深い深い森の奥、その少年は鼻をすすりながら歩いてきた。もう殆ど泣いているようなものだったが、声は漏らすまいと口をきゅっと結んでいる。
ああ、そんなに下ばかり見ていてはぶつかってしまうぞ。あんなに目に涙を浮かべていてはろくに前も見えないだろうに。木の根や岩が飛び出し、平らとはとても言えない地面の上をふらふらしながらやってくる。一歩、二歩...
「いてっ」
ああほら、やっぱりぶつかった。少年はようやく顔を上げ、そして僕と目が合った。
しまった、と思った時には遅かった。僕の姿を見たら、今度こそ少年は泣き出してしまうかもしれない。今からでも目を閉じてただの木のフリでもしようか、などとどうしようもない考えしか出てこない。
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