7日のデート「毎月3日は妻の月誕生日なので」という、淀みなく説明する葉山の様子を見聞きするたびに、汐見はもぞもぞと隠れ穴を探す小動物のように、居心地の悪さを覚える。
遠月最年少教授の記録を塗り替えた優秀すぎる弟子は、生徒からの質問やメディアへのアンケートにも「好きな女性のタイプはスパイスの世界的権威、趣味は妻に料理を振る舞う事」と公言して憚らない。
社会人になってから多忙に拍車のかかった葉山にとって、愛妻家のイメージ付けが、仕事の上で一種の防御策に繋がっているのは理解している。ただ、親しくない人間からも葉山由来で「3日は汐見教授のお誕生日なんですってね」と声をかけられるのは、なんともいたたまれない。
2人のゼミ室の横に設けた私室のソファに腰掛け書類に目を通していた葉山に、その事をしどろもどろに伝えると、いつものようにグイと腕を引き寄せられた。葉山の硬い膝の上は、結婚後から汐見の定位置と化している。
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