ココイヌデート④まくどなるど ファストフード店にヤンキーがいる。これは仕方のないことだ。なにしろ渋谷は彼らの縄張り。黒龍、関東卍會、昔は愛美愛主なんてチームもあったっけ。他に有名どころと言えば芭流覇羅か。稀に池袋や横浜のチームもやって来る。
だから一般人でも、特攻服を見ればどこのチームか一目でわかる。東京卍會は比較的穏やか。黒龍を見たら逃げろ。芭流覇羅を見たらお終いだ。生きる知恵ってやつだ。
と言うわけで、窓際の席にいるのが黒龍の幹部であることは、なんとなく分かっていた。
なんで幹部と分かるのかと言えば、黒龍は兵隊と幹部で特攻服のデザインが違っていたし、なにより幹部二人に対して、兵隊五人が直立不動で立っている。
見てはいけないと知っていながら、ついつい目で追ってしまうのは、幹部ふたりが、その、ええと、とてもなかよしさんだからだ。
幹部はふたり。インテリ風の黒髪がヤンキー風の金髪がポテトを食べさせている。はい、リピートアフターミー。黒髪インテリが金髪ヤンキーに、ポテトを、食べさせて、いる。
黒髪は携帯を弄っているのだが、ときどきポテトを摘まむ。そのついでに金髪ヤンキーの口の前にも持って行く。そうすると、ひな鳥よろしく金髪ヤンキーが口を開くというシステムだ。べつに手を怪我しているという様子はない。多分。ポテトだけじゃない。ジュースも、ハンバーガーも、ぜんぶ食べさせていた。
ず、ずいぶんとなかよしさんなんだな……。
店内は無言でありながらどよめいている。誰一人発言しないが、(え、どういうこと)(あーんしてる)(な、なかよし……?)という戸惑いが透けて見えている。兵隊は顔色ひとつ変えたりしない。もしかして慣れているんだろうか……。
そのときぐらりと金髪ヤンキーの体勢が崩れた。
「おっと、イヌピー。限界か」
イヌピーというのが幹部のなまえらしい。えっ、乾青宗? ってことは特攻隊長じゃん。じゃあ、あっちにいるのは九井一。うわ。ほんとうに黒龍の幹部なんだ。
こちらの動揺など知る由もなく、九井は乾を自らの肩にもたれかかけさせた。
「ココ」
目を閉じたままの乾が口を開ける。食わせろというアピールだ。
「イヌピー、寝てるじゃん」
「ねてねぇ」
「おねむじゃん」
「……おねむ……」
「イヌピー、寝ちゃった?」
答えがない。
え。
ええ~。
お腹いっぱいになったから寝ちゃったの? 子供みたいだな?
九井は穏やかな顔で乾を見つめている。幼馴染って本当なのかな? なにせ渋谷。ヤンキー激戦区。一般人にもそれなりに情報が回ってくる。
九井が幼馴染の顔を見せたのは一瞬だった。兵隊たちに顎をしゃくると、なにもかもを心得た兵隊たちがテーブルや椅子を退けて道を作る。なにごとかと思えば、眠ったまま乾を連れて行くために道を作ったようだ。
「よっと」
乾をおんぶしたのは、意外にも九井だった。兵隊に任せるのかと思いきや、自らが背負うとは。
やっぱりなかよしさんなんだな。
おなじように一部始終を見ていた、命知らずの友人が呟く。
「あのふたり恋人なんじゃない?」
いや、あたしもそう思ってたけどね。建前ってものがあるでしょ。