「熱に茹だる」木陰に縦長の腰掛け「ロハ台」がいつの間にか設置されていた。ちょうどいいと腰を下ろし、涼む。
頼まれた物を買いに出掛け、ギラギラ照り付ける太陽は堪えた。
葉の隙間から日差しがキラキラ光る。遠くから聴こえる蝉の声。そよ風で葉が揺れ 心地よく目を閉じる。
あんなに暑かったのに、木陰はそこまで暑くはなかった。疲れた身体を一旦休ませる。
しばらして、ジャリジャリと近付く足音。
隣に気配を感じた。
目を閉じてでも分かる。
「臭いぞ……………」
「あ?」
煙草の匂いを纏い ひとつ間隔を開けて座るサボり警官。
「せっかく自然を感じているのに台無しでござるよ」
「似合わねぇよ」
きっぱり言い放つ。
「…」
ーかもなー
独り言ちる。
血腥い戦いをして、自然などと…確かに莫迦な事だと思える。
そう、今更…。
葉がキラキラ光る
眩しい
自分には到底、似つかわしくなかった。
┈┈┈┈┈┈
目を瞑り座っている「流浪人」などと アホな事を抜かしてる人斬りを見つけては、ひとつ間隔を開けて座った。
確かに、案外ここは涼しかった。
心地よい場所、穏やかな気持ちになれる場所を見つけるのが上手いが 考えが似ているのだろう
しかし、遭遇する率が高かった。
猫のように1人になれる場所を探しふらりふらり。
人が多い場所を好まないのはコイツらしい。
サボるには好都合。
無駄口も悪くはない。そう思える。今は。
頭脳明晰ではないが 容姿端麗 眉目秀麗とはこの事なんだろう…と 抜刀斎を改めて観察する。
幕末の頃は、真夜中に斬り合い
あまりコイツの顔なんぞ興味が無かったが、遠くから見ても近くから見ても女顔だと思えた。
頬の十字傷を指でなぞる。
「なんでござるか急に」
「…阿呆面」
「はぁ〜〜〜〜?」
「…………阿呆だな」
ー自分がー
独り言ちる。
手が伸びていた。自分でも驚いた。
有り得ない。なにをそう思って触れたのか…。
今更…
この感情を抱くなどと…
莫迦らしい。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「仕事に戻る」 と
一服し終え、さっさと立ち去った サボり警官。
「一体…何しに来たんだか…」
煙草の匂いは、風に運ばれ消えていった。
何を意味するのか
何を考えているのか
まったく分からない…けれど、
頬の十字傷をなぞった斎の表情は、穏やかであった。
「調子狂うでござるな…はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
頬が熱い。
蓋をしていたのに… 茹だる どろどろ、と。
溶かして 身体を蝕む
どろどろ、と。