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    ma99_jimbaride

    成人/二次創作
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    蔵▷ https://galleria.emotionflow.com/s/121109/

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    ma99_jimbaride

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    ひざまるとぬけまる。とある本丸のとある彼らです。こういうのを書くと少し、自分に都合のいい考えだよなぁと苦い気持ちにもなる。でも「仲の悪い兄弟」に思うところのある二振りであってほしい気持ちもある。膝髭膝再録集に入れるかも。

    鐘を鳴らせ、すべての入相のために 柔らかな音を立てて折れる草を踏み踏み辿り着いた門には誰もいなかった。時間は合っているはず、と新参ゆえの心許なさで抜丸は首を傾げた。
     今日はこれから遠征を言い渡されているはずだ。それとも、予定が変わったのだろうか。
     本丸の敷地に何があるのか早く覚えようと散策していたのだが、ここに来る前に審神者のいる執務室に寄るべきだったかもしれない。あの部屋のすぐそばの壁に、その日の部隊編成や予定、内番の割当てが貼り出されているのだ。本丸で顕現して最初に教えてもらったことだ。
     今からでも確かめてきた方がいいだろうか、と思案を始めたところで、自分のものよりも重い足音が聞こえてきた。
    「早いな」
     薄靄のかかったような淡い光に満ちた林の、生い茂る竜胆を膝でかき分けて、その刀はすらりと現れた。
    「部隊長の鶴丸国永から伝言だ。少し出立が遅れるとのことだ。彼は刀装を作るのが上手くてな、このあと出陣する部隊に持たせる分を今になって頼まれたらしい」
    「そうでしたか」
     背筋を伸ばしてしまったのは別に意識してのことではない。単純に相手の目線がずっと高かったからだ。その彼は抜丸の相槌に頷くと、自分の来た道を振り返った。左脚に蹴られて、黒い装束の長く垂れた布が揺れた。
     薄雲の棚引く遠い山の色のような髪を見ながら、知らない相手ではない、と考えた。だが、知っているからといって何だというのだろう。知る相手でも、知らぬ相手でも、自分がどうあるべきかは変わらない。
     しかし、自分と彼らだと、周りはそう単純に見てはくれないのかもしれない。
    「……竜胆」
    「ん?」
    「竜胆の庭、美しいものですね」
    「ああ、俺もこれは一等気に入りだ。もちろん、他の景趣も美しいが」
    「今回あなたと同じ部隊なのは、わきまえよ、ということなのでしょうか」
     薄靄に佇む青紫の花を眺めていた目が抜丸を捉えた。抜丸は目を離さなかったから、彼の瞳がどこか硬質な光を宿しているのまでよく見えた。
     彼もまた抜丸をまっすぐと見下ろしていた。なんとなく蛇を前にしたときのような昂りが湧き上がってきたのを感じた頃、詰襟のよく似合う潔癖さで結ばれていた口許が小さく開いた。
    「君が今日、俺と同じ部隊なのはだな——」
     身軽さには自信がある。すぐに飛び退くことはできる。しかし彼も手練れには違いない、顕現した時期による練度の差もあるし、先ほどこちらへ向かってくるときの足音、体躯に見合った重さはあっても一切淀みなかった。……本当は、足音だって隠して動けるに違いない。
     さっとそれだけのことを考えた抜丸をじっと見つめたまま、彼はどこか声を潜めるように、早口で続きを話した。
    「君と俺の名前に丸がついているからだ」
    「……へ?」
    「君は抜丸、俺は膝丸。隊長は鶴丸国永。そういうことだ」
    「へ? ……え?」
    「気付いていなかったか? 君、今まで出陣した部隊も皆、丸のついているものばかりだっただろう。小烏丸、石切丸、祢々切丸、鶯丸、蛍丸……」
     彼が指折りつらつらあげる名前に、抜丸は困惑しながらも納得した。なるほど、皆名前に丸がついている。どうして気がつかなかったのだろう。
    「まる……」
    「主は時折こういうことをするのだ」
     先ほどまでの仏頂面とはうってかわって、呆れを隠さない渋面で膝丸は溜息をついた。抜丸はかろうじて「そうでしたか……」とだけ相槌を打った。
    「まあ、一巡すれば満足するだろう。そうすれば他のものとも部隊を組むことになる……おそらく、俺の兄者とも」
     兄を呼ぶ声に微かに滲むものがあるのを聞き取って、抜丸は改めて膝丸の顔を見上げた。彼は相変わらずまっすぐに抜丸を見つめていた。硬質な光を宿した瞳に、柔らかな熱を通わせて。
    「君は平家の宝刀、我ら兄弟は源氏の重宝。意識するなという方が無理だ。いまや片方を語るに、もう片方を避けることはできない……そもそも、我らに限った話ではない。ここではかつて敵だったものたちが、顔を突き合わせて暮らしている。誰もが戦い、勝ち、やがて敗れていったものたちだ」
     抜丸はじっと膝丸の言葉の続きを待った。すると彼は抜丸に向けていた目をすっと横へと滑らせた。抜丸もつられて同じ方へと視線を向けた。そこにはただ林の中を淡い光を受けて咲く竜胆が続いていた。
    「源氏の世も、もはや遠い昔だ。我ら兄弟はその縁だ。源氏の重宝として恥じぬ武功を立て、その名を誇るのは我らにとって当然のこと。しかし、今は我ら皆が主の刀なのだ。それがどうして、君に一体何をわきまえよなどと……」
     思案に沈んだ声に生真面目さを嗅ぎとると、抜丸は声を張った。
    「それでは、禿は禿らしく過ごすといたしましょう」
     青紫の花を見つめていた瞳がまた抜丸へと戻った。抜丸は彼に、歌い上げるような心地で語りかけた。
    「伊勢平氏の栄華も源氏の勇ましきも遠くなったとなればこそ、働き甲斐があるというもの……この蝶は、本丸の中でも軽やかに飛んでみせましょう」
     腕を横に伸ばす、ふわりと袖が広がる。芝居じみた仕草に膝丸は二、三度まばたきすると、ふ、と笑った。
    「そうであったな、禿とは、そうやって遊ぶように街を駆け抜けていくものであった」
    「ええ。ああ、しかし、あなたもまた、どこか挑みたくなる匂いがする……それくらいの戯れは、お許しいただきたい」
     上目に窺ってみせると、膝丸もまた勝気に眉を吊り上げた。
    「それは、お互い様だな」
     ふたりは笑ったまま、睨み合うようにしばらく互いを見つめていたが、ふとどちらからともなく視線を外した。なかよしこよし、などと宣うつもりはない。しかし、無用な争いを起こしたいわけではないのだ。拗れた争いの行き着く先がどういうものかなんて、よく知っているではないか。
     どうしてここにいるのか。戦うためだ。ここにいる自分がいつしか行き着く先は、もしかしたらかつてと似たようなものかもしれない。
     それでも、今は、春の夜の夢に遊ぶ蝶として振舞うのも悪くはない……竜胆の庭のまぶしくはない光の中で、抜丸はそう思った。
     林がさやさやと鳴った。涼しい風が心地好く首許を撫でていった。
    「抜丸殿」
     膝丸は抜丸の名を呼ぶとまるで罰の悪さをごまかすかのように手を口許にやっていたが、やがて少し歯切れの悪い口調で話し始めた。
    「先ほど君に、俺たちが同じ部隊になったのは偶然だと言ったな。あれは事実だが、実を言うと俺はこの機会にひとつ、君に話したいことがあった」
    「何でしょう?」
    「頼みだなどというのもおかしい。気が乗らなければ放念しておいてくれ。……小烏丸殿か鶯丸あたりに、茶に誘われなかったか」
    「ああ」
     誘われたかもしれない。そう思ったのは、誘われたと言い切るにはあまりにもさりげない口約束だったからだ。
    「たしか、昼すぎあたりによく広間に集まって茶や菓子を持ち寄っているというのを聞きましたが」
     おまえも来るがよい、と小烏丸は笑って、抜丸は確か、機会があれば、なんて応えたはずだ。
    「そう、それだ。改まった会合ではなく、ただ時間のあるものが集まって楽しんでいただけなのだが、今では定例のようになっていてな。話好きで顔の広いものがよく参加している」
    「そうでしたか」
     それはよいことを聞いた。本丸にいる刀たちも数が多いのだし、一度くらいそういう場に赴いておくのも確かにいいかもしれない。
    「それでだな、その席に、俺の兄者もよく顔を出しているのだ」
     手の空いているときはほぼ確実に参加している、と何やら難しい顔をして膝丸は付け足した。話が読めず、抜丸は首を傾げる。それにまた眉間に皺を寄せ、膝丸が頬を掻く。言葉が喉許につっかえているらしい。
    「……参加する、しないは、もちろん君の自由だ。出てくる茶はうまいし、菓子も日によって違う。小烏丸殿もよくいる。だからもし、君がそういう場は嫌でないのなら、……兄者がいることで、それを遠ざけないでほしいのだ」
     本丸にやって来てからまだ日が浅い抜丸は、髭切と口をきいていない。自分が顕現した日の宴席で、ちらと遠くに姿を見かけたくらいだ。そのときは今目の前にいる弟と何やら話して、笑って、こちらを気にする様子もなかった。
     それをどうして、この弟は気にしているのか。何に、気を揉んでいるのか。
    「もしかしたら、君にも何かやらかすかもしれんが、そのときは俺に言ってくれ。俺が代わりに詫びるなり何なりしよう、いや、そうは言ってもやらかすと決まったわけではないのだが……」
     膝丸は苦いものを含んだような顔をして、抜丸に話している体で逡巡している。渋面ひとつ取っても最初思っていたよりずっと表情豊かで、この短い時間で随分と印象が覆されてしまった。
     その姿を見ているうちに、抜丸も肩の力が抜けた。ふ、と無意識に笑みが浮かぶ。
     何にここまで気を揉んでいるのか、さっぱり分からない。しかし、抜丸というよりは兄のことを気にしているのを見ると、どうして、というのは分かった気がした。
     兄弟だからだ。
    「ええ、ええ、ご心配なく。あなた方がいることを理由に禿らしからぬ振舞いをしようだなんて、まったく思ってもいませんでしたので」
    「そ、そうか」
     抜丸の返事に膝丸はほっとしたような、しかしどこか困惑しているような表情を見せた。それにまた抜丸は笑った。少し愉快な気持ちになってきた。やはり、いつか終わる春の夜の夢だとしても、そこに遊ぶのは悪くない。
    「こちらからもひとつお訊きしたいのですが、あなたはそのお茶の席に兄君と参加しないのですか、膝丸殿」
    「俺か? 俺もまあ、時間のあるときは兄者と一緒に行くこともあるが……」
    「では、我もそのときに伺うとしましょう」
     意外そうに膝丸が目を丸くした。そのように驚かれるのこそ不可解だが、どうもこれだけ抜丸と話しておいて、自分のことは勘定から外していたようだ。
    「いいでしょう、お互い名に丸がつくもの同士ではないですか」
    「関係あるか?」
     生真面目な疑問を「ふふ」と笑って流し、抜丸はまた竜胆の庭を見やった。美しいが、やがてまた季節は移ろうだろう。移ろうことだけが、変わらないものだ。きっと、目の前にいる彼も、その兄も、ここにいる誰もがよく知っている。
     移ろうからこそ夢を見る。輝かしいいつかを、かつての栄華を、あるいは得難いものを。
    「仲のよい兄弟はよいものだと、本当に、そう思うものですから」
     抜丸の低い声を、膝丸は聞き落とさなかった。竜胆を見つめる白装束の禿の呟きに、彼は大仰に驚くでもなく、動揺するでもなく、ただ柔らかな息で「ああ」と応じた。
    ----------
    この本丸では小烏丸と髭切が正月に「どちらがお年玉を渡すか」という小競り合いを毎年していて膝丸は毎回新年から頭を抱えているが来年からここに顔には出さず「うわ……」と思っている抜丸が加わる
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    ma99_jimbaride

    PASTへし切長谷部の駈込み訴え。
    ミュの配信見ていて長谷部よかったな……すごくよかった……となったので引張り出してきました。中身はもうまったく関係ないです。本当に。
    しかしきっとこの長谷部も「忘れることにしたからあの方は俺の執着で汚されることはない」と考えているでしょう。

    アーカイブ配信を待って暮らします……。
    哀訴嘆願 申し上げます。申し上げます。主。あの男は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。悪い男です。ああ。我慢ならない。死んで当たり前だ。
     はい、はい。落ち着いて申し上げます。あの男は、死んで当然だったのです。狼藉ばかりの男だ。言うまでもない、恨まれていた。多くの人間から、恨みを買っていたのです。いつ死んでもおかしくなかった。
     確かにあの男は俺の主でした。俺に名前を付けた男です。俺を俺たらしめる、最初の符丁を与えた男です。しかし、それが何だというのです。あの男は、自分が名付けた物を、そうして周りから選り分けた特別を、簡単に手放してしまえる男だった。俺に「俺」という枷を与えておいて、俺を突き放した。
     ええ、あの男は俺の主でした。その頃慕ったことがなかったと言っては嘘になる。しかし、刀などというのは皆そういうものです。持ち主に何らかの想いを抱かずにはいられない。それが敬愛であれ、憎悪であれ、愉悦であれ。俺たちはそういうものだ。よくご存じでしょう。
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