一ヶ月後、ボストンバッグを持った恵が五条の住むマンションにやってきた。
今日から夫婦として同棲生活が本格的に始まるにも関わらず、夜になった今まで引っ越し業者の手配などもなかった。
まさかと思い、五条は恵から受け取ったボストンバッグをリビングへ置いて尋ねた。
「荷物これだけ?」
「はい」
年頃の女の子の荷物が、こんな小さなボストンバッグに収まる程度とは。
一泊二日の旅行でももう少し荷物があるのでは無いか。
「あのさ、君今日からここに住むんだよね?」
こんなので足りんの?と聞くと、恵はこくりと頷いた。
「元から物は少ない方なので。それに、」
「私の持ち物で部屋を狭くするわけにはいかないので」
暗にこの部屋が狭いと言っているのかと、思わず苦笑した。
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