4月1日「抜刀斎 ツラ貸せ」
いきなり颯爽と神谷道場に現れた斎藤一は、洗濯物を干している緋村剣心を有無を言わさず首根っこ掴んで瞬く間に連れ去った。
「この緋色の生地がいいだろ さり気ない金色の刺繍も目立たなくていい コイツを採寸してくれ」
と、仙人のようなフサフサの眉とお髭の少老の店主に頼む。
斎藤に連れて行かれた場所は、とある呉服屋。
「拙者、一文無しでござるよ…?とてもじゃないが払えぬ」
「俺が払う。お前に借りを返すだけだ
黙って採寸されてろ」
「…おろ」
数ヶ月前、敵との戦闘で 間一髪の攻撃を斎藤は緋村によって庇われ怪我を負わしてしまった。
「貸し1でござる」とぬかされ、腹ただしく思えた斎藤だったが緋村に助けられた事実は覆す事は出来ない。
そして、自分が敵に隙を与えてしまったのも原因の始まり。男として、筋は通さなければいけない。
「思っていた以上に小柄じゃな」と少老の店主は、緋村のコンプレックスをグサグサ突く。
淡々と熟年の手慣れた手つきで、緋村を測り体型が数字に現れる。
斎藤は鼻で笑っていたが、
着物を買ってくれるので何も言い返せず俯くしかなかった。
「では、これを」
店主から斎藤が選んだ着物を受け取る。
くたびれた着物を脱ぎ捨て、
新しい緋色の着物に腕を通す。とても肌馴染みもよく生地の風合いや絹独特のツヤや光沢が格段に美しく、触ってみてもはっきりわかる。
金色の刺繍も 斎藤の言う通りそこまで目立つ程の金色じゃないのが良い…が、少し拙者には勿体ないと思った。
「うむ、お似合いじゃな 緋色の髪に似合う 」
「あ、ありがとうございます……」
気恥しいが店主に礼を言う。
店主は目を細め満足気に頷いた。
斎藤も満更でもない顔をしている。
「フッ俺が選んだからな 似合うに決まっているだろう?じぃさん このまま着て帰ってもいいか」
「気に入ってなりよりじゃ」
少老の店主にお代を払いさっさと外に出る斎藤。
「いいご主人をもって良いのぉ」
と、少老の店主は去る斎藤を見て言った。
「おろっ…!?
いや、拙者と斎藤は そういう仲ではなくて斎藤とは腐れ縁で べつにまだ……
…まだ??
違うでござるよっ!」
「あんりゃ、とても大事な人に贈る目をしておったぞ?」
「斎藤が?」
「お主 気付いてないとは……ハッハッハッ!
ワシが生きているうちにまた来てくださいな ハッハッハッハッ!!!」
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ひらひらと桜が舞い 花見を楽しむ人々の笑い声の中、斎藤と緋村は並んで歩く。
斎藤に買ってもらった着物はふわっと桜と共に風で靡く。
「斎藤、さっきの仙人みたいな店主が
お前をいいご主人と言っていたぞ…夫婦と間違えられたでござるよ…っ」
「いいじゃねぇか」
その返答に驚き、緋村は斎藤を見上げる。
斎藤は緋村の髪に手を伸ばし
遊ぶように指先を絡ませる。
「 夫婦だって
言っといてもよかったんだぜ」
「はぁ?」
ますます分からない緋村は、眉の皺が深くなる。
「お前…知らないのか ?」
「何を…?」
「4月1日は嘘をついてもいい日だ
嘘をついてもバチは当たらねぇ日だよ」
そう言うと桜が舞う花道で
斎藤は 穏やかな顔して
緋村に深く口付けをした。