ココイヌデート①「デートしようぜ、ココ」
そう言って、幼馴染が指定したのは、チェーン店のドーナツショップだった。
チームの幹部が昼の三時にドーナツショップでデート。健全すぎて、逆に新鮮だ。さすがオレのイヌピー。ぶっとんでいる。
待ち合わせの十分前にドーナツショップに到着すれば、イヌピーはすでに窓際の席で待っていた。遅刻魔のイヌピーが珍しい。それにしても。
「目立つな」
どこで見つけてきたんだか、ド派手なピンクのジャージに、オレがプレゼントしたルブタンのハイヒール。まるでセレブの休日のピンナップのようで、妙な迫力がある。
値段も質も雲泥の差のジャージとハイヒールを合せようなんて思うのは、イヌピーだけだろう。しかも行先はドーナッツショップ。窓際の席で、つまらなそうな顔をして、カフェオレを持て余している。あまりにイヌピーらしくて笑ってしまう。
「おまたせ」
適当に買ったドーナツを皿にのっけて登場したオレを見上げて、イヌピーは笑った。
「イートインで八個って買いすぎだろ」
「イヌピーも食うだろ」
久しぶりのドーナツショップは見たことのない商品もあったけれど、イヌピーはやっぱりチョコリングに手を伸ばした。昔からイヌピーのすきなやつ。
「久しぶりに食ったけどうまい」
イヌピーは半分オレに寄越す。ふわふわのドーナツは口の中であっという間に溶けていく。チョコリング。ポンデリング。エンゼルフレンチ。チョコファッション。途中でコーヒーとカフェオレをお代わりして、八個なんてあっという間だ。イヌピーは満足そうな顔をしている。
「なに?ドーナツが食いたかったの?」
「ちげーよ。言っただろ。デートだって」
おまえ、最近忙しそうだったから、とイヌピーはかわいいことを言ってくれた。
「じゃあ、ここからはオレにエスコートさせてくれる?」
「あんま変なところじゃなければいい」
「変なところってなに?ラブホ?」
隣の席の女子高生がぎょっとした顔をする。イヌピーは「ちげーよ」とさらりと流した。
「マネキンみたいな店員がいる店」
どうやら変なところというのはブランドショップのことらしい。たしかにイヌピーにしてみたら、愛想笑いをはりつけた店員はマネキンだろう。でも。
「スタイルと顔の良さならイヌピーは負けてないと思うけどな」
「は?なに?」
「オレはイヌピーの顔がすきってこと」
「オレもおまえがすきだぜ」
顔と言ったオレに対して、イヌピーはさらりとオレが好きだと言った。仕事で疲れていたオレを連れ出してくれたこととか。そういうとこほんとさぁ。
「イヌピーって男前だよな」