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    青井青蓮

    @AMS2634

    重雲受けしかないです(キッパリ)

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    青井青蓮

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    好感度ボイスバレ注意
    モブ女中視点の行重

    #行重
    Xingyun
    #腐向け
    Rot

    共犯「えっと……もっと温かいものだと思っていたんですが、意外と冷たいんですね」
    「ええ。本来は身体を温めて皮膚をほぐし血行を良くすることで、怪我や病を治す力を促進させるのですけど。重雲様の体質については坊ちゃまからよく聞かされておりましたから」

     温める効果はそのままに、肌では清涼感を感じられるように配合した特製の香油。
    行秋坊ちゃまから「僕の不注意で例の友人が怪我をした」と相談されたのが二日前のこと。不卜盧という腕の確かな薬屋があるこの璃月の地で、オイルセラピーの心得が役に立つ日が来るとは思わなかった。

     坊ちゃまのご友人――重雲様の体質について可能な限りお話を聞き、坊ちゃまに急かされるままに重雲様のお身体にあった香油の精製に必要な材料を見繕い、足りないものをリストアップしたその日のうちに坊ちゃま自ら不足分を調達されてきたのにはさすがに驚きはしたものの、甲斐あってこれ程の短期間で施術にこぎ付けることができた。
    …とはいえ、実際にはオイルセラピーをよく知らない重雲様が施術に対して難色を示していたらしく、坊ちゃまによる説得が丸一日かかった結果の上で今日を迎えている。



     白くしなやかな肌に油を馴染ませていく。不快感はないかを問えば「ひんやりして気持ちいいです」とふわついた声が返ってきた。リラックスできているようで一先ずは安堵する。
    今日の為に用意した準備も、その準備の後始末の為に今なお取引先を回っている坊ちゃまの努力も無駄にならずに済みそう。
    施術中ずっと無言でいるのもさすがに憚られたので、少しだけ悪いと思いながらも重雲様と共に過ごされる坊ちゃまはどの様なご様子なのかを聞いた。

     物静かで、決して出しゃばることはなく、お父上様やお兄様をよく立て、それでいて必要な時には適切に支え、まだお若いのにご自身のあるべき姿をしっかりとお持ちでいて――。
    一見すると非の打ち所がない名家の次男であるが、実際にこの家にある程度の年月お仕えしていればあの聡明さとは打って変わる、お年相応の無邪気さを見せてくれるようにもなる。
    そう、例えば…異国から召抱えた女中が美しく咲いた琉璃百合を花瓶に生けることを予測して、花瓶に生きたサンショウウオを忍ばせる、とか。




     サンショウウオのくだりでくすくすと笑う重雲様が私の問いかけに対して返したのは、やはり近しい者に見せる無邪気さの数々であった。
    それも、若旦那様が聞いたら額をこすりつけすぎて地面に窪みが作れそう、と思うほどの。
    談笑を経て重雲様もどうやら心を許してくださったようで、半ば坊ちゃまに引き摺られる様にここへ来た時の釈然としないような表情はすっかり影を潜め、話しているうちに笑っていたかと思えば過去にしてやられた悪戯を思い出して頬を膨らませたりと、ころころと表情を変えるまでになっていた。

    ――気付けば‘行秋坊ちゃまのご友人’としてではなく、‘同じ辛酸を舐めた者同士’として、私自身が重雲様を気に入っていた。こと坊ちゃまに関してはお仕えするべき主よりも目の前の白いご友人に肩入れしたくなってしまう。



     施術を終えて重雲様に変わった様子が無いか、寝台から身を起こそうとする姿から確認する。
    以前聞いた話によれば普段から日光を避けるように過ごしているとのこと。人物像を聞いただけの時は病的に白い細身の少年を想像していたが、目の前の僅かに幼さを残す体躯は確かに細身ではあるものの、予想に反して至極健康的なものだった。甘やかされて育ったわけでないことは些少に残ったごく小さな古傷達が物語っていて、今日まで厳しく、そしてそれ以上にとても大切に思われながら育てられてきたのがよくわかる。
    当の本人は微塵もそんな素振りを見せないが、ちらりと聞いただけであった歴史ある由緒正しき名家の生まれだという話もきっと本当なのだろう。何よりあの行秋坊ちゃまが治療の為に自宅へ招く程だ、彼にとっても大切な存在であるのは火を見るより明らかであった。

    それだけ大切に思っていながら、懲りもせず悪戯を仕掛けて困らせる。

     真新しくついたと思われる腕の痣を見て、思わずため息が零れる。まるで好いた娘に意地悪をする子供の所業。
    そんなことを考えていて、ふと思い至った。
    無二の親友からの度重なる悪戯を思い返しては柔らかそうな頬をぷくりと膨らませるこの子と共に、一度くらい‘仕返し’をしても罰は当たらないのでは?と。



    ――ああ、聡明でかわいい行秋坊ちゃま。
    きっとあなた様自身が思っている以上に、あなた様はこの子を好いておいでなのでしょう?



     今ここにいない若年の主に心の中でそう問いかけながら、着替えを手にした重雲様にひとつの提案を持ちかけた。
    少し話しただけで十分わかった。あまりにも純粋すぎるこの子にしてみれば、きっとこのような発想に至ることすらなかったのだろう。

    やられたことをやり返す。それもたった一度だけ。
    それだけの誘いなのに、こんなにも顔を赤くするのだから。




     ガチャリとドアが音を立て、此方の企みなど露ほども知らぬ行秋坊ちゃまがお戻りになられた。
    カーテンに背を向けたままの重雲様が不安げな眼差しを私に向け「上手くいくだろうか?」と無言で問いかけてくる。
    いつも悪戯を被るばかりの無垢な少年は初めて友達に仕掛ける悪戯に期待と不安を表情に滲ませていて、紅潮した頬と潤む瞳はまるで初恋を自覚した少女のそれのよう。――最後に揃った‘材料’のあまりの麗しさに惑いそうな心を鎮めながら、安堵させるようにこれに頷いた。

     部屋の中は施術に使用した香油の涼やかで甘い香りに満たされている。布一枚で遮られているだけの、様子の見えぬ此方側が気になるのであろう坊ちゃまが近付く気配がした。案の定何の遠慮もなくカーテンが捲られ、具合はどうだい?と声が掛かり――

    「……っ!」
    「ぼ、坊ちゃま!まだ施術の途中にございます…っ!!」

     お部屋の外で待っていてください!と口調を強めながらも香油によって艶めかしさを増した重雲様の一糸纏わぬ後ろ姿はしっかりと見せた上で、慌てた風を装いシーツを被せ、坊ちゃまの視線から重雲様を庇う様に包み込む。



     たった一瞬の出来事。行秋坊ちゃまにとっては正しく青天の霹靂とも言える大事件だろう。己の上半身を見られまいと必死に素肌を隠す親友の姿が、傍から見ても生娘のそれなのだから。
    呆気に取られながらもよく回るその頭脳がこの事態から、想定通りの答えを導き出したのだろう。我に返ったかと思えば短い謝罪の言葉を叫びながら引き千切らんばかりの勢いでカーテンを閉め、そのまま部屋を飛び出してしまわれた。

     静寂が戻った部屋の中、乱雑に閉められたカーテンの方を恐る恐る振り向いた重雲様が、小さな声で尋ねてきた。

    「……どんな顔をしていた?」
    「この上ないほど真っ赤なお顔をしておられましたわ」

     今までに見たこともないような顔をしてうろたえていた坊ちゃまのお顔が脳裏によみがえり、まるでりんごのようでしたよ、と笑いを堪えながら付け加えた。
    部屋の外で混乱する頭を抱えているであろう坊ちゃまに、決して聞こえぬよう小さな声で――。



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    青井青蓮

    DONEめっちゃ遅れましたが重雲誕生日SSです。ごめんね重雲くん
    9月7日のカクテル言葉を参考にしたお話のつもりです
    いつも通り捏造と、お友達の面々もいますがほぼ重雲と鍾離先生です
    乾杯 朗らかな笑い声に気を取られ、首を傾げる者と連られて笑みを零す者が往来する緋雲の丘の一角。
    声の出所である往生堂の葬儀屋特有の厳かさはなりを潜め、中庭では代替わりして久しい変り者の堂主とその客卿、堂主が招いた友人らがテーブルを囲っていた。

     予め用意しておいたいくつかの題材に沿って、始めに行秋が読み胡桃がそれに続く。流麗に始まり奇抜な形で締め括られできた詩を静聴していた鍾離が暫しの吟味の後に詩に込められたその意味を読み解き、博識な客卿が至極真面目な顔で述べる見解を聴いた重雲は詠み手二人に審査結果を強請られるまでの間笑いを堪えるのに精一杯となる。
     題材が残り僅かとなり、墨の乾ききらない紙がテーブルを占領しだす頃になると、審査員の評価や詩の解釈などそっちのけとなり、笑いながら洒落を掛け合う詩人達の姿についには堪えきれなくなった重雲もついには吹き出し、少年少女が笑い合うその光景に鍾離も連られるように口を押さえくつくつと喉を鳴らす。
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