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    somakusanao

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    somakusanao

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    刀剣乱舞Wパロというやつです。とうらぶをやってないとわからないうえ、なぎがほとんど出てこないという、自分の趣味だけを追求した話です。
    おもしろいのかよくわからなくなってきましたが、そこそこ時間をかけたので、晒します。ただの出オチです…。
    他に白髪キャラがいる中、なぜ人間無双なのかと言うと、槍が好きだからです。それだけです。

    #凪玲

    「ここでは菫と名乗りなさい。わたくしのことは桔梗と」



     玲王の六つの誕生日。はじめて祖母に会ったときの話だ。
     まだ日も昇らぬ早朝に家を連れ出され、御影で見たことのない黒塗りの車に乗車すること数時間。日が暮れかける頃に、のどかと言えば聞こえがいいが、人のまず通らなそうな山里に到着した。玲王は車をおろされて、ばぁやとも別れ、ひとり門をくぐった。門の向こう側にはすでに迎えが待ちかまえていた。若く、美しい男である。
     御影の子息である玲王はパーティなどで芸能人を見ることは珍しくなかったが、比較するのがおこがましいほど、彼の見目はうつくしかった。まるで神に誂えられたような完璧な造形。重たげな睫毛に縁どられた双眸は青く透き通っている。すっと通った鼻。こづくりなくちびる。玲王が思わず見惚れてしまうと、彼はにっこりと微笑んだ。

    「うむ。はじめましてだな、俺の名は×××と言う。よろしくたのむ」

     彼は膝を追って、玲王と視線を合わせると、優美な手つきで玲王の手を取った。つめたい、と言うと、彼は玲王に倣ったように、あたたかい、と言って笑って、玲王を抱きあげた。わぁ、と玲王が声をあげる。彼はやわらかく目を細める。美しくある彼だが、思いのほか力はあるようで、玲王を抱えたまま、すたすたと歩く。
     そこに現れたのは、玲王と同じ年ごろと思われるこどもだった。少女のように髪を伸ばしているが、少年であるようだった。やはり美しくある。玲王を見て、ぱあっと顔を輝かせる。

    「×××さま。そのひとが、あるじさまの?」

     彼が鷹揚に頷くと、こどもはぱっと身を翻したかと思えば、今度は大男を連れてきた。ずいぶんと厳めしい顔つき体つきであるが、どこか品がある。やはり顔は整っていた。
     
      


     彼に連れられて、祖母の部屋につくまで、たくさんのこどもや男たちと擦れ違った。彼らはいづれも見目美しく、いづれもあたたかく玲王を歓迎してくれる。

    「ここには男の人しかいないの? どうして?」
    「俺たちは××××だからなぁ」

     彼の声は明瞭であるが、ときどきよく聞き取れぬことがある。もしかしたら玲王の知らない言葉であるのかもしれない。彼は男子と言ったような気がした。御影の使用人の半分は女性だが、ここではそうではないらしい。そもそも彼らは祖母の使用人ではないだろう。誰に言われたわけではないが、なんとなしにそう思った。

    「女の人はおばあさまだけ?」
    「うむ。××は主だけだ」

     彼はにこりと笑うと、抱き上げていた玲王をおろした。この奥に祖母がいる。はじめて会う祖母がいる。玲王の母方の祖父母は、なにかと理由をつけて会いに来てくれるが、父方の祖母に会うのは初めてのことだった。祖父はいないとのことだ。いないというのが、亡くなったのか、離縁したのかは、定かではない。そもそも祖母の存在でさえ、玲王が知ったのは、七日ほど前のことだった。はじめて見せるようななんとも言えぬ表情をした父に、祖母に会いに行くように言われたので、それ以上のことはなにも聞けなかったのだ。
     ふすまを開けると、やはり美しい男たちが控えていた。そしてその奥に座っていたのが、祖母だった。たしかに父親より年上であるような気もするが、どこか少女めいたところがある。目元のあたりが、なんとなく自分と似ているような気がした。彼女が祖母であるとは思うが、あまりにも若々しく、おばあさまと呼ぶのは躊躇われた。彼女は玲王をじっくりと見つめると、「菫」と言った。

    「ここでは菫と名乗りなさい。わたくしのことは桔梗と」
    「え?」
    「本丸での呼び名です」

     玲王は目をまるくしたが、聡明な子供である。この屋敷が「本丸」と言うのだと悟った。

    「長谷部。お願いしていた菫の部屋の用意はできていますか」

     部屋に詰めていた男たちのうちのひとりが頷く。彼が長谷部なのだろう。

    「では三日月に代わって菫に案内をお願いします。三日月よりあなたの方が適材でしょう」
    「はっはっは。主は手厳しいな」

     玲王をここまで連れて来てくれた男が鷹揚に笑う。三日月。この男は三日月と言うのか。いままで曖昧だった言葉がすべて聞こえるようになった。目をまるくしたままの玲王は三日月を見つめる。三日月は微笑むばかりだ。そんな玲王に祖母も少女のように微笑んで「彼らは刀剣男士です」と言った。三日月はさきほど男子ではなく、男士と言ったのだ。

    「三日月は私の近侍なので、会わせておきたかったのです。こちらは長谷部。よく仕事を手伝ってくれます」
    「みかづきは?」
    「うむ。俺は書類仕事は苦手でなぁ」

     バツの悪そうな顔をする三日月に、「逃げているだけだろう」と歌仙が溜息をつく。彼は「初期刀の歌仙だ」と名乗ってくれた。部屋にいるのは、「宗三」と「蜂須賀」、そして「博多」というらしい。博多は自分と年頃があまり変わらなそうに見えたが、金勘定が得意なのだという。玲王が驚いているのを悟ったのか三日月が「博多は頼りになる」と口添えする。博多はにこりと笑うと「任せとき!」と胸を叩いた。




     本丸の生活は玲王には物珍しかった。まずそもそも玲王は着物で暮らすことがない。両親は忙しく、いっしょに食事を摂ることは稀だが、ここでは遠征している以外の刀剣男士は皆いっしょに食事を摂るのが決まりだった。ずらりと四十振り以上の刀剣男士が一堂に揃う姿は壮観である。刀剣男士は一振りと数えるのだと教えてくれたのは三日月だった。
    「これからまだまだ増えますよ」と言ったのは一期である。彼は藤四郎兄弟の長兄である。執務室にいた博多の兄だ。
     こどもが「短刀」、少年が「脇差」、それから「打ち刀」、「太刀」となっていく。大柄な者たちは「大太刀」「槍」「薙刀」なのだそうだが、蛍丸は大太刀になる。一見して判断がつきにくいのだが。

    「本体を見れば、わかる」

     三日月が腰にある刀を叩いた。

    「これが俺たちの本体よ。菫には特別見せてやろう」

     と、三日月がすらりと刀を抜く。刀剣男士の中でも三日月はひときわ特別に美しい。その本体である刀もまたえもしれぬほど優美である。

    「打ち除けが多い故、三日月と呼ばれる。わかるか?」

     わかる、と頷くと、三日月は玲王の頭を撫でてくれた。



     
     祖母に呼ばれたのは、それから間もなくのことだ。もしかしたら長い時間が経過していたのかもしれない。本丸での暮らしは時間の感覚に乏しくなる。

    「あなたには、いづれこの本丸をひきついでもらうことになるでしょう」

     そのために玲王を呼んだのだ、と祖母は言った。なんとなくその予想はしていたので、玲王は神妙な顔で頷いたが、祖母は微笑んだ。

    「まだまだ先の話です。あなたが自分の夢を果たした、その後でじゅうぶんです」

     玲王はなんとなくほっとした。まだ小学校に入学したばかりである。本丸の生活はたのしいが、学校生活にも未練はあった。

    「毎年八月になったら、本丸に来るように」

     呼ばれたのが八月なのは誕生日でもあるが、夏休みだからだろう。頷いた玲王に祖母は近くまで寄るようにと言われた。三日月をはじめとした刀剣男士らが見守る中、玲王は祖母の近くに寄る。若く美しい祖母は玲王の手をとり、いつくしむように撫でた。三日月らの手はいつもつめたいが、祖母の手はあたたかい。三日月も、よく一緒にあそぶ短刀らも、玲王の手をあたたかいと言う。この本丸の中で祖母と玲王だけが刀剣男士ではないのだ。

    「ばぁやはつれてきてはいけないのですか」

     祖母は微笑んだ。

    「あの子はまだ御影にいてくれるのですね」

     ばぁやが来てくれたら心強い。玲王は顔をあげたが、祖母は「ばぁやはここにはこられません」と首を横に振った。

    「ここに来られるのは、あなたを強く慕う人だけです。滅多な覚悟で来られるものではないのです」

     もしかしたら、それで祖父はいないのだろうか。祖母は笑うばかりであった。




    「菫はそろそろ家にお戻りなさい。念のため一振りをあなたの傍に置きます。いつでもあなたを守れるように。どの刀を持って行きますか」

     玲王は目をまるくした。

    「だれでもいいんですか」
    「ええ。だれでも」

     近侍の三日月でも。初期刀の歌仙でも。前田でも。大倶利伽羅でも。岩融でも。蜻蛉切でも。
     祖母は歌うように言う。
     そのとき玲王が選んだのは平野だった。自分と年が近いので、傍にいても違和感がないだろうと思ったのだ。祖母は玲王の手の甲にしるしをつけた。

    「あなたが危険なときは平野が駆けつけます」
     





     玲王が帰る日は祖母と刀剣男士が揃って見送ってくれた。遠征も切り上げてくれたので、ほんとうに全員だ。名残惜しかったが、来年また来ると約束をして、護衛役の平野だけを連れ、門をくぐり抜けた。
     門の外では、黒塗りの車とばぁやが迎えに来ていた。

    「あれ……? 平野……?」

     傍にいるはずの平野の姿はない。祖母がつけてくれた手の甲の印も消えている。ばぁやに教えてもらったところ、玲王が本丸にいたのはたった一日のことだった。
     五虎退といっしょに畑のトマトを収穫し、燭台切といっしょに大鍋でカレーを作り、鶴丸といっしょに庭に穴を掘り、大田貫といっしょに夜食のラーメンをすすった。本丸での時間感覚は乏しかったが、さすがにすべて一日で終わったことだとは思えない。

    「坊ちゃま。あちらで起きたことは誰にも言ってはいけませんよ」
    「父さんにも?」
    「ええ。旦那様にも、奥様にも。私にもです」

     そんなことができるのかと思ったが、玲王はばぁやだけを連れて郊外の別宅で過ごしたことになっていた。おそらく母はなにも知らない。父は玲王になにひとつ聞かなかった。本丸のことも、祖母のことも、なにも。





     玲王は八月になると本丸に赴く。出迎えてくれるのは、いつも三日月だ。本丸につくと三日月は新たな刀剣男士を紹介してくれる。一期が言った通り、毎年刀剣男士が増えている。昔は同じ年頃だと思っていた短刀らはいまもこどものままである。ずいぶんと背が高いと思った三日月も、いまでは玲王の方が越してしまった。
     本丸をふらふらとしていると「おやつでも食べないかい」と誘ってくれたのが燭台切だった。彼は料理の腕前は御影のシェフにも劣らぬほどである。

    「今年も燭台切の料理が食べられてうれしいぜ。ずいぶんと腕を磨いたんじゃないか?」
    「あはは。それは光栄だな。今年もずいぶんとたくさんレシピ本を持って来てくれたんだね」
    「本は本丸の共有財産だからな。桑名や博多に頼まれたものもある」

     玲王は本丸に漫画も持ち込んでいるが、いづれも喜ばれている。

    「また燭台切に護衛として現世に来てもらいたいと思ってるんだけど」
    「僕はいちど行ったからね、順番だよ。去年は浦島だったけど、今年は誰にするんだい」
    「うーん……。そろそろ決めなきゃと思ってんだけど」
    「そんなことを言って、もう決めてるんじゃないかな」

     燭台切は玲王がはじめて本丸に来たときから顕現している刀剣男士だ。つきあいがながいぶん、玲王のことを分かっている。






    「こレはなんだ」
    「ゼリーだな。あまくて冷たい。おいしい。ええと、アイスは知ってるよな。それよりはさっぱりしている」

     玲王の前にいるのは槍の刀剣男士である無骨だ。特別に彼を気に入っているわけではない。気が合うわけでもない。それでもなんとなく気になるのは。

    (無骨の髪の色、凪と似ている)

     それだけである。
     造形も、言動も、態度も、なにもかもがちがう。似ているのは髪の色と、そして身長の高さくらいだろう。

    「なぁ、おまえ。おれといっしょにくるか?」
    「ム……」
    「いや、なんでもねぇ」

     護衛は順序があるわけではない。玲王が適当に気分で決めているだけだ。そもそも万が一と言うが、万が一が起こったことはいちどもない。つまり顕現することもなく、意思の疎通すらない。それでも玲王が連れている間は刀剣男士にもうっすらと現世が垣間見えるらしく、社会見学的な意味合いが強い。本丸に来たばかりの無骨より、古参の刀剣男士を連れて行った方がいいようにも思うのだが。

    「俺が連れて行く場所は戦場じゃない」
    「現世に行くのも仕事だロウ」
    「それはまぁ、そうなんだけど」

     本丸に来る前までは獅子王をつれていくつもりだった。獅子王は十分に古参だし、現世にも興味を持ってくれそうだ。でも、でも。
     玲王は無骨の髪を撫でてみた。無骨は「ム」と退くそぶりを見せたが、玲王のしたようにさせてくれている。なにせ玲王は審神者の孫だ。よっぽどのことでもないかぎり、玲王がすることに刀剣男士らが文句を言うことはない。

    「ちっとも似てねぇ」

     笑ってしまうほど無骨と凪は似ていない。無骨の髪はいわゆる剛毛で固く、凪は猫っ毛でやわらかい。

    「誰レに似ていない?」
    「俺の宝物だよ」
    「宝物……茶器か?」
    「違う違う」

     見当違いなことを言う無骨に玲王は笑ってしまう。あたりまえだ。無骨が凪を知るわけがない。宝物なんてわかるわけがない。ましてや玲王が凪を気にかけているなんて、好きだなんて、わかるわけがないのだ。玲王は笑いながら、無骨の髪を撫でた。

    「なにをしている」
    「髪を撫でてる……っていうのはさすがにわかるか。ええと。褒めてる」
    「……シルシをあげていないのにか?」
    「畑仕事がんばっただろ。そのご褒美みたいな?」

     無骨は首をかしげる。玲王も自分で言っておいて、こじつけだと思う。
     けっきょく玲王はその年の護衛に無骨を選んだ。





     現世での玲王は本丸のことをぼんやりとしか覚えていない。さすがに祖母のことはわかるが、あまり多くのことは思い出せない。たとえば三日月であれば美しい刀であるがマイペースであること、燭台切であればスマートな伊達男であることなどはぼんやりと覚えているが、交わした会話などはすっかりと忘れてしまう。それは護衛の刀剣男士であってもおなじことで、無骨のことも、凪に近い髪の色をしているが、凪には似ていないことだけを覚えていた。彼が顕現したのを見てから、ああ、こんな顔をしていたなと思いだしたくらいだった。

     玲王はそのときブルーロックが用意したバスに乗り込もうとしていた。出発時間は過ぎており、他二台のバスはとうに出発している。午前中は別の練習だったため、別行動をしていた凪がいないことに気づいた玲王がブルーロックに戻ったところ、凪はロッカールームでうたたねをしていた。マジか。バスにいる千切に連絡して、とくべつに待ってもらっていた。バスの中はしびれを切らした馬狼が切れて、さいあくな雰囲気になっている。どうにか凪を押し込んだ、そのときだった。

    「菫……!」

     警告と抱えられたのは同時だった。人間無骨。刀剣男士。森長可の槍。今年の玲王の護衛役。なぜ無骨が顕現している。なにが起こった。ぐるりと視野がまわる。目の端に凪の驚愕した顔が映る。そして最後に私服の少年の姿が逆さに映った。その手もとがきらりと光る。ナイフだと思ったと同時に、玲王を抱えたままの無骨が着地する。無骨がするどく吠える。

    「しゃああああああ!」
    「待て待て待て待て! 相手は、に、っ……素人!」

     思わず人間と言いかけたのを寸前でこらえる。ナイフを持った少年は、おそらくブルーロック脱落者だ。名前はわからないが、顔に見覚えがある。つまり試合をしたということで、少年が脱落しているということは、玲王が勝ったということだ。

    「あいつを拘束してくれ」
    「ム……?」

     戦うことに特化した槍だ。無骨はよくわからないという顔をしたが、すくとたちあがると、少年を拳で殴った。は? 殴った? よく見れば無骨は槍は持っていない。持っていたら銃刀法違反だった。ほっと胸をなでおろす。

    「うム、会心の出来」
    「おお……」

     たしかに少年は一撃で伸びていた。少年は体格こそよかったが、サッカー選手である。刀剣男士に勝てるわけがない。心得たように無骨は少年を縛り上げていた。

    「ばぁやと連絡とルか?」
    「あ、あ、そっか。そうだな。えっと、」

     どうやら無骨はばぁやを知っているらしい。ということは、ばぁやはそちら方面からの派遣者だったのか? どおりでだたものではないと思っていた。とまどいながら、スマホをとりだす。どうやら玲王はすっかり動揺しているらしく、スマホを落としそうになったのを、いつの間にかバスから出てきていた凪が拾ってくれた。

    「玲王、警察は呼んだから」
    「そ、そうか」

     警察を呼んでよかったのだろうかと思うが、たぶんどうにかなるだろう。おそらく刀剣男士は国家事案だ。なんとか誤魔化してくれるはずだ。

    「ていうか、そのひと誰? 御影のSP?」
    「え、あ、そ、そう」
    「ふーん。急に現れたみたいだったけど」
    「隠密警護ってやつだ」
    「へー。忍者みたいでかっけぇね」 
    「な、なぎ?」

     かっこいいと微塵も思っていなそうな口振りだ。いったいどうしたのか。
     凪に続いてバスから降りてきた運転手もどこかと連絡を取り、選手たちがバスから降りないように指示している。もしかしたら今から絵心が駆けつけてくるかもしれない。面倒くさいことになったらどうするかな。凪に言ったように、御影のSPで隠密警護ということにしたら、誤魔化せないだろうか。冷静になったことで、どっと冷や汗が出てくる。俺はこいつに刺されそうになったということだよな。万が一のために護衛をつけると言われていたが、万が一のことが起きたのは初めてのことだ。ところで刀剣男士ってカメラに映るんだっけ。
     玲王がぐるぐると考えているあいだ、無骨は少年から取り上げたナイフを手に持ち、物珍し気にしげしげと眺めている。そして思い出したように、ぐるりと玲王に向き直った。

    「シルシはあげてないが、仕事をした」
    「あ、うん。ありがとう。よくやった」

     玲王だけではない。誰も怪我をしていない。襲って来た少年も気絶しているだけだ。無骨が刀剣男士ともバレていない。バレていないはずだ。最上の結果だろう。

    「誉か?」

     本丸では功労をあげたものを誉というのだと聞いたことがあった。

    「褒美がもらえルのか?」

     無骨はそう言って指で頭を示した。そういえばご褒美と言って頭を撫でたこともあったっけ。あれはどちらかというと、髪の感触が凪と違うことを確かめたかっただけなのだが、そういうことにしたんだっけ。

    「おー。褒めてやるぞ」

     玲王が手を伸ばしかけたその時だ。




    「それはだめでしょ」


        
     凪の腕が玲王を腰を抱く。守るというより逃がさないという意思を感じて、玲王は戸惑う。

    「な、なぎ? 無骨は俺を守ってくれたんだぞ」
    「それは見てたからわかる。玲王を守ってくれて、ありがとね」

     でも、と凪は言った。

    「でもなんで、おまえに影がないの?」

     凪は無骨の足元を指さした。たしかに無骨にだけ影がない。バスにも姿が映っていない。いままで刀剣男士が顕現したことはなかったから、知らなかった。やばい。玲王の額を冷や汗が伝う。

    「おまえはいったいなに?」
    「……凪」
    「ていうか、菫って玲王のこと? なんで玲王は菫って言われてるの?」
    「それは、ええと、あの……」

     玲王のスマホが震え、電話がかかってくる。このタイミングだ。嫌な予感しかしない。

    「ばぁやさんかもしれないし、出れば?」
    「お、おお……」

     嫌な予感しかしないが、玲王はスマホをタップして通話に出た。




    『菫』

     祖母の声だった。

    『そのひとを連れて本丸にいらっしゃい』
    「で、でも」

     凪を巻き込むわけにはいかない。戸惑う玲王だったが、誤魔化すには凪が近すぎた。祖母の声は凪にも聞こえていた。

    「俺は行くよ」 

     凪の声は簡潔できっぱりしていており、タイミングもよく黒塗りの車が到着する。運転しているのはもちろん、ばぁやだ。どうやらすべておみとおしらしい。玲王はがっくりと肩を落とした。


     ブルーロック脱落を恨んだ少年は「誰でもよかったから傷つけたかった」と帝襟に供述している。
     
       
     




    「ここでは霞と名乗りなさい。わたくしのことは桔梗、孫のことは菫と」
    「菫のお婆さん、菫によく似てるね」
    「おまえ、順応高すぎるだろ……」

     凪はすっかりと本丸に馴染んでいる。刀剣男士も時間遡行軍も、凪にかかれば「ほぇー、すげーね」でおしまいだ。それよりも。

    「なんで菫は護衛に無骨を選んだの? 髪が白いから? 身長が高いから? 甘やかせるから?」
    「アマヤカシテナイデス。タマタマデス」
    「だよね。よかった。じゃあ、護衛は変えてもらえるよね?」


    「無理ですね」
     それまで口を挟まずにいた祖母がにっこりと微笑む。
    「護衛は一年間。それは変えられません」
    「は?」
    「無骨と仲良くするように」
    「は? 無理」
    「では、本丸を去りますか?」
    「…………仲良くすればいいんでしょ、なかよく」


     がっちりと握手をする凪と人間無骨。審神者の近侍である三日月宗近が鷹揚に頷いた。

    「はっはっは。なかよきことはうつくしきかな」


     

     微笑みあう祖母と三日月を見て、ちっとも仲良さそうに見えないのは俺だけかな、と思ったことは玲王だけのひみつである。






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