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    9660moyunata

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    クロロレ。おててだけ人外なローレンツの話。年前修道院にて
    ハピエンです。

    ##風花
    ##クロロレ

    俺はローレンツが手袋を外したところを見たことがなかった。
    鈍い光沢のある黒い革の手袋。手首のあたりには小さく薔薇の刺繍が入っている。きっと特別に作らせた一級品なのだろう。
    講義中にメモを取る時だって、食事中、訓練中、温室当番、草むしり、厩舎当番、休みの日、いつだって手袋がそこにあった。
    あいつは俺なんかに比べて外見に気を使うやつだからな。きっと槍を振るう手が豆だらけでボロボロになるのが嫌なんだろう。完全に防ぐことなんてできないけど、いくらかはマシになる。日焼け対策も兼ねてるのかもしれない。あいつ訳分からないくらい真っ白だし。
    字を書く時にそんなのはめてたらペンが持ちにくいだろうと思いきや、俺の走り書きなんかよりよっぽど綺麗な字が出てくる。人柄そのものというような堅くて真っ直ぐな字だった。
    そういえば、よく一緒にいるフェルディナントもずっと手袋付けてたよな。やっぱり似た者同士って集まるものなんだ。いつも遅刻ぎりぎりで身支度してる俺にはそんな面倒を増やす気が全くわからないが、そういうのにこだわるやつらもいるんだろうと思っていた。
    あの日違和感を感じるまでは。

    ローレンツは監視だと言って何かと俺に突っかかってくる。講義だってだいたい俺の隣に座ってくるし、実技訓練でも一緒に組むことが多い。この日も俺とローレンツが組んで戦闘演習をしていた。
    ローレンツは槍で、俺が斧。斧は得意でも苦手でもないが、いずれドラゴンに乗れるようになりたいと思うなら必須の技能だ。戦場を把握したいならやはり上空からだ。それに、もし危機に瀕している味方がいてもあの機動力があるなら助けに向かうことができるかもしれない。
    対するローレンツは騎馬兵種になりたいんだってな。馬で颯爽と戦場を駆けるのが貴族には相応しい! なんて言っているが、機動力を得たローレンツがまた勝手に敵陣ど真ん中に飛び出すんじゃないかと気が気ではない。何時だかの模擬戦の時はまだしも、本物の戦場では絶対にやめてほしい。たとえローレンツが鬱陶しくて面倒なやつだとしても、見知った誰かが傷付くのは見たくないんだ。
    そんなこんなで演練が始まった。槍相手に戦うなら斧を持っている俺の方が有利だ。槍はリーチが長いが、その分バランスを取るのは難しい。
    真っ直ぐに突き出された槍を躱し、その先端を横方向に力いっぱい斧で殴りつけた。槍は長いから柄を持つ手に負担がかかる。俺にラファエルみたいな馬鹿力は無いが、それでもローレンツの手首は槍につられてぐりっと外側を向いた。
    だけどローレンツは槍を手放さない。引いた右脚で踏ん張って、添えていただけだった左手で暴れる槍を身体の方へ引き戻す。食いしばった歯に眉間に寄ったシワに、体力を持っていかれてるのが一目でわかった。そんな隙を作るくらいなら武器なんて捨てちまえばいいんだ。上品さにこだわるローレンツは頑なに格闘術を使おうとしない。でも、どうか本当の戦場に出た時にはなりふり構わず生きることを第一に考えて欲しい、なんて考えが頭の片隅に浮かんでいた。
    ローレンツが構え直している隙をついて胴に一撃お見舞いしてやった。訓練なんだからわざわざ痛くする必要なんてない。もともと木製で刃の丸い斧だからせいぜい打撲程度にしかならないだろうが、あえて裏側の斧頭を使った。手加減をするだなんて侮辱しているのか! なんて言われそうだけど、まぁいいや。お小言にも慣れっこだし、自分のやりたいようにするさ。
    打撃を受けたローレンツは一歩後退しまた向かってくる......と予想していたがそうはならなかった。丁度ローレンツが足を置こうとした石畳は欠けて窪みができていた。完全にバランスを崩したローレンツがひっくり返るように頭から地面に落ちようとしていた。一瞬時が止まったように思った。俺は手にしていた斧を放り出してローレンツの方へ駆け出し手を伸ばす。間に合え、間に合ってくれ......

    結果から言うとローレンツは無事だった。二人とも地面に倒れ込んで砂だらけになったけど、なんとかあいつの指先を掴んで引っ張ることができたから頭ではなく背中を打つだけで済んだ。
    とはいえ、受け身も取らずに倒れれば相当痛い。首の骨を折るより遥かにマシだけど、ローレンツは背が高いってことはそれだけ落ちるまでの距離があるわけで。あいつはしばらく咳き込みながら地面にうずくまっていた。いつも真っ直ぐに背筋を伸ばし凛とした気高い生き物が、砂まみれになって小さくなっているのに奇妙な心地を覚えた。
    「すまない、君に助けられるとは」
    周りにもっと気を配るべきだった、なんて言いながら黒い制服についた汚れを手で払っている。
    「俺のことばっかり見てるからだな」
    なんてにやっとしながら茶化してみるけど、返事は返ってこなかった。「立てるか?」って聞きながら手を差し出してみたけど、いつもの冷たい調子で「結構だ」と断られてしまった。
    そんなことをしているうちに演練の時間は終わり、皆それぞれ片付けをし訓練場を出て行く。
    ありがとうとは言わなかったものの、あのローレンツが俺に礼とも取れるようなことを言うだなんて随分と丸くなったものだ。数節共に過ごして俺がローレンツへの見方を見直し始めたように、あいつも少しは俺への評価を改めてくれたんだろうか?
    だけどそれよりも気がかりなことがあった。ほんの一瞬ではあったが、ローレンツの指先を掴んだ時に違和感があった。おそらく、あいつは指が一本足りてない。事故か何かあったんだろうか。美意識の高いローレンツのことだから、そんなところを人に知られたくないんだろう。
    でもそれはあくまで俺の想像だ。自分に知らないことがあるとわかるといてもたってもいられなくなる性分なんだ。そういえば、さっきローレンツは俺が差し出した手を拒んだ。増々怪しくなってきたな。
    今までを思い返してみても、ローレンツの手を触ったことはなかった。いや、まあそれが普通か。仲がいいとはとてもとても言えないし、仮に仲が良かったとして男同士で手を繋ぐなんて......
    脳中で映像を浮かべかけてぶんぶんと頭を振った。いやいや、何考えてるんだ俺は。

    その日以降俺もローレンツの観察を始めた。向こうが監視と言って近づいてくるなら丁度いいじゃないか。
    手の特に小指を注意して観察するが、全くもって違和感はない。あまりに自然に動いてるものだから、あの日指を握った時の感覚は何かの勘違いだったんじゃないかと思うくらいだ。おそらくあの手袋には魔力なんかで動く仕掛けでもあるんだろう。魔術を極めると自身を浮かせることもできると聞いた。だからきっと手袋の端を動かすことだってできるはずだ。ローレンツは理学が得意だと自分で言うくらいなんだから、そんなことができてもおかしくない。
    仮説を立てたものの、肝心の確認する方法が思いつかなかった。ダメもとで真正面から聞いてみたけど、まぁ上手くいかなかった。
    「ローレンツってさ、手袋外さないのか?」
    「僕はこれが気に入っていてね、君の方こそ使ってみてはどうかな? 見栄えはもちろんのことだが、機能性としてもだね......」
    結局あちらのペースに飲み込まれ、いかに手袋が素晴らしいかを力説されて終わった。そんな話を聞かされては尚のこと外してみてくれだなんて言えなくなった。
    やはり強行突破するしかないのか? でもきっとローレンツは手のことを気にしているんだろう。無理に触ったりなんかしたら俺は嫌われてしまうかもしれない......。
    あれ、俺はローレンツに嫌われたくないのか?あんな小言三昧で怪しいだなんて真正面から睨みつけてくるようなやつなのに。 そもそもそれって既に嫌われてるようなもんだが......。
    もやもやして仕方がないから、この日は大人しく自室に戻った。普段ならこの時間から散策したり書庫に篭って調べ物したりするが、こんな上の空の状態では本を逆さに持って開こうと気が付かないのではないかという程だ。
    ローレンツの手を握ったあの日のことを思い出していた。そうだ、偶然を装えばいい。とは言ってもまたローレンツを転ばせるのは流石に気の毒だった。それに似たような状況がそう何度もあるのは怪しまれるだろう。成功率が高いとは言えないが、俺は一つ賭けに出ることにした。

    講義が終わり、教室を後にする。数歩外に出てから思いっきり伸びとあくびをすればローレンツの小言が飛んできた。よしよし、いつも通りだ。
    「おいクロード、全くだらしがない。そんなで講義の内容はきちんと頭に入っているのか?」
    「うわ、ローレンツだ。大丈夫だって、理解しようと頭を使った分の疲れがこの伸びなんだからさ」
    くるりとローレンツの方に向き直れば、腕を組み仁王立ちしている姿が目に入る。細身ではあるが長身であるために威圧感がすごい。
    「そういうローレンツはさ、小一時間座りっぱなしで身体痛くなったりしないのか?」
    「背筋を伸ばし正しい姿勢で座っていればそのようなことにはなるまい。君は頬杖を付いて猫背になっているだろう。そんなだから身体を痛めるのだよ。普段の立ち姿もそうだがね、君は人前に出ても恥ずかしくないように姿勢を......」
    なるほどなぁ、気が向いたら試してみるかと思いつつ歩き出す。今日はカラッとした良い天気だ。あの作戦を実行するには丁度いい。「話の途中で歩き出すのはやめたまえ!」と文句と一緒にローレンツが付いてくる。あれだけ喋り続けて疲れないものかと不思議になってくる。人へ真っ直ぐな考えをぶつけるだなんて特に疲れるだろうに。
    食堂を抜け桟橋にたどり着いた。どの釣竿を使おうか、釣り具置き場を物色する。
    「君、釣りなどしている暇があるなら講義の復習でもしたらどうなのだ」
    怒るという程でもなく、呆れたような声がした。
    「いやいやローレンツ先生、確かに釣りを趣味にしてる人もいるけどさ。役に立つ時が来るかもしれないだろ? 例えば予想外の遠征で食料が尽きた時、釣りの心得があったおかげで命が助かるなんて場面があるかもしれないぜ。まあ、そんな世の中にならないのが一番なんだけどな」
    ふむ、と顎に手を当てて少々考えている様子のローレンツだったが、特に反論をしてこないあたり納得してくれたんだろうか。自分の意見はどこまでもはっきり言ってくるわりに、人の話をちゃんと聞けるあたりこいつは良くできてると思う。逆に言えば、それっぽい理屈を並べておくとすんなり言うことを聞いてしまうので少々心配だ。たった今適当な理由を吐いてローレンツを丸め込んでいる俺が言うことじゃないかもしれないんだけど。
    ローレンツに釣竿や餌の種類の説明をしながらちらりと桟橋の方を見る。一箇所濡れていて、水を吸いぐすりと溶けた練り餌の放置されている場所があった。よし、使えそうだ。
    「説明はこれくらいにしてさ、とりあえずやってみようぜ」
    ローレンツの方を向きながら手招いて、後ろ歩きで桟橋を進んでいく。ローレンツも俺の方を真っ直ぐ見ながら数歩の距離を空けて付いてくる。
    この辺りだったな。俺はぬめる練り餌をかかとで踏み、ずるりと足を滑らせた。もちろんわざとだ。このままでは池の中へ真っ逆さま。手にしていた釣竿は放り出して、ローレンツの方へ手を伸ばす。視界の端で驚いた顔をしたローレンツが大きく一歩踏み出してこちらに手を伸ばしているのが見えた。

    もし落ちたとしても今日は日が出ていて暖かい。少なからず痛いだろうが、骨を折るだなんて大惨事にはならない。俺はこういうずるいことしかしないんだ。

    結論、ローレンツが手を引っ張ってくれたおかげで池に落ちることは免れた。自作自演とはいえそれなりに怖かったな。
    「いやー悪い悪い、助かったよ」
    へろへろと座り込みながら礼を言う。ただし、掴んでもらった手はまだ離さない。やっぱりだ、手袋の小指部分はくしゃっと潰れている。
    目線をゆっくりと手からローレンツへと移す。小さく口を開け、動揺の隠しきれていない顔がこちらを見下ろしていた。
    「なあ、ローレンツってさ......」
    「クロード、その、せめて人に聞かれない場所にしてくれないか」
    ローレンツがこんなに小さな声を出しているのを初めて見た。少し申し訳ない気分になりながらも、あぁ、と小さく頷いてようやく俺は立ち上がった。

    ローレンツの部屋に入るのはこれが初めてだ。あいつらしい綺麗な部屋だな。薔薇の花が生けてあるくらいであとは本当に綺麗なので、それくらいしか言葉が出てこない。
    「君はそちらに掛けたまえ」
    ローレンツが手で示した椅子へ素直に腰掛けた。どうやら俺に茶を出してくれるらしく、棚からティーセットを運んできた。
    「なんだ、俺にも出してくれるのか?」
    「クロードとはいえ客人だからね、もてなしくらいするとも」
    なんだよその言い方、と言い返しつつも悪い気はしなかったので顔は緩んでいた。
    二人分の紅茶を入れ終われば、テーブルを挟んだ向かい側にローレンツも座った。火傷しないように気を付けつつ一口飲んでみる。
    「美味いな」
    紅茶の詳しいことはわからないが、きっと良いやつなんだろうな。ローレンツらしい味がする。
    「ふふん、そうだろう? 産地からこだわっているのだ」
    ローレンツは満足そうな顔をしている。これから長々とうんちくが始まるんじゃないかと聞き流す準備をしていたのに、それっきりローレンツは黙ってしまった。
    何か考え事をしているように視線が泳いでいる。二人してちびちびと紅茶を飲み、カップを持ち上げたり置いたりする小さな音だけが延々と続いていた。
    「あのさぁ、ローレンツって、その......手は」
    そろそろ紅茶が無くなりそうになって、なんとか声を出してみるが上手く続かなくなってローレンツの様子を伺う。
    「君にはもう隠し通すことは難しいのだろうね。ただ、無茶を承知で言えば驚かないでほしいのだが......」
    ローレンツは手を組んでそこに目線を落としている。伏したまつ毛が震えていた。

    驚かない自信はあった。生まれ故郷のパルミラでは武勇がものを言う。そんなお国柄だったので身体の一部が欠けている人間も少なからず見てきている。
    ローレンツは左手で隠すようにしながら右手の手袋をゆっくりと引っ張る。ざり、と不思議な音を立てながら手袋は外れた。
    驚かないつもりでいたのに、俺はローレンツの手から目が離せなくなっていた。指の本数が違うのは想定内だった。しかし、手首のあたりからローレンツの髪と同じような色をした鱗が生えていたのだ。隙間なく生えた青紫の鱗が四本の指を覆う。その指先からは厚く鋭い爪が飛び出していた。まるでドラゴンと人間の中間地点というような感じだ。
    貴族の模範たらんと型にはまりたがるローレンツにとってこれが悩みの種であることは容易に想像がついた。ぽかんと口を開けて瞬きするしかできない俺を見て、ローレンツはやはりというような悲しげな笑みを浮かべている。
    「醜く恐ろしいだろう? どうかこのことは口外しないでもらいたいんだ...」
    「なあローレンツ、俺の肌の色は何色だ?」
    罵倒されるとでも思っていたのか、ローレンツはきょとんとした顔をしている。
    「は? ええと、褐色というのだろうか」
    「ああ、そうだ。お前は俺と同じような見た目をしたやつを何人知ってる?」
    「それは......片手で足りるほどしか知らないな」
    「だろうな。それでお前はさ、俺のことを醜いと思うか?」
    俯きながらぽつぽつと話していたローレンツは勢いよく顔を上げて俺の目を真っ直ぐに見据える。
    「断じてそのようなことはない! それは君にしかない良さとでも言いたまえ!」
    なんだよ、一言違うって言ってくれれば十分だったのに。そんなに熱い言葉を送られるだなんて思ってなくて赤面しそうになるのを必死に堪えた。

    ふと、今までに交わしたローレンツとの会話を思い返していた。あいつは俺に盟主たる資質があるのかどうか見極める、と言っただけで頭ごなしに俺を否定することはしなかった。そういえば、見た目についてもとやかく言われたことはなかったな。それなのに自分のこととなるとあれだけ自信が無くなってしまうもんなのか。

    「だったらさ、俺もお前も似た者同士だろ? お前の手だってお前にしかない良さだ」
    今度はローレンツが目をまん丸にして口をふにゃふにゃにしていた。手袋をしたままの左手で何も付けていない右手を撫でている。
    「そうかい、全く君は口が達者で懐柔されてしまいそうだよ」
    ようやくローレンツが穏やかな顔をしてくれた。赤みの増した頬に少し細められた目、緩やかに上がった口角。そうそう、お前はそういう顔してる方が似合うよ。
    冷めきった紅茶を飲み干してテーブル越しに手を差し出してみれば、少し戸惑った顔をしてからローレンツも手を伸ばして俺の手を取ってくれた。硬くて少しひんやりしていたけど、俺と変わらない普通の手だった。



    おまけの設定小話。
    人間の指は五本ですね。爬虫類も五本ですが両生類は四本でだいたいの恐竜は三本。
    ローレンツに鱗を付けて指は四本にしたい!と思ったものの四本だと両生類になってしまうし、両生類には鱗が無い。爬虫類にならって五本指にするとクロードが異変に気がつくエピソードが入れられない...と悩んだ時に助けられたのが恐竜でした。
    三本だとさすがに生活困りそうだけど、人間と恐竜の間ってことにすれば三本と五本の中間になって四本じゃん!天才!!!
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