節と同じく金鹿の学級がセイロス騎士団の補佐を任された。クロードの記憶通りならばエーデルガルト達が鎮圧にあたっていた筈だが展開が違う。彼女はあの時、帝国に対して蜂起したロナート卿を内心では応援していたのだろうか。

     アッシュは誰とも話したくない気分の時にドゥドゥが育てた花をよく眺めている。何故クロードがそのことを知っているかと言うと温室の一角は学生に解放されていて薬草を育てているからだ。薬草は毒草でもある。他の区画に影響が出ないようクロードなりに気を使っていたがそれでもベレトはクロードが使用している一角をじっと見ていた。

    「マヌエラ先生に何か言われたのか?致死性のものは育ててないぜ」
    「その小さな白い花には毒があるのか?」

     ベレトが指さした白い花はクロード 2097

    111strokes111

    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    11.末路・上
     クロードは先日、あんなことをしでかしておきながら怯えさせてすまない、とローレンツから逆に謝られてしまった。あれから何度か時間をとって話し合いをしてみたが互いの知る未来にかなり大きな食い違いがあることが分かりその後はおかしな雰囲気にはなっていない。

     細かな違いはあれどクロードの祖父が体調を崩し盟主代理として円卓会議に出席すること、それとマイクランが破裂の槍を盗み出すことは共通していた。

    「俺はマイクランが討ち取られたという話しか知らない」

     クロードの知る過去でもローレンツの知る過去でも級長が不在の可能性があるなら、と言うことで金鹿の学級はコナン塔へ行かなかった。

    「そちらでも箝口令が敷かれていたのか」

     教会は何かを隠している、というのが元からのクロードの主張なので教会の態度に矛盾はない。ベレトから馬の面倒を見るように命じられた二人はそれぞれ別の馬に新しい水や飼い葉を与え体を拭き尻尾の毛に櫛をかけ絡まっている塵を取り除いてやっている。いななきや馬が立てる物音が話し声を隠してくれた。今後の展開が色々と気になるところだが今回も祖父ゴドフロアの具合が悪くなるなら 2156