魔法使いの砦美しい青年が旗を振っている。
まるで撃ってみろとでもいうような姿に狙いを定めた。
「やめろあの様子、絶対弾に当たらない自信があるんだ、弾が無駄になるぞ。」
「まさか。見ろよあの青年、背もすらりと高くこのあたりじゃそうそう見ない美しいブロンドだ、しかも学生、モテてモテて仕方が無かっただろう。そんなやつが『魔法使い』なわけが…。」
はっ、と鼻で笑って男は青年の頭に狙いを定めた。
早々に貫かんとばかりに勢いよく放たれた弾は翻ったビロードの旗の表面を優しく撫でるようにして地面に落ちていった。
「『魔法使い』の砦だ…!」
兵の誰かが絶望した声で呟いた。
「これは長い戦いになるな…」
兵士が苦々しく言った。
■魔法使いの砦■
処女もしくは童貞なら銃弾に当たらない。
絶対当たらない。
こめかみにつきつけて引き金を引こうが当たらない。
百戦錬磨の兵士だろうが当てられない。
弓
「流石に大砲はそうもいかない」
50年クラスだったら別だろうがな
「ぼくらと同じくらいの年齢だ」
「これで当たったら契りを交わした恋人がいるか小さな子供がいる可能性がある」
「それを殺すのか」
「これしか方法がないんだ」
頬を涙がつたった
「必要ない」
身軽なこなしでバリケードの上に立った。
一直線に砦を破壊せんと放出された大砲の弾は、男の眼前で急にふっと威力を落とし次の瞬間バリケード直下の石畳に土煙を立ててめり込んだ。
「大魔法使いだ…!!!」
バリケードが沸く。
「剣で攻撃しろと…?」
国民軍たちが脱力する。
「嘘だ…。コゼットの父親がなぜ…?」
マリウスは目を見開いた。
スパイジャベールは別室で、万が一他の者が変な気を起こさないように布団に簀巻きにされて顔だけ出していた。