忘れないでくれ「ほらココ、チュー……」
バイク屋の硬いソファーに寝転がり目を閉じる。唇を差し出して濡れた感触を待っているが、実際に触れたのは弾力のある柔らかなものだった。
それが唇じゃないことを乾は知って、ぎろりと目を剥きココを睨み付けた。
黄金色をした透き通る瞳に黒い身体。唇にはピンク色の肉球が添えられ、悪気もなくパチパチと瞬きをする。
裏口からガタン、と重い鉄扉が閉まる音がなると、しっかり掴んでいたはずのココは手の中を抜け出し駆けて行く。
そして炎天下に蒸され汗だくになった龍宮寺の足にピョンと飛び付いた。
「うおっ! コラ、暑ぃだろ。くっつくなって」
どんよりとした梅雨が終わり、ここ最近は真夏日が続いている。店はクーラーの人工的な風で涼しいが、体内はずっと熱を持っているような感じがした。
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