無題 ふと右隣の乾を見れば、同じように欄干に手を載せてはるか京都の町を見つめていた。色素の薄い髪が風に吹かれて踊っている。大きな瞳は冬の空を映していつも以上に澄んで見えた。寒さのせいか、目元と鼻先がほのかに赤く染まっている。
好きな顔だなぁ、と思う。太めの眉毛も、左目にかかる痣も、乾青宗を構成する全部が愛しく感じる。
乾の顔を見ていたら、九井はひとついいことを思いついて、コートのポケットから携帯電話を取り出した。
「イヌピー」
呼びかけると乾がこちらを振り向く。その無防備な顔に、カメラ機能でパシャリとシャッターを切った。
「っ! ……ココ!」
無許可の撮影に乾は肩を怒らせる。九井はしたり顔で「いいじゃん、記念だよ」と返した。
「じゃあココも入れよ」
「んー、オレはまた今度ね」
そう誤魔化すと乾はムスッと頬をふくらました。が、すぐに「しょうがないな」と言いたげな顔になった。